*小さな殺人鬼
一向に影から出てこない男に近付く。彼の態度と口調……怪我をしている。
「!」
腹部に撃たれたであろう血の跡、いや……まだ血は流れている。しゃがみ込んだ青年に、男はグイと何かを押しつけた。
「……」
どうやら子どものようだ。
「こっこの子を、頼……む」
「何?」
少し驚いたが、それよりも男の容態が気になり、子どもに一瞥する事もなく腹部に視線を向けた。
「おっ、俺のことはいい……とにかく、この子を」
傷口を見ようとする青年の手を拒否しながら発する。
「黙っていろ」
眉をひそめて男の上着を破くと傷口をきつく縛り、バックポケットから携帯電話を取り出した。
「ケイン。座標は解ったな。頼む」
言って電話を切り男の腹部に手を当てた。
「お前はそこにいろ」
「この子は、アザム。この子の中には……殺人ウイルスが眠っている」
「!?」
発せられた言葉に眉間のしわが深くなる。
「あ、あなたにしか、頼れなかった。『素晴らしき傭兵』と、うたわれるあなたに……」
「もう良い、喋るな」
「逃げて下さい……っ追手が……」
その言葉にベリルは辺りを窺った。
「……」
近くに気配は無い……が、嫌な感じが肌にまとわりついている。確かに、ここから早く離れた方がよさそうだ。
「動くな」
彼が先ほど電話したのは、馴染みの医者である。携帯のGPSを辿らせてこの男を回収させようというのだ。
無表情の少年に目をやる。
ウイルス……?
「潜伏期間は」
「今は……冬眠状態だ。あと、10日ほど」
この男に詳しく聞きたい処だか、時間は無いようだった。嫌な感覚が大きくなってきている。
「ここにいろ」
男に言い聞かせ、少年の手を握って駆け出した。とりあえず乗ってきた自分の車まで足早に向かう。
「……」
少年に目を向けると、ムスッとした表情を崩さずについて来ていた。
年は10歳ほどか。褐色の肌にダークブラウンの髪と、その髪よりも明るい瞳をしている。
随分とひねくれてそうだ……小さく溜息を漏らした。助手席のドアを開き、中に入るように促す。
少年は少し睨みを利かせたあと、渋々オレンジレッドのピックアップトラックに乗り込んだ。
さてどうしたものか……少年を一瞥して思案した。
身長は140cmちょいほどだが、こんな年頃の子どもなど扱ったことがあまりない。それに、大抵はベリルに友好的だった。
しかしどうだろう、この子の目は明らかにベリルを信用できないといった目だ。
とりあえず車を走らせた。
「……」
殺人ウイルスね……どういった経緯でここまで来たのか知りたい処だが、果たしてこの少年はそれを素直に教えてくれるのか。
おもむろに車を止めて少年に視線を向ける。
「さて、アザム。お前はどこから来た」
プイッと、そっぽを向かれた。
予想通りの反応に、彼は目を細めて口の端をつり上げる。
「イテテテテテ!? イターイ!」
「答えてくれんかね」
目を据わらせて少年の太ももを思い切り握った。
「……っ」
「!」
聞こえるか聞こえないかのようなか細い声に眉をひそめる。
中東の国か……確かあそこは今も内戦でごたついている。
「ボクを引き取ってくれるって人が現れて、ここに連れてこられた」
少年は太ももをさすりながら、ぶっきらぼうに続けた。英語を話しているが確かに独特のなまりが少年の口調にはある。
「どこに打たれた」
「……」
少年はベリルを一瞥したあと、車の外に顔を向けた。それに溜息を吐き出し、ハンドルに両腕を乗せる。
「いいかアザム」
少年に言い聞かせるように顔を向け、少し険しい表情で発した。
「私の事が好きでないならそれで良い。だが、訊かれた事には答えろ」
「……」
少年は渋々ながらも頷いた。
「よし。打たれた場所はどこだ」
無言で左腕と右腕を示す。
「!」
2ヶ所……? 打たれたのはウイルスだけではないのか? 怪訝な表情を浮かべた。
とにかく、どんなウイルスを打たれたのか調べる必要がある。
「ふむ……」
近くに大学病院は……考えながら携帯を取り出す。調べた処、この町には馴染みの大学病院は無い。
さて、どうしたものか……彼は小さく溜息を漏らした。





