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 1話  「緊急出動せよ!」

「わいは高校生警官、服部慶次や」

「おまえ、何回やったら、気がすむねん!」


「せやかて、工藤……」

「ひつこいんじゃ!!」


 床の上にころがされ、工藤と呼ばれた少年からケリを入れられている服部慶次は、本当に警察官の身分を持っている。事件があったとき限定で協力しているのだ。


 正確には、警視庁特殊部隊の機動制圧班に所属する、非常勤隊員。

 正式にはSATと呼ばれるが、SWATの方がよく知られているだろう。


 もちろん慶次が警官であることは、クラスメイトの誰一人として知らない。



「お前が『工藤』ってのが悪いんだよ……」

「だれが『東の名探偵』やねん!」

「ギブ、ギブ、ギブ!」

 慶次は、バレないように軽くケリをかわしながら、それでもすぐに降参した。


「慶ちゃん、工藤君がコナ○君のファンでよかったね」


 床にころがってゴミだらけになった慶次の体を、パタパタしてあげているのは遠藤由香里。近くに住んでいる慶次の幼なじみで、ナイスバディーな十六歳だ。


 しかし、彼女はその優しい性格にもかかわらず、真剣に武の道を極めようと精進している。腕に自信のある慶次でさえ、道場ではしばしば由香里に組み伏せられるほどだ。


「いやいや、ユカちゃん。 べつに俺はコナ○ファンじゃないって」

「でも知らなかったら、漫才にならないよ?」

「漫才ちゃうねんっ! それに東西が反対になっとるがな」


 関西なまりの工藤準は、大阪から転校してきた、慶次の親友だ。


 また、準には近くの大学に通う、これまたナイスバディなお姉さんがいる。

 慶次はこのお姉さんとも、実はそれなりに親しいのだが、そのことは準には秘密になっている。なぜなら、そのお姉さんは……。


 キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン


「おっと、オレ、宿題やってへんかったわ」

「んじゃ、また後でな」

「また、お昼にね~」


 すぐに、古文の教師が教室に入ってきた。

 慶次は窓際の自分の席へと戻り、授業が始まった。


 少し開いた窓からは涼しい風が吹き込み、麗らかな春の陽光が慶次の背中を照らす。

 慶次は、古い詩歌を朗々と読み上げる教師の声を聞きながら、うつらうつらと夢の大海原へこぎ出していった……。



 ブブーッ ブブーッ 


 慶次は携帯のバイブに飛びあがるほど驚いて、目を覚ました。

 そのリズムが、あらかじめ登録していた、緊急呼出を意味していたからだ。


「こんなときに出動かよ……」


 苦虫をかみつぶしたようにつぶやく慶次。

 そんな不審な動きと表情は、ふり返った教師の目に止まった。


「なんだ、服部。 じゃあ、続きの歌を読んでみろ」


 慶次は、しかたなく立ち上がる。


「先生、トイレ、いいですか?」

「またか……、まあ行ってこい」


「出たな、トイレマン!」

「うっせぇ、がまんすると体に悪いんだよ」


 クラスメイトを適当にあしらって、慶次は本当にトイレへと向かった。もちろん、ウ○コではない。任務のためだ。

 つまり、慶次が任務を遂行する場所は、トイレなのだ。


 はた目には、あせってトイレに駆け込んでいるように見える慶次は、廊下に面している入り口の扉を閉め、内側からロックした。


 この男子トイレは、個室だけではなく、入り口にある扉の鍵を閉めることができる。もちろん一般の生徒はその鍵を持っていないが、慶次はそれを持っている。


「誰かに音を聞かれたくないんでね、って、どんなに恥ずかしがり屋さんなんだよ」


 慶次は、自分で自分にツッコミを入れながら、奥の方へ歩いて行く。

 そして、作業用ロッカーと書かれた一番奥のドアの前に立った。

 慶次はそのドアの一部に手のひらを当て、はっきりと声を張る。


「認証コードFK4GI9PQ 服部慶次」


 すると、手のひらをスキャンするレーザー光がかすかに見え、インターロックのはずれる音がした。すぐにドアが開く。


 ロッカーの中は、一目で特別に作られたものだとわかる高度な機械構造物がぎっしりと詰まっていて、その中央はちょうど人が入れる大きさにくぼんでいる。

 なんというか、メカニカルな棺桶といった雰囲気だ。


「脱がなきゃいけないのが、めんどくさいんだよね」


 さらにぶつくさ言いながら、トイレでベルトをゆるめ、ズボンをおろす。そんな慶次の行為はトイレでは普通の行為だ。しかし、それは個室に入ってからやれよ、と突っ込まれるべき行為だ。

 そして、上着とシャツを脱ぎ出すに至っては、トイレでなにやってんだ、この変態、とののしられて当然の行為だ。


 靴下も脱いですっかり全裸になった慶次は、クラスメイトに見られたら確実に高校生活が終わってしまうことを考えないようにして、小さな収納スペースに脱いだ衣服や靴を押し込んだ。

 そして、くるりと身をひるがえすと、背中から装置のくぼみの中へ体を滑り込ませる。


「フルダイブモード、服部慶次、ログイン」

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