誠実の契約者、御影凪の1日
「凪さん、報告書を持ってきました」
「ああ、そこに置いてくれればいい」
下級系譜ながら、誠実の契約者である御影凪の手伝いをする少年、東郷龍清。
各所から寄せられてきた報告書の束を手に、凪の執務室へとやって来ていた。
「きゅう♪」
「あっ、こら! ダメだよ春清」
「おっと……ははっ、主人と違いやんちゃだな」
「すみません……あれ? それ、お見合い写真ですか?」
凪に飛びかかって、懐く様にすり寄る春清を引き剥がすと、龍清はふと凪の持っている物に眼を向ける。
「目位は通しておかねば、わざわざ送ってくれた方々に失礼だからな」
「それにしても、すごい量ですね」
「お前も上級系譜になれば、すぐに来るさ」
「そんな、恐れ多いですよ。僕なんかが上級系譜だなんて」
「やれやれ……そんな事でどうする? 系譜格とて、誰もがなれる訳ではないぞ?」
フードの下で苦笑しながら、凪は龍清の頭をガシガシと撫でる。
「わっぷ!」
「――さて、食事の時間だ。一緒に来るか?」
「あっ、はい」
――そして
「いらっしゃ……これはこれは、凪様! それに、龍清君も」
「2人分の席を頼めますか?」
「はい、こちらへ」
行きつけの食堂へと赴き、それぞれ注文を取り――
「――見て、凪様よ」
「ホントだ。今日も龍清君と一緒なのね」
「良いなあ龍清君、凪様と一緒だなんて」
「私も凪様のお傍にいたいなあ」
所々から聞こえる、凪目当ての黄色い声。
凪はナワバリ内では、特に女性からの人気が高く、彼の行く先々では女性の黄色い声が絶えない。
その所為か、外を出歩く時の龍清は肩身が狭かった。
「……凪さん、相変わらずモテますね」
「結果としてそうなっているだけだ。特別な事をする必要はどこにもない」
「――本当にそうなんでしょうか?」
苦笑しながらそう呟き――
「どうした? 冷めるぞ」
「あっ、はい」
一先ず、眼の前の食事にとりかかった。
――その帰り道。
「すみません、ご馳走になって」
「構わんさ。お前はもっと食べて、身体づくりに励んだ方がいい」
「……出来たら苦労しませんよ」
完全にきこむような服装の内で、唯一露出している指輪をはめ、タトゥーを刻んでいる凪の腕は鍛えられている事が見てわかる程。
それに対し、龍清は年不相応に小さく、身体能力は完全にブレイカー頼み。
「あっ、そうだ。今日は確か――ん?」
ふと龍清が見た先――そこには、ベンチに腰掛けている女性。
それは遠目に見ても、今にも泣き出しそうな雰囲気であった。
「……」
それを見た凪は、愛用のタロットカードを取り出し――シャッフルし始める。
そして手を止め、一枚を手にとり――その女性に歩み寄り、その1枚を差し出す。
「……何よ?」
「――貴方の導だ」
「同情ならやめて!」
「……失礼した」
「…………待って! 貴方は、まさか」
「通りすがりの占い師だ――だが占いで出来るのは、あくまで手を差し伸べるだけ」
そう言うと凪は、次にハンカチを女性に差し出す。
「――差し伸べる手を取るかどうかは、貴方次第」
「私、次第……うっ……うぅっ……うわぁぁぁあああっ!」
「……またですか」
「またとは何だ?」
「いえ……確かに人助けですし、男の人にも同じようにしますけど」
ちらりと龍清は、泣きやんだらしい女性に目を向け――見覚えがあり過ぎる凪を見る目を見て、はあっとため息をついた。
「……あの、いつかまた占って頂けますか?」
「ええ、喜んで」
「――ありがとう、ございます」
そう言って、女性は去って行った。
「――凪さんにとっては、手を差し伸べただけかもしれないけど……人望って、こういう所に現れるのかな?」
「龍清、何をしている? 帰るぞ」
「あっ、はい!」