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「舞踏会?」

 夜、家族で食事をしているときだった。

「そう。なんでも王子の婚約相手を決めるそうだよ。行ってみない?」

「でも、私よりもシンシアの方がいいと思います」

 シンシアの父親であり、私の新しい父は、近いうちに王家主催の舞踏会があることを教えてくれた。しかし、私は舞踏会というキラキラした場所に抵抗があったため、あまり行く気にはならなかった。

「わ、わたし? どうしてですか、お姉さま?」

 自分の名前を出されて驚いたのか、シンシアは食い気味に私に訊いてきた。

「だって、シンシアはとても可愛らしいし、明るくていい子でしょ? 王子様の隣には、シンシアがぴったりだと思うの」

「わ、わたし、嫌…ですわ」

 震える声で言うシンシアは、今までに見たことのないくらい苦しそうな表情をしていた。

 まさか、シンシアがそんなに嫌がっているとは思っていなかったので、シンシアの名前を出してしまった自分に罪悪感を感じた。

「今回はシンシアよりも君に行ってほしいんだ」

「舞踏会…なんて、よくわからないですし…。その…」

「あら、行ってみたらいいじゃない」

 私が煮えきらない返事を口にしたとき、今まで黙っていた母が、急に明るい声で話し出した。

「別に選ばれるために行くんじゃないのよ? 舞踏会っていう場所を体験してきなさいな。年頃の女の子なんだから! ねっ?」

 母に背中を押され、別に王子様と結ばれるために行くわけではないし、何も気負うことはないのかなと思ったら、少し気持ちが軽くなった気がした。

「そ、それなら、行ってみようかな…」

「お、お姉さま、行くんですのっ?」

 シンシアが信じられないといった表情で私を見つめる。

「ええ。でも、少し見てくるだけよ?」

「い、いやです! お姉さまはそんな、舞踏会に行かなくたって…!」

 そう言って俯いてしまったシンシアに、父は優しく声をかける。

「お姉さんができて嬉しいのはわかるけれど、父さんも色々あってね。約束してしまったんだ」

「約束?」

「ああ、職場の仲間とね。今度の舞踏会には娘を参加させると」

「それなら、行かないわけにいきませんね」

「すまないね。本当は了承を取らなければならないことだったんだが」

「かまいません。先にそう言って頂ければ良かったのに」

「いやです! そんな約束、嘘でもついて破ってしまえばいいんですわ!」

 断固として私を舞踏会に行かせたくない様子のシンシアが、そんなことを言い出してしまって、私はどうすればいいのかわからなくなってしまった。

 父の面目をたもつためには、私が行かなければならない。けれど、いつも穏やかでおっとりしているシンシアがこんなにも頑固でわがままになっている。

 家族になってから初めての出来事に、私の頭の中はパンクしそうなくらいぐるぐるしていたけれど、お世話になっている父に恥をかかせるわけにはいかなかった。

「シンシア、安心して。そんなに長くいたりしないし、少し舞踏会の様子を知りたいだけだから。待っていてくれればすぐに帰ってくるから」

「お姉さま…」

「シンシアは私のことを心配してくれているのよね。ありがとう、シンシア。とっても嬉しいわ。でもね、せっかくお父様が教えてくれたんだもの。お願い、行かせて?」

「……………お姉さまが言うなら、わかりました」

「ありがとう、シンシア」

 私がそう言って微笑むと、シンシアは恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。

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