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*思う処

「?」

 無言で室内に踏み入り、本棚の医療書を手に取った少年にアザムは眉をひそめた。

「……なあ」

「なんだい?」

「医者にはどうやったらなれるんだ?」

「!」

 予想もしていなかった言葉に驚いて少年を見つめる。

「何故?」

「だって……」

 アザムから視線を外し、恥ずかしげに小さく発する。

「ベリルもアザムも、カッコ良かった」

「!」

「オレ、あんな風になりたい!」

「そか……」

 目を輝かせて応えた少年に微笑みを返した。


 リビングでブランデーを傾けているレイは、同じく琥珀色の液体を楽しむベリルに視線を送る。

「最近、アザムは何か考えているようでね」

「あの歳ならば将来のことを考えるのは当然だろう」

「それはそうなのですが……その」

「相談を持ちかけられていない事が歯がゆいか」

「!」

 言い出しにくそうにしていたレイの感情を察するように応え、小さく笑んでグラスを傾ける。

「のんびり構えていれば良い」

「しかし……っ」

「彼は立派に成長している。お前の成したものだ」

 その言葉に、なんとなく照れくさくなって頭をかいた。

「親だからこそ相談しにくい事もある」

「!」

「お前は父親だよ」

 紛れもなくね……彼の声は雨が地面に染みこむように、深くレイの心に刻まれていく。あの事件から7年、長かったようにも短かったようにも思える。

 曲がりなりにも親子と呼べる関係になったのかどうかは今もって解らない。親というものは皆、こんな風に焦ってしまうものなのだろうかと苦笑いを浮かべた。


 しばらくして玄関の呼び鈴が鳴り、現れた男はやや気遣い気味な視線を向ける。

「すいません、サムの父のロメオです」

「! ああ……」

 なるほど、サムは父親に似たようだ、髪と瞳の色だけでなく顔つきもどことなく似ている。男性を家の中に促し、リビングに案内した。

「元気なようだな」

「! ベリル……迷惑をかけたようですまん」

 ソファに腰掛けたまま発した彼に苦い笑みを返す。

「サムは……」

「2階のアザムの部屋にいます。上がって右です」

「ありがとう」

 礼を述べ階段を上がった。

「! 父ちゃん!」

 飛びつく息子を抱きかかえ、頭を優しくなでつけてアザムに視線を移す。

「迷惑をかけてすまなかった」

「いいえ」

 愛想笑いで応えて表情を険しくさせた。

「あの……っ」

「うん?」

 ドアに足を向けた男を引き留める。

「あなたは専属の仲介屋と聞きましたが……」

「ああ、そうだよ。といっても、専属の奴は少ないけどね」

「え、そうなんですか?」

「大抵は掛け持ちかフリーだよ。あいつの専属っていうのは大変だからな、したくても出来ない奴が大半さ」

「大変……なんですか」

「専属じゃなければそうでもないよ。仲介屋や紹介屋なんて世界にごまんといる」

 肩をすくませ皮肉混じりに口角を吊り上げた。

「あなたは、どうして彼の専属に?」

「!」

 問いかけたアザムから視線を外し、瞳を曇らせて息子を降ろした。

「俺はもともと、麻薬の売人だったんだ」

「!?」

「あいつが潰そうとしてた組織の売人でね。今ではこの有り様さ」

 笑って冗談交じりに発し、その笑みに少しの憂いを映す。

「恩返しがしたかったんだよ。俺のために色々としてくれたみたいだから」

「……恩返し」

「もちろん、自分から何かをしたなんてベリルは言わなかったけどさ。そんなのすぐに解る」

 彼の声色は、静かにベリルへの感謝と尊敬の念を表していた。

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