吉田鷹久、両手に花の休日を過ごすのこと(2)
ひょんなことから、綾香に蓮華と両手の花の休暇を過ごすことになった鷹久。
……であるが
「周囲からはやはり、夏目さんが両手に花……の様に見えるようですね」
「それは……悪い、無理ないと思う」
「うん……僕もそう思う。蓮華さんって美人だけど、中性的だからね。増してや男性物の服が様になってるから、完全に美男子って感じだよ」
「いえ、これ位なら……怜奈様やつぐみ、ティナと2人の時に慣れてますから」
両手に花――周囲からその単語こそ出ていても、それは鷹久ではなく綾香に向けられていた。
「大丈夫。そのイメージを変える為に、今から服屋で女物の服を買いに行くんだろ?」
「――ですが、着こなせるかどうかは別ですよ」
「大丈夫、あたしだって女らしい格好の1つや2つ出来る」
「綾香、握り拳を突き出して言う事じゃないよ」
「うっさい!」
「と言うかそれ以前に、まさか綾香が女性らしさを教える日が来るなんて」
「それに関しては否定しないけど、そんなハッキリ言うなよ!」
「……勇気の上級系譜はラブラブ従姉弟と言うのは、あながち間違いではなさそうですね」
――いつの間にか、おいてけぼりな蓮華がポツリとそう呟いた。
「……喉乾いたな」
「言われてみれば、そうだね――あっ、丁度自販機あるみたいだし、買っていこうよ」
「そうだな。んじゃ……げっ、あたしの好きなの品切れかよ」
「間が悪かったね。今入れるみたいだよ」
そう言った鷹久の視線の先には、飲料会社のペイント入りのトラックが。
綾香がやれやれと仕方なさそうにすると、蓮華が――
「どちらの飲み物が飲みたいのですか?」
「え? これだけど――今から入れるみたいだし、諦めるよ」
「いえ、ちょっと待ちましょう」
そう言って、自販機の業者が飲み物を入れ終えると、入れ替わる様に蓮華は自販機で綾香が飲みたいと言った飲料を買う。
そして……
「――どうぞ」
「おっ、おう……冷た?」
そう言って、綾香が受け取った飲み物は、冷蔵されたかのような冷たさだった。
「そう言えば蓮華さんって、氷の能力を使うんでしたね?」
「ええ。飲み物を冷やす程度、造作もない事です」
「属性系って、こういうとき便利だよな」
「便利でない能力なんてありませんよ――そして便利な能力程、悪用の余地がある」
「……蓮華さん?」
「……あっ、失礼。今日はこちらには遊びに来たのに」
「――ちょっと休んでいきましょう。ちょうど近くにベンチありますし」
鷹久がふと視界に入ったベンチに、腰掛ける。
――余談だが、通りすがった周囲の女性がこぞって蓮華に見惚れていた。
「――すごい人気ですね」
「……怜奈様の、男女問わず見惚れさせる美貌程ではありません」
「明らかに比較対象間違えてますからね!?」
「誰もが一度は恋をする――って位だもんな」
「綾香も少しでもいいから見習いなよ」
「あたしにあんな振る舞い、似合う訳も出来る訳もないだろ。見習うって言うんなら、友情のアスカさんが良いんだけど」
「ふふっ……お2人は、本当にお付き合いされてないんですか?」
蓮華の言葉に、綾香と鷹久がきょとんとした。
「なんだ、気になるのかよ?」
「いえ、やりとりに距離感と、どう考えても従姉弟と言うだけでは、絶対に説明がつかない部分が多すぎますので。知ってます? 余所ではラブラブ従姉弟と評判ですよ」
「なんだよ? 別にラブラブなんて言われる様な事してねえってのに」
「うん、ちょっと覚えがないかな?」
本気でそうだと言ってる雰囲気に、蓮華は唖然とし、ため息をついた。
「――お2人がこんな調子では、吉田さんのお相手が出来たとしても、絶対に2番目扱いになりますね。断言します」
「にっ、2番目って……」
「なんだよそれ。別にあたしは……」
「……いえ、見解の相違で片付けて貰って結構です」
蓮華は唖然を通り越し、呆れた口調でそう話を切った。
鷹久も綾香も、首を傾げるばかりだった事も後押しし、再度ため息をつく。
「さてと、もう飲んじゃったし行こうか」
「そうですね」
「んじゃ、もうちゃっちゃと行こうぜ」
「え? ちょっ……!」
綾香が強引に鷹久と蓮華の腕を掴み、“瞬間移動”。
瞬きする一瞬で、女性物の服を取り扱う服屋の前に。
「へえっ、意外だな。綾香がこんなおしゃれなお店知ってたなんて」
「以外は余計だ――以前宇佐美に、ここで散々着せ替え人形にされたから」
「それ綾香が悪いんでしょ? 公の場に出る為の服どころか化粧も嫌がるから、宇佐美ちゃんに頼んで手解きしてもらったんじゃない」
「あたしは出たくないって言ったじゃんか。それを宇宙兄やタカが無理やり……」
「上級系譜なんだから、そう言う訳にもいかないよ」
「――どうでもいいですが、ここが公の場だと理解して……るんでしょうね。理解していないのは、今やっている事が痴話げんかだと言う事位で」
再び置き去りにされた蓮華が、周囲の注目を集めている事に少々恥ずかしさを感じつつ、そうポツリとつぶやいた。




