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*引きずり出される過去

「う……」

 レイは手首の痛みに小さく唸り、パイプイスに後ろ手に縛られている事を再確認した。

 病院に行く途中、信号待ちをしていたら突然目の前に止まった車のドアが開き、出てきた男たちに拘束されて気がつけば見知らぬ場所にいた。

 なんの目的で拉致されたのかは、彼らの風貌でなんとなく察しがつく。

 どこか欧米人とは異なる容姿と動きは、否が応でも7年前の事件が記憶に甦る……国から極秘の要請で研究していたバイオ兵器を、テロリストに横流しする事で多額の金を得ようとした。

 しかし道具として利用するはずだったアザムを見ているうちに、己のしている事が間違っていると思い直し命を賭けてでも彼を救おうとした。

 自分がしてしまった事を考えると、どんな罰を与えられてもおかしくはなかった……それなのに、ベリルは「少年を養う事で償え」とレイに言い放った。

 一度裏切った相手を育てろというのは、彼にとって最も辛く残酷な言葉だったかもしれない。

 しかし、本当に償うべき相手に償えるのだと思えば受け入れざるを得ない。レイが拒否すれば少年は国に強制送還されるかもしれなかった。

 その時の彼には妻も子も恋人すらもいなかったが、突然の子持ちとなってもさほどの動揺はなかった。

 唯一の不安は少年との距離感──どう接すればその距離感を縮める事が出来るのかが解らずに戸惑う毎日だった。

 それでも一歩、また一歩と親子に近づいていたのだ。

 今更、またあの頃に引き戻されるのはまっぴらだ……

「わ、私をどうしようというんだ」

 恐怖心の見え隠れする声での問いかけに、1人の男がレイを見下ろす。

「解っていて訊くのか?」

 発した男の言葉は英語だが、独特のなまりが感じられた。

 硬い黒髪は少しカールしていて、彫りの深い顔立ちに深い青色の瞳がレイを捉えて離さない。

「お前はあのウイルスに携わっていた者だ。これからゆっくりと思い出してもらう」

 別の場所でな……と言い残し離れていく。

「……っ」

 やはりあのウイルスをまた造り出そうというのか!? 例え殺されても協力などするものか。そう思って、すぐ表情を曇らせる。

 もし、アザムを人質に取られたら解らない……私には彼のような力はない。ベリルなら、きっと全てを解決出来るのだろう。

 力のない己にこうべを垂れた。

『全ての者にはその者にしか無い力があるのだよ』

 ふと彼の言葉を思い出す。

「……」

 私には私の力があるのだろうか。

 外見は私より若いが、その雰囲気は言葉の重みを充分に与えてくれるものだ。どんな生き方してきたのか、何を経験してきたのかは解らない。

 だが、ベリルという人物は信頼できる者だと確信している。

 アザムだけでなく私やティーロまでをも救ってくれ今でも時折、様子を見に来てくれる彼に返しきれない恩がある。

「私には私の力……」

 そうだ、ここで負けてはいけない。まだ何も決まった訳じゃないんだ、彼がこのことに気づかないハズがない。

 助けが来るまで騒がず、体力を温存させなければ……

「!」

 そのとき、目の前にいる何人かの動きがおかしい事に気がつく。

「?」

 怪我でもしているのか? 医師であるレイは、男数人の動きに怪訝な表情を浮かべた。何か怒鳴り合っているようだが中東の言語らしく、何を言っているのかまでは解らない。

 すると、先ほどの男が近づいてきて威圧的に発した。

「怪我の治療は出来るか」

「え、ああ……」

 返事を聞くとレイの拘束を解き、ライフルを突きつけてあごで行き先を示す。

 それに素直に従うと座り込んでいる男数人の所に促され、救急箱のようなものを手渡された。箱を受け取り、1人ひとり怪我の状態を確認していく。

「これは……」

 どれも見事な刺し傷だ。

 なんのためらいもなく振り下ろされたような肩口の傷は痛みこそあれ、大事な部分は傷つけていない。

 こんなに鮮やかに相手の痛点をつくことが出来る人間がいるのか……レイは素直に感嘆した。

「変なことをしたら痛い目を見るぞ」

 レイに言い聞かせ銃口を突きつける。

 それを一瞥して治療を続けた。治療といっても、汚れを拭き取り包帯を巻いただけだ。

 再びパイプイスに戻るように無言の圧力をかけられて歩き出したとそのとき──

[!? 敵か!?]

 工場の前と後ろから銃声が響き、男たちはライフルを構え警戒した。

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