強欲と誠実のティータイム
「タロットを肌身離さず、か――相変わらず、クソ真面目だねえ」
椅子に座り、テーブルの上に並べる予知能力の媒体である、タロットカード。
誠実の契約者、御影凪の必需品にして、能力の要。
それを覗き込みながら、強欲の契約者、武田シバはからかう様に問いかけた。
「――武田か」
「で、何が見えるんだ? ――ちったあマシな未来は見えたか?」
“未来”を司る美徳。
御影凪は、最強の予知能力者にして、最強の思念獣使い。
「――いや、何も変わっていない」
「そうかい……まだまだ北郷は必要とされている、か」
「――そう言う事だな」
淡々と返す凪だが、シバは対である彼を理解していた。
感情だけで動くほど短絡的ではないし、仕方がないで全てを受け入れる薄情でもない。
どこかで折り合いをつけねば、いつかは破綻する。
今やっている事は、そう言う事なのだから――だからシバは、問いかける。
「で……お前は正義の方針を実行できるのか?」
正義と同盟を組んでいる……それはそう言う事だ。
いつかは、破滅を――滅びを齎さねばならなくなる。
「やらねばなるまい。私とて守るべき同胞たちも市民達も居るのだ」
それを理解した上で、凪は正義に賛同しているが故に、迷いはなかった
「――生きていれば良い、等と言う気はない。だが堕ちる位なら、欲望など斬り捨てた方がいいかもしれんからな」
ペラっとタロットをめくり――はあっとため息をついて、凪は深呼吸を。
「――賛同してる部分は確かにあるんだな?」
「ない訳がなかろう。確かに全面的に肯定は出来ないが――己の欲望、怒り、悲愴と言った負の念に囚われ、人である事を見失い堕ちる姿を、同胞や住人達に晒しさせるよりはな」
「ふっ、ふふふっ……ぷっ、あーっはははははははははは!!」
「――何がおかしい?」
「いや、別に今のがおかしいって訳じゃねえよ。ただ、欲望を斬り捨てて無為に生きるか、北郷殺して堕ちるかって、どれをとっても人じゃいられねえなんて、一体どんな無茶ぶりな選択肢だよってなあ」
「――だが事実だ」
カードをシャッフルし、再度カードを並べ――対面に座ったシバに、用意しておいたカップに紅茶を注ぎ、差し出す。
笑ってのどが渇いていたのか、シバは一口。
「じゃあお前の結論として、オレ達には堕ちる未来しかないってコトかよ」
「そうだ――それに人は、人である事を忘れれば……堕ちてしまえば生き恥を晒すことにも気付かず、暴走するだけだ。そうなれば、人として生きる事等絶対に出来ない」
「――ま、違いないわな。血の味を知る事と覚える事は違うし、魅入られちまえば確実に人であろうとする事自体に無理が出る」
「それと同じだ――どう生きようと勝手かも知れんが、私は同胞たちにも住人達にも、そんな姿を見たくもなければ晒したくもない。彼らと生きた時間は人としての物だ……人でなくなればその人達を裏切り、傷つけるだけだ。私は彼らも、彼らと過ごした日々をも守りたい。“だから”堕ちる事を選ぶ訳にはいかない」
シバは紅茶を飲み干し、ぱちぱちと拍手。
「素晴らしいな――どんなに金を積んだって、手に入らないモノだぜそれは」
「金で測るな」
「悪い悪い。けど――不器用だな」
「--不器用だから誠実だ」
「へいへい--しかし、このお茶うまいな。お変わりもらって良いか? --これ、さっき買ったクッキー出すから」
「--ほら」




