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幽冥婚姻譚〜契約夫婦の怪異録〜  作者:
序話

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1/5

桃源郷と呼ばれし村

 山々が紅葉に染まる、秋めく山間(やまあい)の村でのことである。

 田園地帯は、一面の黄金色(こがねいろ)に染まっていた。

 ザアザア――と、肥沃(ひよく)な大地の上で育った稲穂の首は、重く垂れさがる。秋の気まぐれな風に揺れて、豊穣を知らせる声を上げた。

 稲作だけではない。畑の野菜も、果樹園も豊作。(かいこ)の糸は上等で、美しくも滑らかな絹糸が評判を呼んだ。

 この村――刀根田村(とねだむら)は実り豊かで、貧しさとも飢餓とも無縁。

 その姿から、桃源郷のようだと噂されていた。


 だが、桃源郷という御伽話のような響きとは違い、村人達の表情は暗い。

 それは、この村に代々伝わる儀式が近く、恐怖と緊張が高まっているのだ。

 刀根田村では毎年、秋の収穫に合わせて豊穣祭が行われる。

 豊穣祭では収穫した一部と一緒に、刀根田村が独自に(まつ)る神――八千矛神(やちほこのかみ)に供物を捧げなければならない。

 それの何が恐ろしいかと言えば――十年に一度は、()()()()()を用意する必要があるのだとか。

 

 村の端――田園地帯の畦道(あぜみち)を抜けた先にある、山の麓。そこは、重暗い空気に包まれていた。柘植(つげ)の木で作られた垣根が、よりそう思わせるのだろうか。簡単には見通せない茂みの向こうは、鎮守の杜の如く(おごそ)かな空気が漂っていた。

 中心には、酒蔵を思わせる大きな蔵。異様な気配はそこから。そこに、八千矛神(やちほこのかみ)が棲まうと云われているのだ。

 村人は安易に近付きはしない。漠然と、(おそ)ろしいのだ。

 人だけではない。獣も、鳥も、虫すらも、それこそ、およそ妖と呼ばれるような類すらも、垣根――境界を越えようとはしない。

 まるで、そこが神域(しんいき)とでも言うかのように。


 もう直に、儀式が始まる。

 その証拠に、畦道には花嫁行列が蔵へと向かって進んでいた。

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