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大罪と美徳 短編集  作者: 秋雨
シリアス系
26/31

悲愴と絶望の狂想曲

はい、支倉ひばりと東城太助の対峙です。

祭事の学園都市で、太助を掘り下げて--培った物を、出してみました。

場面的には、本編の世界崩壊後での対峙です

「もうやめてください、東城さん……こんな事したって、誰も笑顔になんてなれない!」

「やめるのは君の方だよ、支倉ひばり――そんな事したって、何の意味もないさ」


太助は表情も変えず、ひばりの懇願に対してそう返した。

膝を折る太助の眼前に、ひばりが銃を突きつける体勢にもかかわらず、表情を微塵も崩さないままで。


「――僕達のやってる事は、間違ってなんかいなかった。それが証明されても尚、君はそれを受け入れないのかい?」

「間違ってる、何て言うつもりは最初からありません……だけどあたしは、それが答えだなんて認めない」

「やめときなよ――人に君の意思を受け入れるだけの器はないし、既に救いの手は食い散らされた。もう人に未来はない」

「だったらあたしが……いえ、あたし達が」

「――人がとって救いの手なんて、迷惑以外の何物でもないよ」


眼前に突きつけられた銃に、太助は手を添える。

それをどかそうともせず、ただ添えるだけのままで、ひばりの眼を見据えながらそう告げた。


ひばりはひばりで、自分の眼を見据える太助の眼に、

人の眼には感情が宿る物――だと言うのに、太助の眼にはそれが全くない。


本当に東城太助にはもう、何もないとひばりは直感した。


「――人も世界も、もう変わらない物だと、そう言うんですか?」

「変われない、の方が正しいかもね……“自分さえ無事でさえあれば、他何てどうなっても構わない”のなら」

「東城さん、人はそんな人ばかりじゃ……」

「そうだね、そんな人ばかりじゃないさ――けどいずれは僕達の様に見捨てられ、そう言う人間ばかりになるさ。現実と他人の意思を無視するには、迷惑だと罵ればいいだけなんだから」


添えた手に力を込めて、太助はそっと――笑みを浮かべた。


「だからね、もう終わろうよ――あくまで自分達の非を認められない、現実を見る事が出来ないのなら、もうこれ以上になれないんだ」

「……」

「子供を産んだだけじゃ、親にはなれない。王位を手にしただけで、王にはなれない――その理を無視し、責任さえも他人に押し付けて逃げ続け、あくまで繁栄や成長とは名ばかりの私利私欲に溺れ続けた結果だ。逃げる事も否定する事も、出来ない筈だよ?」

「――そうですね」


俯いたひばりの言葉に、太助は――ゆっくりと立ち上がった。


「わかってくれたかい?」

「貴方の言葉、否定する訳にはいかない――だけど、あたしは人を否定する気はありません。だから、貴方の意を汲む訳にはいかないんです」

「……その理由、出来れば正直に言って貰えないかな? ――出来ないなら出来ないでいいからさ」

「ある人と、約束したんです――だからあたしは、人の笑顔を守る事、取り戻す事を諦められないし、諦めたくないんです」

「……そうかい。ならもう、仕方ない事みたいだね」


残念そうに苦笑すると同時に、太助の右腕が膨張し始めた。

節足なのか骨格なのか、それとも肉の塊なのかも区別がつけられない様な形に変貌し、まるでそこだけが独立した生物になったかのように、蠢き始める。


「久しぶりだよ、こんな感覚――人に拒絶されるのは、もう慣れた筈なのにね」

「――! 東城さん……泣いて」

「北郷正輝の死で、もう枯れたと思ったのにね……まあいい。君を殺すのは、一体どれだけ辛い物になるのかな?」

「東城さん……お願いです。今からでもこんな事やめて、もう一度最初からやり直しましょう――あたしの為に泣いてくれる人と、戦いたくなんてありません!」

「もう遅いよ――それに、君もわかるだろう? 僕と君は、根っこで同じなんだって」


左腕までもが、右腕の様に膨張し、右腕と同じような異形に変貌して、蠢き始める。


「――我、“魔王”東城太助……全てに裏切られ、見捨てられ、絶望し……全てを憎む異形」

「東城さん――ごめんなさい!」


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