桃源郷と呼ばれし村
山々が紅葉に染まる、秋めく山間の村でのことである。
田園地帯は、一面の黄金色に染まっていた。
ザアザア――と、肥沃な大地の上で育った稲穂の首は、重く垂れさがる。秋の気まぐれな風に揺れて、豊穣を知らせる声を上げた。
稲作だけではない。畑の野菜も、果樹園も豊作。蚕の糸は上等で、美しくも滑らかな絹糸が評判を呼んだ。
この村――刀根田村は実り豊かで、貧しさとも飢餓とも無縁。
その姿から、桃源郷のようだと噂されていた。
だが、桃源郷という御伽話のような響きとは違い、村人達の表情は暗い。
それは、この村に代々伝わる儀式が近く、恐怖と緊張が高まっているのだ。
刀根田村では毎年、秋の収穫に合わせて豊穣祭が行われる。
豊穣祭では収穫した一部と一緒に、刀根田村が独自に祀る神――八千矛神に供物を捧げなければならない。
それの何が恐ろしいかと言えば――十年に一度は、特別な供物を用意する必要があるのだとか。
村の端――田園地帯の畦道を抜けた先にある、山の麓。そこは、重暗い空気に包まれていた。柘植の木で作られた垣根が、よりそう思わせるのだろうか。簡単には見通せない茂みの向こうは、鎮守の杜の如く厳かな空気が漂っていた。
中心には、酒蔵を思わせる大きな蔵。異様な気配はそこから。そこに、八千矛神が棲まうと云われているのだ。
村人は安易に近付きはしない。漠然と、畏ろしいのだ。
人だけではない。獣も、鳥も、虫すらも、それこそ、およそ妖と呼ばれるような類すらも、垣根――境界を越えようとはしない。
まるで、そこが神域とでも言うかのように。
もう直に、儀式が始まる。
その証拠に、畦道には花嫁行列が蔵へと向かって進んでいた。




