表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪と美徳 短編集  作者: 秋雨
日常ストーリー
2/31

誠実の契約者、御影凪の1日

「凪さん、報告書を持ってきました」

「ああ、そこに置いてくれればいい」


下級系譜ながら、誠実の契約者である御影凪の手伝いをする少年、東郷龍清。

各所から寄せられてきた報告書の束を手に、凪の執務室へとやって来ていた。


「きゅう♪」

「あっ、こら! ダメだよ春清」

「おっと……ははっ、主人と違いやんちゃだな」

「すみません……あれ? それ、お見合い写真ですか?」


凪に飛びかかって、懐く様にすり寄る春清を引き剥がすと、龍清はふと凪の持っている物に眼を向ける。


「目位は通しておかねば、わざわざ送ってくれた方々に失礼だからな」

「それにしても、すごい量ですね」

「お前も上級系譜になれば、すぐに来るさ」

「そんな、恐れ多いですよ。僕なんかが上級系譜だなんて」

「やれやれ……そんな事でどうする? 系譜格とて、誰もがなれる訳ではないぞ?」


フードの下で苦笑しながら、凪は龍清の頭をガシガシと撫でる。


「わっぷ!」

「――さて、食事の時間だ。一緒に来るか?」

「あっ、はい」



――そして


「いらっしゃ……これはこれは、凪様! それに、龍清君も」

「2人分の席を頼めますか?」

「はい、こちらへ」


行きつけの食堂へと赴き、それぞれ注文を取り――


「――見て、凪様よ」

「ホントだ。今日も龍清君と一緒なのね」

「良いなあ龍清君、凪様と一緒だなんて」

「私も凪様のお傍にいたいなあ」


所々から聞こえる、凪目当ての黄色い声。


凪はナワバリ内では、特に女性からの人気が高く、彼の行く先々では女性の黄色い声が絶えない。

その所為か、外を出歩く時の龍清は肩身が狭かった。


「……凪さん、相変わらずモテますね」

「結果としてそうなっているだけだ。特別な事をする必要はどこにもない」

「――本当にそうなんでしょうか?」


苦笑しながらそう呟き――


「どうした? 冷めるぞ」

「あっ、はい」


一先ず、眼の前の食事にとりかかった。



――その帰り道。


「すみません、ご馳走になって」

「構わんさ。お前はもっと食べて、身体づくりに励んだ方がいい」

「……出来たら苦労しませんよ」


完全にきこむような服装の内で、唯一露出している指輪をはめ、タトゥーを刻んでいる凪の腕は鍛えられている事が見てわかる程。

それに対し、龍清は年不相応に小さく、身体能力は完全にブレイカー頼み。


「あっ、そうだ。今日は確か――ん?」


ふと龍清が見た先――そこには、ベンチに腰掛けている女性。

それは遠目に見ても、今にも泣き出しそうな雰囲気であった。


「……」


それを見た凪は、愛用のタロットカードを取り出し――シャッフルし始める。

そして手を止め、一枚を手にとり――その女性に歩み寄り、その1枚を差し出す。


「……何よ?」

「――貴方の導だ」

「同情ならやめて!」

「……失礼した」

「…………待って! 貴方は、まさか」

「通りすがりの占い師だ――だが占いで出来るのは、あくまで手を差し伸べるだけ」


そう言うと凪は、次にハンカチを女性に差し出す。


「――差し伸べる手を取るかどうかは、貴方次第」

「私、次第……うっ……うぅっ……うわぁぁぁあああっ!」


「……またですか」

「またとは何だ?」

「いえ……確かに人助けですし、男の人にも同じようにしますけど」


ちらりと龍清は、泣きやんだらしい女性に目を向け――見覚えがあり過ぎる凪を見る目を見て、はあっとため息をついた。


「……あの、いつかまた占って頂けますか?」

「ええ、喜んで」

「――ありがとう、ございます」


そう言って、女性は去って行った。


「――凪さんにとっては、手を差し伸べただけかもしれないけど……人望って、こういう所に現れるのかな?」

「龍清、何をしている? 帰るぞ」

「あっ、はい!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ