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 8話  「囚われの少女を救え!」(後編)

 モニカはこの苦境をどうやってくぐり抜けたらいいのか、頭を悩ませていた。

 慶次は、女の子を優しく見つめながら、なにやら考え込んでいたが、女の子からの不意の問いかけに、困っているようだった。

 モニカは、慶次に代わってイタリア語で答え、慶次の方へ振り向く。


「船着き場で待機している潜水艇を、ここまで回せないかしら?」

「ここら辺は遠浅だから、アンジェラを運ぶ船が必要かな。 しかし、船どころか、板きれ一つない」


「救助カプセルは、もう使えない、わよね……」

「完全に分解してしまったからなぁ……、ってそうか!!」


「どうしたの?」

「船を作ればいいんだよ。いや潜水艦を作ろう!」


「はあ? あんた、なに言ってるの?!」

「エリアシールド、今も装備してるよな?」


モニカは、慶次の言葉に、ハタと気がついた。


「ああっ、なるほどそうね! エリアシールドの壁にはすき間がないから、裏返して船にできるわね」

「基本的にはそうだけど、裏返した後、上にもうひとつ貼り合わせて、球にする」


「?!」

「アルキメデスの原理って言うんだっけ? 大きさをうまく調整すれば、浮力をゼロにして潜水艦みたいにできるはずだ」


 アルキメデスの原理とは、『物体は、それが押しのけた液体の重さと同じ大きさの浮力を受ける』、というものだ。二体の機械人形を重りにすれば、直径1メートルぐらいの球体を浮くか沈むかぐらいに調整することができるだろう。


 この原理は、お風呂に入っていたアルキメデス先生が思いついたもので、ちょうどここシチリアの王の命令を受けて考え出されたものだ。

 慶次は思いついたアイデアに、アルキメデス先生と同じく、「エウレカ(見つけたぞ)!」と叫びながら、全裸で町中を走り回りたい気分だった。


「慶ちゃん、ナイスアイデア! だけど、これから先は声を出さないで聞いて!」


 芽依子からの秘密通話の割り込みに、答えそうになった言葉をぐっと飲み込んで続きを待つ慶次。


 モニカは、芽依子とのやりとりには気がつかず、潜水艦のアイデアをイタリア側のスタッフと検討している。


「実は、首相の極秘命令を受けたイタリア海軍の潜水艦が、その付近まで来ています」

「……」


「船着き場で待機中の小型潜水艇は、これからフェイクで動かすけど、適当に理由を付けて、これから送る海上座標まで移動してね。 敵側のスパイには悟られないように」

「……?!」


 芽依子は、敵側の工作員が今回の作戦を妨害していると考えているようだった。

 確かに、最初からヘリが撃墜される、ケースが勝手に開いてバッテリーパックが壊れる、あるはずのない対戦車ミサイルがぞろぞろ出てくる、極秘ルートなのに待ち伏せられる。ありえない事態が続いた。


 しかし、マフィアの手先ごときが正規軍に潜入できるのか? 

 慶次はそこまで考えて気がついた。

 現首相は、次の選挙でも再選が有力視されていたが、国内に政治的な敵は多い。イタリア軍の内部に、この政敵と通じている者がいてもなにもおかしくはない。その政敵が首相を失脚させるためにマフィアを利用したのだろう。

 しかし、事件の背景を理解したところで、この危機的な状況から脱出できるわけでもない。


「慶次、海水の比重を考慮した最適な潜水球の設計データが完成したわよ」


「その設計データは、日本側も確認しました」

 芽依子は、さきほどの慶次との極秘通話など素知らぬふうにモニカに同意した。


「今データを受信した。設計データ『潜水球』を使用し、エリアシールド展開!」


 慶次が砂浜へ左腕を向けてコマンドを発すると、六つの円筒物体が射出され、あっという間に、長さ1.5メートル程度のフットボール状の球体の、下半分だけが形成された。


「慶次、ちょっと早くない? 潜水艇はさっき船着き場を出たばかりから、まだまだ来ないわよ?」

「敵はたぶん陸から来る。 だから早めに海に出ておいた方がいいと思うんだ」


 慶次は適当なことを言ってごまかしたが、モニカは納得したようだった。


 慶次は、エリアシールドでできた半球の船体を軽々とつまみ上げて、波打ち際まで持っていって裏返した。

 そして、岩場にちょこんと座り、足をブラブラさせているアンジェラに声を掛ける。


 「小さいお船だけど、これでおうちに帰れるからね」


 アンジェラは、イケメン声につられて……ではなく、家に帰ることができる喜びから、慶次の腕の中に走り込んできた。

 慶次は、アンジェラを優しく抱え上げると、球体の真ん中に座らせる。


「これからフタをかぶせるけど、大きな音がするから耳をふさいで、じっとしててね」


 慶次は、上目遣いでうなずくアンジェラを確認すると、モニカの方へ振り向く。

 モニカは、うなずくと、腕の角度を調整してエリアシールドを射出した。

 それは見事に慶次の作った裏返しのエリアシールドの縁に沿って着弾し、あっという間に潜水球の上半分を形成した。慶次は、上下の継ぎ目が完全に接続されていることを確認すると、球体を海の方へと押しやった。


 エリアシールドは、もともと大人数を密閉状態で隔離しておくものなので、子供一人なら、2~3時間は十分に密閉しておける。また、機械人形には、水中を行動できるように、電磁式推進装置が内蔵されている。したがって、機械人形二体で潜水球を押していけば、数分もかからずに、かなり沖まで出られるはずだ。


「とりあえず、沖に出るけど、黙って俺に付いてきて」

「なんで、あんたに付いていかなくちゃいけないのよ!」


「説明は難しいんだけど、俺を信じてくれよぉぉ!!」

「……な、なんだかわからないけど、待機場所なんてどこでもいいんだから、好きにしなさいよ」


 モニカは、異常に迫力のある慶次に押されて、しぶしぶ同意した。

 慶次らは、芽依子の指定した秘密の座標に向かって水面を移動し始めた。



 ――しばらく水上を進み、指定された座標に着いたそのとき、見えないように低空で接近して来たヘリコプターが、いきなり海岸の向こう側から姿を現した。


「やばい、敵の攻撃ヘリだ!」

「マフィアの分際で、なんで攻撃ヘリまで持ってるのよ!」

「とりあえず、下に潜ろう。そっちに体重を掛けてくれ!」


 慶次らは、機械人形(パペット)の推進装置を切ると、姿勢を移動させて潜水球を沈め始めた。しかし、あの位置からミサイルを発射されれば、すぐに回避することはできないだろう。


 ――絶体絶命の状況に思われた。



 そのとき、遠くから接近するジェット機の轟音が響き渡ったかと思うと、まぶしい閃光と共に対空ミサイルが発射された。

 二つのミサイルは、慶次らの頭上を矢のように通過していき、ヘリに直撃して大爆発を引き起こした。その炎上しながら墜落していくヘリの上を、イタリア海軍が誇る最新鋭の垂直着陸機ハリアーⅢが高速で通過していった。


「空母カヴールから飛んできたのかしら……しかし、なぜ……」


 モニカが言い終わる前に、水中から何か大きな物体がせり上がってきた。

 驚くモニカを慶次が手で制していると、彼らは、海面からさらに高く持ち上げられ、イタリア海軍の新型潜水艦『エリオ』の甲板にすくい上げられていた。



 ――後から聞いた話によれば、秘密作戦の内容が漏れて、政敵の妨害工作が実行されていることを聞いた首相は、潔く全てを公開してアンジェラを助ける選択をし、直ちに救助命令を出したという。


 男女関係のスキャンダルにおおらかなイタリアで、アンジェラを隠し子にしておかなければならなかった理由は、おそらく大きなものだったのだろう。このことでアンジェラが幸せになれるのかどうかはわからない。しかし、隠れて生きるより、明るく生きていけるに違いない。慶次はそう考えることにした。



 潜水艦『エリオ』から、研究船『ユーロ・ウィズダム』へ、二体の機械人形(パペット)と共に戻ってきたアンジェラは、研究船のデッキ上で母親と再会した。


 すでに棺桶(コフィン)から出て身なりを整えていた慶次とモニカは、抱き合う親子を笑顔で見つめていた。

 すると、突然アンジェラが慶次の方へ振り返ると、おぼつかない足取りでパタパタと走ってくる。そして、そのまま、身をかがめて待つ慶次の胸に飛び込んできた。


 慶次が驚いていると、アンジェラは何かイタリア語で言いながら、慶次の首にかわいい腕を回して、頬にちゅっとキスをした。

 その横で、ニヤニヤしているモニカが翻訳してくれた。


「『わたしの王子様、あとで結婚してあげる』、だって」


 慶次は、飛行機の中で必死に覚えた、数少ないイタリア語で答える。


「スィー、グラーツィエ!」

(はい、ありがとう)


 アンジェラは笑顔で手を振りながら、輸送ヘリのそばで待つ母親の元へと戻っていった。


 ――飛び立つヘリを見ながら、モニカは、思い出したようにゆっくりと慶次の方へ向き直った。


「結婚の約束をしたわね、このロリコン!」



 甲板の上は、風もなく、輝く朝の光に満ちていた。

 モニカは、きついセリフを慶次に言いながらも、暖かな朝日のように柔らかな微笑みを浮かべ、慶次を見つめている。

 慶次は、先ほどのアンジェラと同じようにキスしたい衝動に駆られたが、モニカにひっぱたかれるのはまちがいないので、照れ隠しに言い返した。


「俺は、同い年の美人が好きなんだよ」


 慶次は、何気なく言ってモニカの方を見ると、柔らかな微笑みを浮かべていたはずのモニカの顔がみるみる赤く染まっていく。


 (あれ? 誤爆した? でも美人なんだ? いや、美人だけど……)


「なに言ってんのよ! 馬鹿!」


 モニカは大きな声で叫ぶと、慶次の頬をひっぱたいた。

 どちらに転んでも、ひっぱたかれる運命の慶次だった。



「――おやおや、仲の良いことだね」


 二人のかけ合いを近くで見ていたのだろう。

 フランス軍と思われる軍服を着た華奢な軍人が慶次の方へ歩み寄ってきた。


 あざやかや赤毛の短髪をかき上げながら、その軍人は、しっかりとした日本語で慶次に自己紹介をした。


「僕は、フランス軍の機械人形(パペット)パイロット、ドミニク・ルクレール」

 最後に、謎の新キャラ登場です。


 え? ばれてるって? な、なんのことでしょうか??

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