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*味加減

 そうして、以前に顔見知りになったFBIのメイソンに連絡を取り、この件は収束した。

 アザムは走り去る黒塗りのセダンを見つめ、同じように無表情で見やるベリルの横顔に視線を移す。

『殲滅戦』という「プランB」は結局、死者は1人も出なかった訳だけれど……ベリルのいう殲滅戦は「殺める事を無理に避けて仲間たちに死傷者が出るならばそれを止め、相手に死者が出ても責めはしない」というものなんだろう。

 レイとアザムは後日、事情聴取を受ける事になったがひとまず一同はレイの家に戻った。

「久しぶりに会ったのに、こんなことになるなんてね」

 アザムが肩をすくませた。

「助けてくださってありがとうございます」

 レイがコーヒーカップをリビングテーブルに乗せながら発する。そのコーヒーを手にして、ソファに腰掛けているベリルが小さく笑った。

「巻き込まれる前に処置したかったのだがね」

「助けてくれただけでも有り難いよ」

 アザムの言葉に笑みを返し足を組んでコーヒーを傾け、向かいのソファに座っている少年に目を移した。

「サム」

「! な、なに?」

「現実に見る限り、どうだったかね」

「!?」

 静かに問いかけられ、戸惑ったあと顔を伏せる。

「すごく……怖かった」

「流される血には理由がある。決して痛みだけではない」

「うん……」

「それが解れば良い」

 言って笑みを浮かべると、少年も引きつった笑顔を返した。アザムはそれになんとなくホッとして、同様に笑顔を浮かべる。

「ゆっくりしていけるんでしょ?」

「うむ」

「だったら料理教えてよ」

 その言葉に怪訝な表情を浮かべた。

「どうも僕たち料理が苦手で……」

 苦笑いで見合ったアザムとレイを一瞥し、小さく溜息を漏らす。

「材料を見せろ」

 そう言ってキッチンに向かった。一般的なダイニングに、白い冷蔵庫が同じ白の食器棚の隣に設置されている。

「何を作るつもりだったのだ」

 開いた冷蔵庫に眉をひそめた。

「え、特には何も……」

 いつも適当に買って適当に作っている事がバレる中身に、アザムは変な照れ笑いが浮かぶ。

「リングイネか……フェットチーネの方が味が乗るのだが……」

 平たいパスタを手にしてつぶやき、他の材料も探す。

「む……生クリームも無いのか」

 発しつつテーブルにミルクと粉チーズ、そして卵とベーコンを乗せた。

「まあ良い。簡単な作り方の方が良いだろう」

「そうしてくれると有り難いよ」

「アザムは湯を沸かしてくれ。レイは卵黄と卵白に分け、サムはベーコンを細切りに」

 手際よく指示され、みんなはそれに従う。

「味は落ちるがこれから作る方法なら“ダマ”にはならん」

 ステンレスのボウルを手にし、分けられた卵黄とミルクを流し込む。泡立て器を使い、手際よく混ぜ合わせ、なめらかになってきた事を確認して粉チーズを少しずつ投入し、さらに混ぜる。

 塩コショウで味を調えたあと、切られたベーコンをフライパンで炒めて一度フライパンから出し、油を拭き取る。

 そのベーコンを再びフライパンに戻しオリーブオイルで温める。

 そこに白ワインを加え、丁度ゆであがったリングイネを火を止めたフライパンに投入して絡めるとそれをボウルに放り込んだ。

「えっ!? フライパンに入れないの?」

「ヘタにやると“ダマ”になる。今回は生クリームが無かったので粉末のコンソメで味を濃いめに調整したが……ああ、卵白は捨てずにいてくれ」

「え?」

 捨てようとしたレイを止めて別のボウルに卵白を移した。

「あとで使う」

 出来上がったカルボナーラを皿に分け、黒コショウを散らしてダイニングテーブルに並べていく。

 少年は漂う匂いに待ちきれず席につき、置かれたフォークを手に取った。

「いただきまーす!」

 みんなが席につくのを見計らい、すぐさまめいっぱい頬ばる。美味しそうに食べる少年を確認して、レイとアザムもひと口含んだ。

「! ……美味しい」

「やり方によってはフライパンは必要ない」

 発して上品に食していく。

 久しぶりに美味しい料理にありつけた少年は黙々と食べ進め、その姿を微笑ましく一同は眺めた。

 ベリルは食べ終わると、残しておいた卵白にとりかかる。

「……」

 何をするんだろう? と3人はベリルの手元を食い入るように見つめた。

 卵白に砂糖を多めに入れて泡立て器で泡立てていく。なめらかになってきたら小麦粉を入れてさっくりと混ぜ、熱したフライパンでホットケーキのように焼いていった。

 焼けたものにバターとメイプルシロップをかけて完成だ。

「こんなの美味しいの?」

 サムが恐る恐る問いかける。

「食べてみると良い」

 柔らかな笑顔で見下ろされ、先ほどのこともあるので食べてみる事にした。

「! 美味い……」

「え、ホント?」

 アザムも食べてみる。

「……美味しい」

「どれ」

 レイも興味を持ち、口に運んだその味に目を丸くした。そんな皆の反応に笑みを浮かべたベリルの笑顔がキレイで、アザムはドキリとした。

『素晴らしき傭兵』とまで呼ばれる彼の微笑みは、まるで女神のようだと思う。全てを許し、その身に様々な傷を負いながら尚も笑う事が出来るベリルは凄い。

 素直にそう感じ、食器を片付けていく彼の姿をぼんやりと視界に捉えた。

 それから、レイはリビングで明日の仕事の準備をし、ベリルはそれを眺めながらブランデーを傾ける。

 アザムは自分の部屋で読書を始め、少年はシャワーを終えたあと階段を駆け上った。

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