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*集合

 アザムの耳に車のエンジン音が届き、そちらに目を向けると黒いジープと鈍いゴールドのハマーがゆっくりと駐車場に入ってきていた。

 出てきたのは、いずれも体格の良い男たち──8人ほどのようだが、武装していることが窺えた。

「ベリル」

 1人の男が彼の名を呼び軽く手を挙げる。

 年の頃は30代後半と思われる男は、濃いグレーのカーゴパンツに藍色のTシャツとタクティカルベストを合わせた恰好をしている。

 硬めの栗毛と深い緑の瞳は、奥二重の向こうで小さくベリルたちを一瞥していく。同じくベリルもそれに手を揚げて応え、荷台の後ろに回り後部アオリを開いて荷台に地図を広げた。

 この辺り一帯の地図のようで、ベリルは赤いペンを取り出し説明を始める。

「潜伏場所。出入り口は2ヶ所だ」

 言いもって地図に円を描く、荷台には合板が敷かれているので円は難なく描けた。

「で? どう攻める」

 先ほどの男──リデロ──が問いかける。

「チームを2つに分け正面と裏にいる監視を同時に狙撃。裏はリデロ、正面は私のチームが攻める」

「……」

 アザムは、説明を続けるベリルをぼんやりと視界に捉えた。

 狙われている本人たちにどうして告げなかったのだろう? 僕たちに直接、害が及ぶ前に解決させるつもりだったんだろうか。

 知らない方がいいことだってある……アザムにとって辛い過去だということは事実だ。裏切られた過去、ただの道具として利用された記憶は今でも胸を痛める。

 だからこそ──人とはそういうものではないと確信できた。

 人は道具として生きられない。

 裏切るという事は許されない行為だ。己が受けたからこそ、心に深く刻み込まれた。

 ただの辛い過去と片付けてしまえば楽なのかもしれない。でも、それじゃあいつか自分も誰かに同じことをしてしまうかもしれないんだ。

 人は自分の思い描く通りには生きられない。その中で生きていく力を身につけて、描いた未来に向かい歩いていくんだろう……アザムは改めて心に深くその事を刻み込んだ。

「決行はいつにする」

 それにベリルが右手の腕時計を見やる。今は3時を少し回った処だ。

「今から1時間後。ポイントに移動してくれ」

「アイサー!」

 リデロと、あとの4人がハマーに乗り込み走り去った。ベリルの合図で他の3人もジープに向かう。


 正面から突入するベリルたちは、潜伏先だと思われる工場跡地のおよそ50mから入り口を窺う。

「予想通り、監視は1人のようだ」

 双眼鏡で確認している仲間がベリルに向かって発した。

「装備とヘッドセットの確認を」

 仲間たちが一斉に確認を始める。

 アザムとサムの2人も渡されたヘッドセットをぎこちなく耳に装着した。慣れていない2人が使いこなすことは出来ないがベリルたちの動向をそれで確認出来るため、ある程度の説明を受けたあと手渡されたものだ。

 装着したヘッドセットから早速、通信が入る。

<リデロだ。こちらは待機完了>

「警戒は怠るな」

 指示を出しながら準備するベリルの見た目はあまり変わっていない。元々、身につけている武器が多いためだ。

『全身凶器』と言われる由縁だが、武器の装備量だけでなく体術にも優れているためそう呼ばれている。

「オレにもなんか武器くれ」

 少年は勝ち気な態度でベリルに手を出した。そんな少年をしばらく見下ろし、彼はフッ……と優しげな微笑みを見せて頭に手刀をお見舞いした。

「!? いってぇー!? なにすんだよっ」

 ゴツッ! という音がして目から火花が散る。

「武器を使えばそれ以上に痛い」

 さらりと言い放ち、仲間たちと作戦の最終確認を始めた。

「なんだよ……っ」

「君には向かないってコトだよ」

 頭をさすってベリルの背中を睨み付ける少年に、アザムは目線を合わせるように腰を折り発した。

「なんでそんなのわかんだよっ!」

「自分のコトって意外と自分では解らないものなんだ」

「!」

「本当は僕の武器も取り上げたいんだと思う」

「じゃあ、なんでそうしないんだよ」

「僕は責任を負わなきゃいけない歳だからだよ」

 少年は怪訝な顔でアザムを見上げる。アザムの表情はにこやかだが、どこか愁いを帯びていた。

 まだ理解できない少年も、いずれは気づく事になるのだろう……今はどう説明していいかも解らない。

 目を閉じて気持ちを落ち着かせ、ホルスターの上から武器に手を添えてベリルを見やる。

 出会った時となに一つ変わらない彼に安心したと同時に、生き続けなければならない現実を目の当たりにした。

 自分がもし、そうだったらと思うとゾッとする。どうして変わらずにいられるのか、アザムには解らなかった。

 それは、誰にも解らないのかもしれない……到底、計り知ることの出来ない事象だからだ。

 誰1人として彼の口から悲観する言葉を聞いた事が無く、身を隠そうとした事もないと言う。

「ベリルだから……なんだろうね」

 口の中でつぶやいた。

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