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*希望のあとの絶望

「! なにっ……?」

 メイソンは驚きに目を見開く。

「それで大体の事が解るだろう」

「まさか……裏切り?」

 唸るように発する。

「安直だが方法としては良い手だ。チェックを難なくすり抜ける」

 わざわざ他国の子どもを使う処も抜け目がない。

「……」

 この男は一体、何者なんだ? 見た目の若さでは、そこまで把握出来るような人物とは思えない……感心するように発した青年に、メイソンは慎重な視線を投げた。

「Sクラスの傭兵の中にあるはずだ」

 相手の考えを察したようにニヤリと笑みを浮かべ、輝きを無くさないエメラルドの瞳が彼らを見つめる。


 そうして、FBIの2人と携帯の番号を交換し再び車を走らせた──アザムは障害を難なくかわしていくベリルに驚きを隠せない。

「処でアザム」

「! なっ、なに?」

 突然、声をかけられて少年は思わず声がうわずった。

「腹は減ってないかね」

「べっ別に」

 プイッ! と、そっぽを向いた少年に目を据わらせてゆっくりと車を止める。

「ギャー!」

 少年の叫びが夜の闇に響き渡った──


 しばらく車を走らせて小さなレストランに車を駐め、車から降りてきた少年の目にはうっすらと涙がにじんでいた。

 態度の悪そうなウエイトレスが入ってきたベリルを確認すると不機嫌そうな表情が一変、笑顔を見せた。

「好きなものを頼め」

 足を組みメニューを示すベリルを一瞥すると、少年は険しい表情でそれらを眺めウエイトレスに視線を移す。

「カルボナーラにシーフードドリア。シーフードピザにホッドドックそれに……」

「シーフードピザとコーラにコーヒーを頼む」

「……」

 あっさりと注文されてしまい、いやがらせは失敗した。

 運ばれてきたピザを食べないという嫌がらせも出来たが、空腹でそれは無理そうだ。

「……食べないの?」

 少年は、ミックスピザをほおばりながら優雅にコーヒーを傾けている彼を見やる。

「ん。私は空いてないのでね」

 言いながら携帯を取り出した。

「ケインどうだ……そうか」

「!」

 その名と彼の表情に、少年は安堵の表情を浮かべる。少年を一瞥して通話を切り、再び電話をかけた。

「モニカ、調べて欲しい事がある」

 今度は知らない名前が出てきて彼を見つめる。

「J・バイオ・ケミカル・コーポレーション……そうだ。頼んだぞ」

 すぐに電話を切って、再び優雅にコーヒーを口に運んだ。

 そんな彼に、少年はいぶかしげな表情を浮かべる。見ず知らずの相手に突然、預けられて戸惑っているという事もあるが信用しろというのも無理な話だ。


 食事を済ませて車に乗り込む。

「どこに行くの?」

「そろそろ夜も遅い。モーテルでも探すとしよう」

 走らせていると、派手なネオンのモーテルが目に入った。静かに車を駐めて、目の前の部屋に向かう。

 扉を開くと、お世辞にも綺麗とは言えない部屋が2人を迎えた。少年は少し苦い顔をしたが、すぐに表情を戻しベッドに腰掛ける。

 そしてクスッと笑った。

「ここよりヒドイとこにいたことあった」

「……」

 皮肉混じりにつぶやいた少年に目を伏せる。

 少年がここにいる経緯……それを思い彼の胸は少し痛んだ。言わずとも戦争孤児である事は解る。

 ノックの音がして、ベリルがドアを開くと太めの男が立っていた。

「ひと晩だ」

 バックポケットから20ドル札を5枚ほど取り出し男に手渡す。男は確認するように札を握ると無言で立ち去った。

 遠ざかる足音を壁越しに聞きながら振り返る。

「国に帰りたいか」

 アザムの横に腰掛けて足を組み静かに問いかけた。

「帰っても生きていけないよ」

 そうか……ベリルは静かに発して目を閉じる。

「……」

 ボクのために悲しんでくれてるの? 少年はベリルの表情に少し瞳を曇らせた。しかしすぐ目を閉じて小さく首を振る。

 誰も信用出来るもんか……少年はキリと奥歯を噛みしめる。

 新しい父親──それに少しの希望が無かった訳じゃない。新天地で新しい生活、新しい親。もう、銃弾の飛び交う場所にいなくていいんだ……そう思っていたのに、結末はそれよりも酷かった。

 予防接種だと打たれた薬は人を殺す細菌で、ただそれを受け渡す道具でしかなかった。

「気分転換にドライヴしよう」と言われて、車内で飲まされたジュースには睡眠薬が入っていた。

「レイさんなんか……嫌いだ」

「! ……」

 噛みしめるようにつぶやいた少年を見下ろし、首にかかっているロケットにベリルは目を細めた。

「それは会社の人間か」

「多分……偉い人だと思う」

 少年が体勢を立て直すと布がこすれる音がした。

「?」

 いぶかしげに少年の腰辺りを目で追う。

「お前のものかね?」

「あ……」

 ベルトに下げられているヒップバッグを前に持ってくる。

「出る前にくれた」

 発しながらバッグの中に手を突っ込んだ、すると何かが手に当たって掴み出したそれは小さな革袋だった。

「ほう」

 感心するような声を横目に、少年は袋の口を開いて下に向ける。色とりどりの綺麗な石がベッドに散らばった。

「ざっと5万ドルという処か」

 転がった石をひと通り見て額を適当にあげた。

 それは、土台の付けられていない宝石たち……部屋の裸電球にさえもその輝きで存在を主張していた。

「5万ドル……」

「お前を私に預けた男、なんといったか」

「ティーロ」

「彼への報酬だったのだろう」

 それを聞き少年は自虐的な笑みを漏らした。

「クックックッ……どうせ死ぬ人間には何も無いってね」

「お前は死なんが」

「え?」

 しれっと応えた彼に目を丸くする。

「抗体も打たれているのだ。お前は死なんよ」

「そうなの?」

「人間を使ったのはウイルスと抗体の両方を簡単に持ち運ぶためだ。さらに子どもを使う事で御しやすくした」

 淡々と説明する青年に半ば唖然とする。こうも平然と言われると、何も言えなくなるというものだ。

「ふうむ」

 そんな少年の感情にはお構いなしに宝石を眺めていた。

「!」

 その中の一つに目が留まる。

「……オニキス?」

 高価な宝石の中に混じって漆黒の石が重く、そこにいた。

 一際ひときわ、大きな石──楕円形にドーム型のカボションカットが施されたオニキスだが、この大きさでも大した金額にはならない。

 なのに何故わざわざこれが……? じっくりと手に取り見つめる。

 すると──

「!? あっ」

 オニキスが2つに分かれて中から薄い紙切れが数枚ちらりと顔を出し、少年は思わず声を上げた。

「ふむ」

 ソレを手に取り、エメラルドの瞳を細める。

「これなに?」

 英語じゃない……

「ドイツ語だよ。かなり簡略化されているがね」

 薄い紙に小さくびっしりとつらなる文字は、丁寧にはっきりと書かれていた。

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