タオルのお礼(中)
「……遅い」
放課後、いつものように彼女を待っているのだが、その子が一向にくる気配がない。いつもなら終わって10分もしないうちに来るけど…
まぁ、いつもが早すぎるだけかもしれないし
そう思って待っていると一人の女子生徒に声をかけられた
「あ、いた。ごめんなさい探してたら遅くなっちゃって…」
「…?」
正直どこかで見たことあるようなないような顔だ。
しかし、俺はこの子と何か約束した覚えがない
…人違い?
そんな俺の反応をみてか何かを察したその女子生徒は説明を始めた
「あー覚えてないですよね、私はあれです、郁の友達で平井 琳と言います、どうぞよろしく」
ペコッと頭を下げられて反射的に俺も頭を下げる
…郁の友達?何で
「あの、あの子今保健室で寝ててまだ起きないのでその報告に」
「…っ!」
…なんで、保健室?
「どこか、具合が悪いとか」
「あぁえーと、それはなんというか」
なんとも複雑な顔をしたその子…平井 琳は言葉を濁した
「そうだ、今からこの郁の荷物保健室に届けるんですけど一緒に行きましょう」
「……は?」
突然の申し出に思わずマヌケな声が出た
「どうせ保健室に行くなら行く途中で話しますよ。…まぁ、保健室に寄る気がなかったならここでお話ししますけど」
…多分、いや絶対今この子の近辺の空気の温度がスッと下がった。
「…行く」
「そうですか」
そう言ってその子はにっこりと笑った……さっきの笑顔はなんだか怖かった
そして歩き出したその子が持っている郁の荷物を受け取り、話をはじめてもらうことにした
「…と、いうわけなんですよ」
「……。」
歩いている途中、この子から理由を聞いて、思わず言葉を失った
……なにやってるの、あの子
どうやらこの間貸したタオルのお礼にお菓子を作ったらしく、寝不足なんだそうだ
俺はなんだか頭が痛くなってきた、なんでそんな思い立った日に作ったの…急ぎじゃないんだしもっと時間のある時に、というかお礼なんてわざわざする必要もないのに
「…バカなの」
はぁ、っと息を吐き出すと隣の子が同感ですね、と頷いてきた。…聞こえてたみたいだ
「私も思いました、でもそんなになるのって……」
「?」
そこで急に静かになった彼女を不思議に思って見ると突然こちらを向いてきて
「あの子は、郁はそれだけあなたの事が好きなんでしょうね」
「……はっ!?」
それだけ言うと、もうこちらを見向きもせず保健室へ入っていった
…………なんだったの、今の
なんだかもうすでに疲れ切った俺は彼女について行くように保健室のドアを開けた
今回は藤咲くん視点です




