41話 「夏祭りの夜」(後編)
「ふーん、おもちゃの射撃場ね。 上等だわ!」
モニカは、金魚すくいでの失敗がよほど悔しいのか、まだ怒ったような口調で答えると、一人ですたすたと射的場へ歩いていった。そして、モニカは、その勢いに驚いている店主にお金を払うと、店主からおもちゃのライフルを受け取った。そして、受け取ったライフルをうさんくさそうに眺めながら、不機嫌そうに言う。
「これは分解調整が必要ね」
「おいおいおい!」
「するわけないじゃないの」
モニカは、慌てる慶次に対して、ようやく笑顔で答えると、正しいフォームでさっとライフルを構え、一発発射した。コルクの弾丸は、狙った的をやや外れて壁に当たり、下へと落ちた。
「ふーん、これは、銃の先をできるだけ的に近づける必要があるわね……」
モニカは、一発撃っただけで、射的の真髄をつかんだようだ。モニカは、体をぐぐっと前に乗り出し、杖の先で的を突くように、銃を持った手を一杯まで伸ばすと、その引き金を絞った。コルクの弾は、的の隅っこに当たり、的はくるくると回って下に落ちた。
「当たり~」
店主は、大げさに声を上げると、手に持った鐘をからんからんと打ち鳴らす。
「はい、パンダのストラップね」
「あら、かわいいわね」
大げさな当たりコールの割に、しょぼい景品だったので、慶次はモニカがまたぶち切れるのではないかと心配した。しかし、ストラップをつまんで眺めているモニカは、まんざらでもないようだ。
もうすぐ夜の闇に落ちる寸前の夕日が、にこやかに微笑むモニカの横顔を照らし出していた。
「慶次もやる? でも、同じ的を狙いなさいよね」
モニカは、慶次に銃を手渡しながら、少し照れくさそうに注文を付ける。慶次は、はにかんだモニカの仕草を少し不思議に思いながら、モニカから差し出された銃を受け取り、店主にお金を払った。
そして、コルクの弾を慎重に詰め直すと、モニカがやったのと同じように、銃を持った手を前に一杯まで伸ばして撃った。弾は、的の中央に当たり、不安定に的を揺らした。一瞬の間があって、落ちないかなと思った瞬間、的はパタンと下に落ちた。
「当たり~」
店主は、また大げさに鐘をからんからんと打ち鳴らした後、床の段ボールからモニカの景品と同じパンダのストラップを取り出してきて、慶次に手渡した。
「ふふ、おそろいね」
慶次が受け取った安物のストラップを眺めていると、モニカが自分のストラップを慶次のストラップの横に並べるようにかざした。慶次がストラップからモニカの方へ視線を移すと、モニカは、夕暮れの残照を顔一杯に受けて、満開の赤い薔薇のように明るく微笑んでいた。
「ち、ちゃんと、携帯に付けといてよね」
モニカは、慶次を見つめていた目をそらして横を向くと、恥ずかしそうに慶次に注文を付ける。モニカが顔を赤くしているのかどうか、夕日のせいで慶次にはよく分からなかったが、モニカの笑顔はとても楽しそうに見えた。
「ああ、せっかくもらったんだし、いま付けとこっかな」
慶次は、携帯を取り出すと、ストラップを付けようとする。しかし、焦ってひもがからまり、うまくいかない。慶次がごそごそ苦闘していると、モニカが、慶次の携帯とストラップを横からさっとひっつかみ、一瞬でストラップを取り付けてしまった。
「もう、不器用なんだから」
モニカは、差し出した慶次の手の上に、ポンと携帯を載せた。慶次の指先がモニカの細い手首に触れる。慶次は、照れくさそうにしているモニカを急に意識してしまった。
思わず、モニカの手を握りそうになった慶次は、自分の携帯が突然着信したことで、びっくりして我に返り、慌てて電話を取った。
「慶ちゃん、 いまどこ~?」
「ああ、まーねえちゃん…… 今、モニカと一緒に射的をやってた」
「そうなんだ~ 私たちは食べ歩いてるんだけど、クリスちゃん知らない?」
「見てないけど?」
「見かけたら、そっちで捕まえといてね~ 迷子っぽいから」
「迷子ってこともないだろうけど、わかった」
慶次が真奈美からの電話を切ると、モニカは、どういうわけか微妙な顔できょろきょろしていた。しばらく慶次とモニカは、近くの屋台をのぞいていたが、道沿いにクリスが歩いてくるのが見えた。
「おーい、クリス~!」
慶次が手を振ると、クリスは少し歩みを早めて、慶次達の方へ近づいてきた。
「あら、クリス、早いわね?」
「……そんなことない。 ……もう二十分」
「あー、に、二十分って、もう六時二十分だわね!!」
モニカは、焦った口調でクリスを遮ると、とってつけたように腕時計をのぞく。時刻は、まだ六時二十分になっていなかったが、同じように時計を見た慶次は、指摘してはいけないような気がして、何も言わなかった。
「そ、そう言えば、わたし、ドミニクに話があったんだったわ」
「おう、でも電話すればいいんじゃないの?」
慶次は、モニカに質問したが、モニカは、時間がかかるのよ、と言いながらそそくさと慶次達から離れていった。
なんだか取り残された気持ちになって、慶次はクリスと目を合わせたが、クリスは、特に何の感情も浮かべずに、黙って慶次を見つめ返した。しばらくクリスと見つめ合ってしまった慶次は、急に照れくさくなって、クリスに聞いた。
「何か見たいものとか、食べたいものとかある?」
「……特に、ない」
「そ、そうなんだ……」
「うん……」
クリスには特に希望はないようだったが、慶次は、日本のお祭り初体験のクリスに、せっかくなので楽しんでもらおうと、あれこれ解説しながら屋台を巡った。クリスは、慶次の解説にうなずいていたが、これはなに、と質問することはなかった。おそらくクリスは、夏祭りに関してネットなどで予習をしてきたのだろう。そうして、あちこちの屋台をのぞいていると、最近ではめったに見かけない、ひよこ釣りの屋台が出ていた。
「うお、ひよこ釣りだ! めちゃくちゃ珍しいな!!」
慶次は、広い囲いの中で、ぴよぴよとうるさく鳴いているたくさんのかわいいひよこ達を見て、笑顔になりながら、クリスの方を見る。クリスは、かわいいものが好きそうなのに、特にうれしそうな表情も見せず、じっとひよこ達を見つめていた。
「でも、これ釣っちゃうと、後が大変だからなぁ」
慶次は、その辺が心に引っかかっているのかもしれないな、などと思いつつ、クリスに話を振る。クリスは、黙って慶次にうなずいて見せたが、クリスの顔には、なんの感情も浮かんでいない。しかしその顔は、だんだんとつらそうな表情へと変化していった。
しゃがんでひよこを眺めていた慶次は、クリスの変化に驚いて立ち上がった。クリスは、屋台から少し離れて歩き出した後、道端で立ち止まり、慶次を見つめて質問する。
「あのひよこたち、どうなるか知ってる?」
「え? 買われなかったら? ど、どうなるんだろ……」
慶次は、考えてみたこともなかったので、しどろもどろになりながら考えてみる。しかし、どう考えても、天寿を全うするような生き方はできないだろう。
「多くは冷凍にされて、タカやワシ、ヘビなんかのエサになる……」
「げげっ……」
「でもね…… 彼らにもエサが必要だし、私も鳥肉は食べる……」
「まあ、そうだよね」
「人間はそういう生き物だから、別に悪いことだとは思わない……」
クリスは、悲しそうにそう言うと、空を仰ぐ。
さきほどまで夕焼け色だった空は、だんだん夜へと暮れ始めていて、明るい星のいくつかが、暗い空にぽつぽつと見え始めている。境内へ登る階段から続くたくさんの屋台にも、ぽつぽつと裸電球がつき始め、少し涼しくなった風が心地よくそよいで来る。
「でも、かわいいひよこ達を見ると、やっぱりつらくなる……」
空を向いていたクリスは、慶次の方へ再び向き直る。するとクリスの大きな瞳からは、大粒の涙がぽろりとこぼれた。慶次は、たまらない気持ちになって、思わず目の前のクリスを抱きしめてしまった。少しびくっとしたクリスの細い体は、慶次の腕の中で、すっと力が抜けたように柔らかくなる。
「泣かないで……」
「ごめんなさい…… もう大丈夫だから……」
しばらくしてクリスが恥ずかしそうに小声で慶次にささやき、慶次は、はっとして、クリスの背に回していた腕を解いた。
「ああ、つい…… その、励まそうと思って……」
慶次は、いきなりクリスを抱きしめてしまったことに、あたふたしながら、言い訳をした。クリスは、少し上目遣いで慶次を見つめながら、黙ってうなずく。
「あれぇ~? なんだか、僕はおじゃま虫なのかな?」
いきなり背中から声をかけられて、慶次が後ろを振り返ると、ニヤニヤしたドミニクがわたあめを右手に持って立っていた。
「ああ、いや、その……」
慶次は、クリスが泣いた事情を説明しようかと思ったが、あれこれ説明するとクリスに悪いかなと思い直し、そのまま適当に言葉を濁した。
「じゃあ、ちょっと僕と食べ歩きしようよ」
「うん、じゃあクリスも……」
そう言って振り返ると、クリスは、既にいなくなっていた。少し恥ずかしかったのかもしれない。慶次はそう考えて、ドミニクと一緒に、屋台を巡ることにした。
「慶次は、ちゃんと食べた?」
「ああ、あちこち回って、とうもろこしとか、フランクフルトとか食べたなぁ」
「そっかぁ。 僕も色々食べたから、今はデザートタイムなんだ」
そう言いながら、ドミニクはかき氷の屋台を見つけると、さっそく練乳味を注文していた。ドミニクがさっきまで右手に持っていたわたあめは、いつの間にか無くなっている。慶次も練乳味が食べたくなって、ドミニクの後から同じものを注文した。
屋台のおじさんは、とんとんっと器を二つ並べると、機械から出てきたかき氷をそれに手際よく盛りつけて、練乳をかけると、さっと前に差し出した。
「ありがとう」
慶次とドミニクは、それぞれお金を払って器を受け取ると、プラスチックのスプーンでかき氷にパクつく。慶次はのどが渇いていたので、ばくばくとかき氷を食べ、ドミニクも勢いよくかき氷を口の中にかきこんでいたが、二人は同時に食べるのをやめた。
「ああっと!」
「キーンと来た!!」
ドミニクは、目をぎゅっとつむって顔をしかめ、慶次は自分の後頭部をとんとんと叩きながら、冷たさで痛くなった頭をなんとかしようとした。そうしてつらい一瞬が過ぎると、慶次とドミニクは、顔を見合わせ、申し合わせたように大声で笑い合った。
しばらく一緒に笑ってから、二人はゆっくりとかき氷を食べた。そして時間をかけて食べ終わると、二人は、器を返し、再び並んで歩き出した。
次にドミニクが目を付けたのは、チョコバナナだった。慶次は、それほど食べたくなかったので頼まなかったが、ドミニクはおいしそうに、それにかぶりついた。しかし、ドミニクは、一瞬ためらった後で、チョコバナナを噛みちぎらずに口から再び離すと、慶次の方に向き直る。
「そう言えば、この食べ物は、男子には特別なんだったね」
「そ、それって……」
ドミニクは、意味ありげな笑いを浮かべると、チョコバナナのまわりをぺろぺろしはじめた。
「こ、こら、ドミニク、それは、まずいって!」
ドミニクは、慌てる慶次を見てさらにニヤニヤしながら、チョコバナナをゆっくりとねぶり始めた。
「ドミニクちゃん、そうじゃなくて、こうだよ~」
いきなり横から、真奈美が声をかけてきた。慶次が驚いて横を見ると、チョコバナナを口にくわえた真奈美が、同じようにニヤニヤしながら立っていた。
真奈美は、チョコバナナの先をぐるぐると円を描くようになめ回し、ドミニクもそれを見て、同じようにチョコバナナをチュパチュパしはじめた。慶次は、完全に頭に血が上ってしまい、顔を真っ赤にしながら二人をなんとか制止しようとする。
ふと気がつくと、結構な数の道行く人が遠巻きに立ち止まって、ニヤニヤしながら二人を見ていた。
「もう、ダメだって!!」
慶次は、恥ずかしさでドキドキしながら、真奈美の左手をつかむと、にやついた観客から離れたくて、小走りで走り出した。真奈美は、きゃっきゃと笑いながら、慶次と一緒に走って付いてきた。しばらく走ってから振り返ると、ドミニクがいなくなっていた。
「しまった、ドミニクと、はぐれっちゃったよ」
「あ~、大丈夫だよ~ 花火大会を見る場所は、打ち合わせてあるから~」
「それならいいけど、あれはやり過ぎだって」
慶次は、いいものを見せてもらったとは思ったが、人前で結構きつかったので、真奈美に文句を言った。真奈美は、小さく舌を出すと、ごめんねと謝った。そして、右手のチョコバナナに、がぶっとかぶりつくと、その先端を勢いよく噛みちぎった。慶次は、なんだかとても微妙な気分になりながら、真奈美に尋ねる。
「さて、これからどうしよっか?」
「先に待ち合わせ場所に行ってましょうよ~」
慶次は、真奈美の提案にうなずくと、真奈美の道案内に従って、境内へ続く石造りの長い階段を上り始めた。
結構な段数を登って頂上に着くと、向こうの方に神社の建物が見えた。神社の建物は、小高い丘の上に立っていて、そのまわりを雑木林が取り囲んでいたが、うっそうとした森というわけではなく、林に向かう道も何本か通っていた。真奈美はその道の一つに向かって歩き始めた。
既に日は落ちて、夜空にはたくさんの星がきらめいていた。境内から離れていくと、かなりの間隔をあけて街灯は点いているものの、月明かりもなく、行く道は相当暗くなっている。道を進むにつれ、境内の喧噪は遠ざかり、夜のとばりが降りた暗い林は、すこし威圧感のある静けさに包まれていた。
「ちょっと行くと、崖になってて、ベンチがあるから」
「そうなんだ」
そのまま歩いて行くと、視界が急に開けた。その場所からは、街の夜景がきれいに見え、街の方に向けて、木製のベンチがいくつか並んでいた。しかし、ベンチには先客がいて、みな肩を寄せ合って、いちゃついているカップルだった。
慶次は、そちらの方をあまりじろじろと見ないようにしながら、なだらかな崖になっている端の方へ移動し、地べたに座ることにした。慶次は、ポケットからハンカチを取り出して真奈美に渡そうとしたが、真奈美はどこから取り出したのか、ピクニックで使うようなシートを広げ、さっと地面に敷く。
「はい、座ってね~」
「ありがとう、まーねえちゃん」
慶次達の座った場所は、少し薄暗い静かな場所で、他の人からは離れた場所だった。しかし、なんだか熱いキスを交わしているようなカップル達の雰囲気は、離れていてもびしびしと伝わってくる。慶次は、少しばつが悪く感じながらも、しばらく真奈美と話していた。するといきなり、慶次の携帯が鳴り響いた。
「うおっと?!」
慶次は驚いて、ポケットから携帯を取り出したが、電話に出る前に真奈美がそれをさっと取り上げ、そのまま電源を切ってしまった。
「もう、マナー違反なんだからねっ」
真奈美は、ちょっと怒ったように言うと、携帯を慶次に返す。周りはかなり静かなので、呼び出し音は確かに迷惑だろうが、マナーモードにしていればいいのではないか、と慶次は思った。しかし、有無を言わせない真奈美の顔を見て、モニカ達も場所はわかっているだろうし、まあいいかと思い直し、電源の切れた携帯をポケットにしまった。
――その頃、モニカ達は……
「あれ、切れちゃったわよ?!」
「電源を切った、ってことだよね?」
「慶ちゃんったら、何やってるのかな……」
「慶次はどこに……」
モニカは、電話が切れたことをみんなに告げ、ドミニクは電源を切る理由がないことを怪しみ、由香里は、慶次の行動に疑問を持ち、クリスは慶次の行く先を思案した。そんな彼女達の真剣な様子に、準はただただあきれていたが、これが姉の悪だくみであろうことは、うすうす勘付いていた。
しかしいずれにせよ、電話が切れてしまった以上、この広い神社で慶次と真奈美を捜し出すことは不可能に近い。するとクリスが何かを思いついた顔で言う。
「慶次の携帯は、警察支給のもの。だから電源が切れていてもGPSの位置情報が取得できる」
「じゃあ、芽依子さんに電話して、居場所を追跡してもらいましょう」
モニカが久しぶりに芽依子に連絡して、その事情を説明した。
初めはプライバシーを理由に断っていた芽依子も、真奈美の悪だくみだと分かってからは、俄然、慶次の捜索に乗り気になってきた。
「私がナビゲートするから、全員、現場に急行!」
「「了解!」」
モニカ達は、芽依子からGPS情報で確かめた慶次の居場所を聞くと、浴衣を振り乱しながら猛ダッシュで階段に向かう。そして、どこの運動部の練習かと思われるほどの勢いで、階段を一気に駆け上がっていった。
――その頃、慶次と真奈美は……
「静かだね~ ここは」
「そうだね」
慶次は、横にぴったりと寄り添ってきた真奈美にどきどきしながら、きれいな夜景を眺めていた。少し離れた場所でごそごそしていたカップルは、なんだかヒートアップしてきたようで、熱いため息がかすかに聞こえてくる。
「あー、なんかこう、居づらくない?」
「そんなことないよ~ 慶ちゃん、エッチな気分になってきたの?」
「い、いや、そんなことは、ない、よ」
「別にいいよ~」
真奈美はそう言うと、慶次の右肩に頭を載せてきた。真奈美からは、そこはかとなく淡いシャンプーの香りがする。慶次は、とんでもないチャンスなのか危機なのか分からないながらも、心臓が口から飛び出しそうな思いで、真奈美の方を見る。真奈美は、慶次の右肩から頭を離すと、熱に浮かされたかのように揺れる瞳で慶次をじっと見つめた。
ここで真奈美に目を閉じられたら、キスしてしまう、と慶次が思った瞬間、なにやら大人数の集団が走ってくる気配がした。慶次が驚いて振り返ると、モニカ達が血相を変えて、すごい勢いでやってくるのが見えた。
「「まーなーみーさーーーん!!!」」
モニカ達は一斉に真奈美の名を叫ぶと、座っていた慶次達の真横に一列に並び、ぜいぜいと肩で息をしながら仁王立ちした。
「お、おう、みんな、待ち合わせの時間に遅れそうだったの?」
「「はあ?!!」」
慶次は、走ってきたモニカ達が約束の時間に遅れそうだったのかと誤解して、モニカに尋ねたが、間の抜けた慶次の質問に、モニカ達は、さらに怒りをあらわにする。
「なに言ってんの、あんたは!!」
「慶次、信じられないな、君は!!」
「慶ちゃーーん!!」
「慶次……ごまかしは、だめ」
慶次は、真奈美との危機一髪のシーンを見て怒っているわけではなさそうだと気がついたが、かといって電話を切ったことを、なぜそこまで怒っているのか、さっぱり分からなかった。目を白黒させている慶次を見て、真奈美は苦笑いしながら、両手を合わせて、みんなに謝った。
「ごめん! 慶ちゃんは、何も知らないのよ~」
「真奈美さんってば!!!!」
モニカ達が真奈美に詰め寄ったそのとき、遠くの方からドドーンと花火の音が響いてきた。しかし、慶次達のいる場所から、花火は全く見えない。
「ごめんね~ とりあえず、花火を見に行きましょうね~」
真奈美は、みなに謝り倒しながらも、さっき来た道を逃げ去るようにして、小走りに戻っていく。
「ああ、こら、待て~ 逃げるな~」
場所を移動する真奈美を追って、モニカ達が走っていき、後ろであきれ顔で見ていた準も、モニカらを追って走っていった。
残された慶次は、走り去る彼女らの背中をぽかんと見つめる。この場所から花火は見えず、だから人が少ないようだ。よくよく考えてみると、真奈美は、慶次と話すためだけにこの場所を選んだ、と言うことなのだろう。
慶次は、深いため息をつくと、モニカ達のあとを追って、走り出した。
どうも話が長くなってしまいました。作者はこういう話が大好物なんですが、苦手な方はごめんなさい。
二学期が始まったら、またアクションシーンもやりますね。




