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*翻弄-ほんろう-

「特別仕様だぜ」

 その男はニヤリと笑って車を親指で差した。

「よろしく頼む」

「おう!」

 キーを渡すと、金色短髪の男はピックアップトラックに向かう。鼻歌交じりにキーを振る背中にベリルは小さく笑んだ。

「どうするの?」

「私の車で走ってもらう」

 時間稼ぎにはなる……そう言って新しい車のドアを開いた。

 少年は促されるまま助手席に体を滑り込ませたが、さすがスポーツカーだけに中は狭くて目線はとても低い。

 今までピックアップトラックに乗っていたせいか、とても窮屈に感じられた。ベリルも乗り込み、スポーツカーはゆっくり発進する。

 トラックのドアにもたれかかって軽く手を揚げしばしの別れを告げる男に、ベリルも同じく手で応えた。


 そうしてしばらく走らせていると、バックシートが気になるのか少年はチラチラと視線を送る。

「……」

 テロリストたちが投げた袋をちゃっかり持ってきていた。

 抜け目がない……

「なんでお金を取るの?」

「有効に使う他に理由があるかね」

 すっぱりと言い放たれ二の句が継げない。

「持ってみて金ではない事は解ったがね」

「え?」

 アザムは袋を見ようと手を伸ばした。

「噛まれるぞ」

「!? 噛まっ……!?」

「危険なので持ってきたのだよ」

 薄笑いで応えるベリルを一瞥し、再び袋に目を向ける。

 もしかして毒蛇とか入ってるのかな……微妙に動く袋にギョッとして、あたふたと体を前に戻した。

 この車にも同じようにカーナビの処にくぼみがある。

「最近出来た仲間だよ」

 少年の考えを読み取ったのか、笑みを見せながら応えた。

「楽しい奴でね」

 発してカーナビに手を伸ばし、どこかを入力し始める。

「!」

 見たような地図……さっき出していた地図だ。表示されている名称は『オレンジウエスト大学病院』

 現在地と大学病院までの道をじっくりと舐めるように見つめたあと、小さな溜息を漏らして缶コーヒーをひと口含んだ。

「そろそろ気付かれたかな」

「え?」

「私の車だよ」

 ベリルは口の端をつり上げた。


「見つけた? どこだ……乗ってる奴が違う? どういうことだ」

 メイソンは携帯に声を張り上げる。

 FBIは少年を確保するため、ベリルのピックアップトラックを追っていた。仲間がトラックを見つけ、数時間のカーチェィスの末になんとか車を止めたものの……出てきたのは青年が1人。しかもベリルでもない。


「え? ベリル? 誰それ」

 とぼけて言った青年に暗いスーツ姿の男たちは皆、一様に頭を抱えた。

「車は拾ったって言うんだ」

 黒いセダンの背に腕を乗せて、仲間3人に取り囲まれている青年を遠目で見ながら携帯の向こうにいるメイソンに男が告げた。


「……」

 それを聞いたメイソンも頭を抱える。

「とにかく、そいつの聴取を頼む」

 通話を終わらせた携帯を内ポケットに仕舞い、大きな溜息のあと暗くなった街を見渡した。

「まったく、信じられない。ここまでトリッキーな相手とは」

 セピア色の短い髪をかき上げる。

 40代近いメイソンは、ベリルの行動が読み取れなくてイライラしていた。

「さすが……というべきか?」

 軽く舌打ちをして車に乗り込んだ。


 一方、ベリルはというと──

「何か食べたいものはあるか」

「特には……」

 呑気に街中をドライヴ中だ。

「……」

 大丈夫なのかな? 見つからないかな……少年は窓の外を警戒した。

「お?」

「なに?」

 何かに気がついたような声を上げたベリルに顔を向ける。

「見つかった」

「えええ!?」

 驚くアザムをよそに、彼は変わらず気楽に運転していた。少年は恐る恐る後ろを窺う。

「……あの」

「なんだ」

 険のない物言いで聞き返すと、少年は苦笑いを浮かべ後ろに指を差す。

「追ってきてるよ」

「そのようだな」

 言って車通りの多い道に入る。

 すると──

「あれっ!?」

 追ってこない?

 必死に追いつこうとしていた車が、何やら迷ったような動きをしたあとに速度をゆるめて遠ざかっていく。

「なんで?」

「見失ったのだよ」

 こんな車を見失うって……? 少年は唖然として頭の中は疑問符で一杯だ。ベリルは少年の反応にクスッと笑みをこぼす。

「特別仕様だと言っていたろう。マジョーラ塗装なのだよ」

「マジョーラ?」

「見る角度や光の当たり方により、様々な色に変化する偏光性塗料の事だ」

「へえ……」

「これはジュエルコレクションのエメラルドかな」

 微笑んだあと窓の外を一瞥し、ぼそりとつぶやく。

「早いが……そろそろ行くか」

 車は進路を変え、町の外れに向かっていった。

「?」

 どこに向かおうとしているんだろう。少年はベリルの横顔を見て首をかしげた。


 しばらく走った車は、少し雰囲気の違う一帯にさしかかる。街灯はまばらに点在し、広大な敷地には憩いの場として雑木林もあるようだった。

 おそらく、裏口だと思われる門にさしかかる。暗がりに黒い鉄格子がくっきりと縦縞を浮かばせ、外界との境界線を主張していた。

「あっ」

 視界に飛び込んできた名前に少年は思わず声を上げる。

 静かに入っていく敷地に立てかけられていた看板に『オレンジウエスト大学病院』

 と記されていた。

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