*諦めない
「……」
レイと監視の男は音に聞き入る。しばらく銃声が途絶え、おそらく最後の一発なのだと窺える銃声が響いた。
男のライフルを持つ手に緊張が走る。
「!」
そうして、2人の前に現れた影──視界の左から、ゆっくりと歩み出てくる青年に釘付けになる。
あまりにもの堂々とした態度に呆然とした。
印象的なエメラルドの瞳が男を見据えたとき、ようやく持っていたマシンガンを青年に向けた。
ベリルは手にしていたハンドガンを指でひっかけて見えるように示し、コンクリートの地面に置いた。
[制圧した。抵抗は無意味だ]
[無意味なものか! 俺たちの命が……っ]
[無意味なのだ! その時ではない]
いつも物静かなベリルが声を張り上げる。
[……っ]
思わず合わせた視線に絡め取られ、体を強ばらせた。上品に近づいてくる姿に全身が硬直する。
猫科の猛獣にでも睨まれているような感覚だ、ぴくりとでも動けば音もなく駆け寄って牙を突き立てられるのではないかという錯覚さえ覚える。
[!? 来るな!]
我に返ってレイに銃口を突きつけた。
敵の中に自分1人だけだという恐怖が男を支配している、突きつけた銃口は小刻みにカタカタと小さな音を立てていた。
[攻撃はしない。武器を降ろしてくれないか]
両手を肩まで挙げて発する。
しかし、男はベリルの言葉が耳に入らないのか顔を引きつらせたまま引鉄にかけている指に力を込めていく。
[やめて!]
[!?]
アザムの言葉に男はビクリと体を強ばらせ、思わず引鉄にかけた指をしぼってしまった。
「!」
銃声が工場内に響き渡る──
[う……]
男は左腕を押さえて小さく呻いた。
「……っ」
驚くレイの視界には、右手を差し出すような姿勢で鋭い眼差しを向けているベリルの姿が……男が呻いた理由がそれでようやく理解した。
男が引鉄を引く直前にナイフを投げていたのだ。
[う……くそっ]
男の腕から血がしたたり落ちている。ナイフを抜こうとした男の足下に銃弾がはねた。
[そのままだ]
バックサイドホルスターから抜き出したハンドガンを構えて、ベリルがゆっくりと近寄る。
[……っ]
男は後ずさりしながら歩み寄る青年に体を強ばらせた。
「アザム、レイを」
「う、うん」
向き合う2人を横目に、アザムはレイに駆け寄り拘束を解く。
そうして他の仲間も出てきて男を取り囲むと、観念したようにうなだれた。ベリルはそれを確認し、ハンドガンを仕舞ってバンダナを取り出す。
[!?]
未だナイフが突き刺さったままの腕に傷口からやや上あたりを縛ると、男は驚いてベリルを見つめた。
[抜くと血が噴き出す。太い血管を傷つけた可能性があるのでな]
「!」
あの見事な刺し傷は彼のものだったのか……とレイは手首をさすりながらその様子を見て思い出す。
「なんで刺したままなの?」
「もし太い血管を傷つけてたら、抜くと血が沢山出るかもしれないだろ」
首をかしげる少年にアザムが軽く説明すると、やはり敵を助ける事に驚きを隠せないようで目を見開く。
「どうして……?」
ぼそりと発した少年を一瞥してベリルを見つめる。
「僕たちよりも諦めが悪いのかもね」
「え?」
「彼らを初めから敵だと諦めていたら、あんなコトはしないかもしれない」
「諦めない……」
「ベリルは目の前のものを諦めようとしないんだ」
だから僕は救われた。レイもティーロも……諦めないっていうのはとても難しい。
つくづく、彼の凄さに感心してしまう。自分の意識を誰にも押しつけることなく続けられるコトも凄いと思う。
誰をも責める事がなく、常に前を向くその姿は獅子のごとく雄々しい。





