吉田鷹久、両手に花の休日を過ごすのこと(4)
「……酷い目に遭いました」
既に男性物の服に着替えた蓮華は、疲労しきっていた。
項垂れこそしないが、それでも雰囲気的には隠せていない。
「大丈夫……じゃ、なさそうですね?」
「当たり前です……貴方もこの場でスカートをはけば、絶対に理解出来ます」
「何気に恐ろしい提案言わないでください――考えてみたら、男性物しか着た事無いなら、針のむしろなのも無理ないか」
「そう言う事です」
「ま、いきなり公の場ってのは難易度高過ぎたって事か。その辺りはあたし達もちょっと無神経だったな」
そう言った綾香は、今は女性物のスーツを着ていた。
髪は店長の手で後ろでまとめられ、ダテメガネをかけたキャリアウーマン風のコーディネートを施されて。
「ダメです」
「なあ、ボタ……って、早いだろ!」
「これでもダテメガネ以外は、夏目さん好みに合わせたんですよ?」
「まあ、そりゃあ……堅苦しくはあるけど、いっつも着せられてるスーツとかより、動きやすいし」
「それでですね、次は……」
「……って、なんで仕事着選びになってんだよ?」
嬉々としてスーツ系の服を選び始めた店長に、綾香はツッコミを入れる。
「――ああいうのは慣れてるんですけどね」
「そう言えば蓮華さんって、普段は執事服を普通に着こなしてる位ですから、スーツ位は簡単に着こなしそうですね」
「ええ。普段、怜奈様の身の回りのお世話(料理を除いて)を任されてますので、服の着こなしは存じております ――女性物とスカート以外は」
「――そう言えば怜奈さんって、着物とかの和服ばっかりで、ドレスとか着てる所って見た事も聞いた事もないなあ」
「怜奈様は和装がお好きですので」
そう言って蓮華は、髪を束ねて三つ編みに結び始めた。
「そう言えば、なんでおさげに?」
「執事服にしっくりくる髪がおさげだっただけです。髪は怜奈様の勧めで伸ばしたのですが――えっと、鏡は」
「あっ、なんでしたら僕がやりましょうか?」
「え? ――あっ、ちょっと!?」
そう言う間に、鷹久は蓮華の後ろに回り、髪を三つ編みに結び始める。
最後はゴムで止めて――
「――ちょっと不格好かな? やっぱり久しぶりだと、こんなものかな?」
「いえ、これで結構です――が、なんで結べるんですか?」
「昔、綾香に色々な髪形を結ばされた事があって」
「――髪をって」
「綾香ってぞんざいで、髪をろくに乾かそうともしないから、僕がやってあげてるんです。それでひょんなことから、いろんな髪形を結んでみようって話になって――」
「…………」
「? あの、どうしました?」
「――吉田さんと夏目さんの関係に、男女の感覚がない事が良くわかっただけです」
「言われてみると、そうかも……ん?」
ふと鷹久が言葉を斬り、足元――床に眼を向ける。
蓮華もそれに続く様に、自身のカバン(丈夫なのスポーツバッグ)から、愛用のメイスを取りだした。
「なあタカ、蓮華!」
「ええ――店長さん、ここに地下階はありますか?」
「? いいえ。パソコンに、照明の為の配線を通しているスペースがある位で」
「――決まりだね。綾香、すぐに……」
「いいえ、私に任せて下さい」
蓮華がメイスを逆手に持ち、その先端をこつんと床に当て――
「――!? 何!?」
「冷やっ!?」
店中から、突如寒さを訴える様な声が響く。
「――店長さん、床下に入る手段はありますか?」
「え? ええ。こちらに……」
「それと、上着を。中は冷凍庫になってますから」
「――あの様子じゃ、もう解決だね。綾香」
「ん、わかった――ああもしもし、覗き犯人確保したから引き取りに来てくれないか? 場所は――」




