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大罪と美徳 短編集  作者: 秋雨
シリアス系
22/31

強欲と誠実のティータイム

「タロットを肌身離さず、か――相変わらず、クソ真面目だねえ」


椅子に座り、テーブルの上に並べる予知能力の媒体である、タロットカード。

誠実の契約者、御影凪の必需品にして、能力の要。


それを覗き込みながら、強欲の契約者、武田シバはからかう様に問いかけた。


「――武田か」

「で、何が見えるんだ? ――ちったあマシな未来は見えたか?」


“未来”を司る美徳。

御影凪は、最強の予知能力者にして、最強の思念獣使い。


「――いや、何も変わっていない」

「そうかい……まだまだ北郷は必要とされている、か」

「――そう言う事だな」


淡々と返す凪だが、シバは対である彼を理解していた。

感情だけで動くほど短絡的ではないし、仕方がないで全てを受け入れる薄情でもない。


どこかで折り合いをつけねば、いつかは破綻する。

今やっている事は、そう言う事なのだから――だからシバは、問いかける。


「で……お前は正義の方針を実行できるのか?」


正義と同盟を組んでいる……それはそう言う事だ。

いつかは、破滅を――滅びを齎さねばならなくなる。


「やらねばなるまい。私とて守るべき同胞たちも市民達も居るのだ」


それを理解した上で、凪は正義に賛同しているが故に、迷いはなかった


「――生きていれば良い、等と言う気はない。だが堕ちる位なら、欲望など斬り捨てた方がいいかもしれんからな」


ペラっとタロットをめくり――はあっとため息をついて、凪は深呼吸を。


「――賛同してる部分は確かにあるんだな?」

「ない訳がなかろう。確かに全面的に肯定は出来ないが――己の欲望、怒り、悲愴と言った負の念に囚われ、人である事を見失い堕ちる姿を、同胞や住人達に晒しさせるよりはな」

「ふっ、ふふふっ……ぷっ、あーっはははははははははは!!」

「――何がおかしい?」

「いや、別に今のがおかしいって訳じゃねえよ。ただ、欲望を斬り捨てて無為に生きるか、北郷殺して堕ちるかって、どれをとっても人じゃいられねえなんて、一体どんな無茶ぶりな選択肢だよってなあ」

「――だが事実だ」


カードをシャッフルし、再度カードを並べ――対面に座ったシバに、用意しておいたカップに紅茶を注ぎ、差し出す。

笑ってのどが渇いていたのか、シバは一口。


「じゃあお前の結論として、オレ達には堕ちる未来しかないってコトかよ」

「そうだ――それに人は、人である事を忘れれば……堕ちてしまえば生き恥を晒すことにも気付かず、暴走するだけだ。そうなれば、人として生きる事等絶対に出来ない」

「――ま、違いないわな。血の味を知る事と覚える事は違うし、魅入られちまえば確実に人であろうとする事自体に無理が出る」

「それと同じだ――どう生きようと勝手かも知れんが、私は同胞たちにも住人達にも、そんな姿を見たくもなければ晒したくもない。彼らと生きた時間は人としての物だ……人でなくなればその人達を裏切り、傷つけるだけだ。私は彼らも、彼らと過ごした日々をも守りたい。“だから”堕ちる事を選ぶ訳にはいかない」


シバは紅茶を飲み干し、ぱちぱちと拍手。


「素晴らしいな――どんなに金を積んだって、手に入らないモノだぜそれは」

「金で測るな」

「悪い悪い。けど――不器用だな」

「--不器用だから誠実だ」

「へいへい--しかし、このお茶うまいな。お変わりもらって良いか? --これ、さっき買ったクッキー出すから」

「--ほら」


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