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24話  「ある暑い夏の一日」(中編)

 尾行を命じられたランフェイは、気付かれないようにかなり離れた位置から慶次らを見ていた。


 そんな怪しい人間にストーキングされているとは思ってもいない慶次らは、食事をしてから遊びに出かけることにし、その前にショップで水着を選んでいた。


 慶次と準は、値段とサイズで適当に水着を選んだため、二分と掛からず購入を終えた。

 怜香は、自分の気に入った水着があったのか、グループから離れていくつかの水着を手に取って見ている。

 しかし、怜香以外の女性陣は、まだ候補となる水着をあれこれ眺めるだけで、手にも取っていない。


「うーん、迷うなぁ」

「そうねぇ、でも水着はやっぱりビキニでしょ?」

「どれでもいい……」

「クリスちゃんは、わたしが選んであげるからね」


 わいわいと楽しそうではあったが、あれこれ見て回るだけで、女性陣は一向に買おうとしない。

 どうしたものかと慶次が準と顔を見合わせていると、向こうの試着室から真奈美が顔だけ出して手招きをしている。


「おっと、まー姉ちゃんが呼んでるぜ?」

「お前に見せたいんやろ。 俺に聞くわけないわ」


 そう言って、準は慶次の背中をぐいっと押したので、前につんのめりながら真奈美のそばまで走っていく慶次。


「ちょっと、中まで入ってきて~」

「いやいや、それはまずいでしょ!」

「呼び入れてるんだから、いいのよ~」


 そう言うと、真奈美はいきなり慶次の手をつかんで引っ張った。思いのほか強い力に慶次はバランスを崩し、あっという間に中に引きずり込まれてしまった。


「ほらほら、どう、このビキニは?」


 そこにはきわどい黒のビキニを着けた真奈美の姿があった。大きな二つの胸の上には、申し訳程度の布が何とか引っかかっている。


 真奈美は、そのまま胸の方へ抱き寄せようとしたので、慶次は本能的にのけぞった。

 そして試着室の壁に貼り付くようにして立ちながら、慌てて答えを返す。


「うんうん、とっても似合ってるよ。 すごく色っぽいね」

「ほんと~? 慶ちゃんってエッチね~」


 いやいやそのエッチな水着を着けたのは自分だろ、と突っ込みたい慶次だったが、今はとてもそんな余裕はない。

 慶次は、色も素敵だね~、などと褒めながら、あたふたと試着室から退散した。


 そのほんのわずかな時間に、どのようにしてやって来たのだろう。

 慶次が試着室の外に出たとき、その前には怜香を除く四人の女子パイロット陣が既に集結を終えていた。

 その手にはそれぞれ水着が握られている。由香里は二つの水着を握っていたので、その一つがクリスのものなのだろう。


「わたしのも見てみなさいよ!」

「僕のも見てくれないかな!」

「慶ちゃん、ちゃんと見てよね!」

「慶次、わからないから見て……」


 口々に水着を見てみろと要求する女性陣にたじたじとなる慶次。

 それでも、コメントするから着替えてくれ、となんとか答えを返した。


 ふと気がつくと、向こうの方から準が妬ましげな目でこちらを見ている。そんな準と視線を合わせないよう、慶次はあらぬ方向に目を泳がせた。

 するとちょうど、その様子を少し離れたところから眺めていた怜香と目が合った。慶次がちょっと肩をすくめて見せると、怜香は、にこりともせず、ぷいと横を向いてしまった。


 その店の試着室は三つしかなく、一つはまだ真奈美が着替えている最中だった。

 しかたがないので、モニカ達は残り二つの部屋にそれぞれ二人ずつ入って着替えることにしたようだ。


「いや、急がなくても、まだまだ時間はあるよ?」


 慶次は四人に声をかけたが、水着スイッチの入ってしまった四人の耳には届かない。

 狭い中を二人でごそごそしながら、急いで着替えはじめたようだ。


 しばらくして、モニカとドミニクが入った試着室のカーテンがさっと開く。


「おいおい、開けるのかよ?!」

「ほら、見てみなさい!」

「どうだい、僕の水着は?」


 慶次の制止など全く聞いていない二人は、唖然とする慶次に水着の感想を求めた。


 モニカの水着は、サイドの切れ上がった大胆なパンツが印象的な真っ赤なビキニだ。

 左手を腰に当て、すらりと長い足をすこし斜めに揃えて、モデル立ちをしている。もしかしたらそういった経験があるのかもしれないが、まさにプロのモデルのようにパーフェクトな着こなしだった。


 ドミニクの水着は、ビキニではなく、布を横に巻いたような黄色のチューブトップだ。

 切れ上がったモニカのパンツとは反対に、そのパンツはローライズタイプだったので、彼女の鍛えたおなかと締まった腰のあたりがとてもセクシーに見える。そして、なぜかドミニクもモデル立ちをして、モニカの右肩に左手を載せ、どこかで見たようなポーズを決めている。


 完成度の高いショーを見たような気分になって、思わず拍手しそうになる慶次だったが、さすがに店の中なのでぐっと我慢する。

 すると、後ろの方でぱちぱちと拍手する音が聞こえた。準だと思って慶次が振り返ると、それは知らない30代の男性だった。つられてあちこちで拍手が聞こえはじめ、店内にいた男性も女性も、スタイル抜群のモニカとドミニクの決めポーズに賞賛の拍手を送り始めた。

 それから10秒もしないうちに、歩いている人は立ち止まり、見ている人は拍手をする、というちょっとした騒ぎになってしまった。


 それに気をよくしたのか、モニカもドミニクも、打ち合わせていたかのように次々と決めポーズを変化させ、回りの観客はそれを見て拍手喝采となり、どんどん騒ぎが大きくなっていく。


 そんな周囲の大騒ぎに、何事かと隣の試着室から顔を出した由香里は、ちょうど運悪く、モニカと目が合ってしまった。

 モニカは、由香里が着替え終えていることを素早く確認すると、その手を引いて外に引っ張り出す。すると、その後ろにくっついて、クリスも外に出てきてしまった。


 由香里は、全体としてはそれほど露出の大きくない緑色のワンピース型の水着を着けている。しかし、トップスは胸の間が深くカットされたVネックラインだったため、彼女の豊満な胸の谷間がセクシーに見える、意外に大胆なデザインだ。

 そして、本人は気がついていないが、由香里が手を前に組んで恥ずかしそうにモジモジするたび、彼女のバストがふるふると揺れる。慶次はその揺れる胸に釘付け状態だ。


 クリスは、ややもするとスクール水着が似合いそうな雰囲気だが、今回は由香里と同じようなワンピース型の可愛い花柄の水着を着けている。

 しかし、由香里とは違って、体の線が細く肌の色が透き通るように白いので、ただ立っているだけで花の妖精のような可憐な雰囲気が醸し出されている。そしていつもは無表情なクリスだが、みんなで水着を選んだのが楽しかったのか、その晴れやかな微笑みがクリスをさらに可憐な感じに見せていた。


 モニカは、呆然と立っている由香里を後ろから抱きかかえるようにして慶次の方へ向かせると、ドミニクもクリスの背後に回って慶次の方へ向き直らせた。

 そして、ドミニクがジャーンと掛け声をかけて両手を左の方へ広げると、モニカも対称になるよう右の方へ両手を広げ、手首を器用に動かして両手をひらひらとさせる。

 慶次は、思わず拍手をしてしまったが、回りもつられて拍手をし始め、指笛を吹く人もいて、やんやの大喝采となった。


 その後ドミニクが、失礼しました、と大声で叫んでおじぎをし、ぱらぱらと残る三人もおじぎをしたので、なんだかショーも終わったような雰囲気となった。そして四人が慶次の方に歩いてきたので、数十人は集まっていただろう人だかりもようやくほどけて解散となった。


「で、どうだったのよ?」


 水着のままで迫ってくるモニカに、慶次はやや後ずさりしたが、それでもさっき見た驚きを正直に伝える。


「いやぁ、素晴らしいもの見せてもらったよ」

「僕たちの体は、そんなに素晴らしかったのかな?」


 ドミニクがからかうと、途端にしどろもどろになる慶次。


「いや、そういうんじゃなくて……、というかそうなんだけど、それはそうとして……、そう、素敵だった!」


 慶次は、なんとか言葉をひねり出したが、それは四人にとって聞きたかった言葉だった。四人はぱっと笑顔になった。


 そのとき、閉まっていた隣の試着室のカーテンが少し開いて、真奈美がその隙間から首を出す。


「あれぇ、もう一度、水着に着替え直してたら終わっちゃったよ~」

「えっ、また着替え直してたの?!」

「うん、最後のひらひら、一緒にやりたかったよ~」


「まー姉ちゃんは、年を考えろ!」


 遠巻きに見ていた準が近づいてきて、真奈美にツッコミを入れた。真奈美はふくれっ面で、当然のことを答える。


「だって、まだ女子大生だもん! 年なんてとってないもん!」


「まあまあ、水着が決まったら、昼ごはんを食べて、遊びに行こうよ」


 慶次が真奈美をなだめながら、きょろきょろと怜香を探すと、怜香は購入した水着が入っていると思われる袋を持ってこちらへ歩いてくるところだった。


「ああ、もう買ったんだ。 どんなやつ?」

 慶次が声をかけると、怜香は冷ややかな笑顔を浮かべる。


「デレデレしてる人に、私の水着姿は見せません!」


「えー、水着姿の真行寺にもデレデレしたいのになぁ」


 ハイテンションになっていた慶次はついつい軽口を叩く。

 しかし、意外に受けが良かったようで、何言ってるのよと照れる怜香に慶次は肩を突かれてしまった。


 慶次が怜香と話しているうちに、残りの五人も試着した水着を購入したようで、何食べよっか、などと話しながら、みんなでぞろぞろとレストラン街の方へ歩いて行く。


 そんな彼らを遠くから尾行しているランフェイは、笑いながら遠ざかっていく彼らの姿を苦々しく見つめながら、吐き捨てるようにつぶやく。


「この国は全く遊びばかりだな……。 まあ、遊泳衣服の出来はいいが……」


 ランフェイは、ビキニの水着を初めて買った。しかしそれを着るのは任務上必要なことだと自分に言い聞かせ、彼らとあまり距離が離れないよう慎重に追尾している。


 任務の重要性からその顔つきは厳しい。しかし、水着のことを考えているとき、ふと笑顔になっていたことは、本人もまわりの誰もが気付いてはいなかった。

 水着回が三部作になるなど言語道断。作者の趣味が暴走してしまいました。


 蘭妃との戦闘シーンは、まだ先になりそうですので、もうちょっとお待ち下さい。


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