憤怒と慈愛の穏やかな休日 (冬の1日編)
降り積もる雪。
契約者社会において、雪を連想するならば――
「――? あの、どうかされましたか?」
「いや――」
傘を差し、着物姿が板に就いた、落ちついた雰囲気の女性。
慈愛の契約者、水鏡怜奈。
最強の氷結能力及び、水の特性全てを使いこなす、“氷海”を司る最強の1人。
そんな彼女の、雪のように白い手をみて――朝霧裕樹が思った事。
「水鏡の手って、ホントに白くて綺麗だな」
「――いきなりなんですか?」
「雪を見て、なんとなく連想しただけだ」
「ワタクシは、元々が色白なので。それに手は……あまり綺麗な方ではありません」
怜奈は武器として、長刀を使う。
それも、最強格として十分に通用するほどの技量を持っている
なので当然、その手には……
「良いだろ別に。武器を手にしてんだから、手がタコでごつごつしてる位、当たり前だろ」
「――朝霧さんらしい、デリカシーが致命的にない発言ですね」
「何気に毒吐くな! ってか、全部整ってるから……うっ、美しい、なんてのは美術品じゃねえか。無機質な……びっ、美なんて、お前に似合わねえよ」
裕樹の怒鳴るようで言いあぐねる言葉に、じと目だった怜奈はくすりと笑い――
「朝霧さん、恥ずかしくありません?」
「恥ずかしいから言いあぐねたんだよ!」
「女性に対して、禁句にセクハラ発言は平然と言う御方なのに、ですか?」
「ったく、なんで女ってのはこう変な所で始末が悪いんだか?」
「そう言う事を言うからです」
「……あーはいはい」
これ以上は言い負かされるだけだと悟った裕樹は、肩をすくめて右手に炎を灯す。
雪の降り注ぐ中での怜奈は、裕樹も絵になると思って遠慮していたが、気分が削がれた為に暖をとる事を優先させる。
「うーっ、寒」
「――本当に寒いですね」
裕樹の手に灯った炎の暖をとろうと、怜奈が裕樹に寄り添う。
「――無防備だな」
「誰にでもこんなことしません。少しは雰囲気読んでください」
「はいはい」
「――今度恋愛小説を贈りますので、しっかり読んでおいてください。キチンと理解出来たかは、支倉さんに添削して貰ったうえで」




