吉田鷹久、両手に花の休日を過ごすのこと(3)
「いらっしゃいませ――あの、店長!」
「あっ、違う違う。視察とかじゃなくて、今日は客として来たんだ」
「――こういう時に立場あると、窮屈だよね」
店員の女性が出迎え、2人を見るなり店長を呼んで――
上級系譜という地位にある手前、こういう展開は日常茶飯事の2人だった。
「この度はご来店、どうもありがとうございます」
「いえ、お騒がせしてすみません。あの、服を見つくろって貰ってもよろしいですか?」
「かしこまりました。でしたら、こちらへどうぞ夏目さん」
「いや、あたしじゃないよ。こっち」
「うわっ!」
店長直々の接客となり、鷹久の頼みを受けて綾香に声をかけ――
その綾香は、蓮華の腕を取って店長の前に引き寄せる。
「――? ……あっ! まさか、黛蓮華さん!?」
「えっ……ええ、そうです」
「蓮華っていつも男物だろ? だからさ、たまにはこうして女の子らしい格好をって」
「成程――でしたら、是非私にお任せを!」
「そっ、そんな……」
何やら火がついたらしい店長の剣幕に押され、蓮華は有無を言えなくなった。
「綾香もやって貰いなよ」
「え?」
「そうですね。夏目さんも素材が良いのにもったいないと、常々思ってました」
「いや、あたしは……」
「夏目さん、私も同意見です。一緒に来てください」
鷹久の提案に、店長も乗り気になり、蓮華も便乗して綾香の肩を掴む。
そして、蓮華に引きずられる形で綾香も店内へ。
「……これで少しくらい、綾香にも女性らしさが身についてくれればいいんだけど」
「……吉田さんも隅に置けないわね。夏目さんだけじゃなくて、まさか慈愛の黛蓮華さんまでなんて」
「でも意外ね。吉田さんはてっきり、夏目さん一筋だと思ってたのに」
「私もそう思うけど、本命はやっぱり夏目さんでしょ?」
「普段を考えると、そう思うよね――実際どうなんだろ?」
「実際も何も、上級系譜以上って重婚許可されてなかったっけ?」
「…………って、ちょっと待ってください」
――このブティック女性物の専門店な為、男性1人で居るにはきつい物があった。
「……なんであたしまで」
「文句言わないでください。そもそも貴方も女性でしょう?」
「あたしは良いんだよ。そもそも性格的にこういうの合わないんだから」
「私は雰囲気的にあってないのですが?」
「お2人とも、素材としては一級品です。これで十分でしょう?」
2人の会話を店長が遮り、まずは1着手渡される。
「では、こちらを」
「…………えっと」
「女性物の服を着た事がないと言うのは少々驚きましたが、でしたらまずはシンプルな物で」
それを受け取った蓮華は、少々躊躇を見せた。
物自体は、白地のシンプルな作りの清涼感を醸し出す、ワンピース。
「…………」
「どうしたよ? まさか上級系譜ともあろう方が」
「……すみませんが、夏目さん。着付けを手伝ってはもらえませんか?」
「ああっ、良いぜ」
そう言って2人は試着室へ。
「――大丈夫かな?」
「大丈夫です。私にお任せください」
「いや、そっちじゃなくて……」
「へえっ、蓮華って結構スリムなんだな」
「ちょっ、どこ触って――!?」
「…………すみません。出てきたら教えてもらえますか?」
「……かしこまりました」
バサッ!
「ようタカ! お待ちかねの――って、なんで耳塞いで眼を瞑ってんだ?」
「貴女の所為です! ――思ったよりも、なんか落ちつかない」
カーテンを開いた綾香に、蓮華がツッコミを入れる。
白地のシンプルな、そして膝丈の長さのスカートのワンピース。
そして普段背中まで伸ばし、おさげにしてる髪を解いて、流れるようなロングヘアーを披露した姿で。
「……へえっ、よく似合ってるじゃないですか」
「――!?」
「だってよ。良かったな」
「…………///」
スカートを抑え、顔を真っ赤にしながら、蓮華は晒し者の気分で立ち尽くしていた。




