表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうして妻は〜勇者が語る真実  作者: じいちゃんっ子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

第3話 妻の足掻き

「な…んで…」


 アレックスと3年振りの再会。

 こんな姿を見せてしまい、言い訳の一つすら出来ない自分に苛立ちが募る。


 もう一度アレックスと話をしなければ手遅れになってしまう。

 もうマンフレッドは居ない。

 私を守ってくれる人は誰も居なくなってしまった。


「…ゆび…わ」


 アレックスにマンフレッドからの指輪を見られたりしなかったか、不安で心が押し潰されそうになる。


 あれを見られたら、もう手遅れ。

 私がマンフレッドの妻だという証、アレックスに見られてはならない。


「だ…だいじ…ょ…」


 きっと大丈夫の筈。

 だって左腕は毛布の下に隠されていた、アレックスも私に、

『生きていてくれて良かった』って、言ってくれたんだから。


 いや『生きていただけで』、だったかな?

 どちらでも良い、マンフレッドの事がバレてないなら、きっと元の夫婦に戻れる。


 それに、お父様も助けてくれるわ。

 まあ心配掛けたと思うけど、私には優しいから。


 それより、カリーナをアレックスに会わせてはダメだ。

 3年間ずっと、カリーナはアレックスの事ばかり想い、戦い続けていたんだから。


『生きる希望なの…』

 顔を赤らめ、呟いていたカリーナ。

『彼は私の夫だ』何度も言いたかったが、私の立場上、それは出来なかった。


 アレックスに対する気持ちが、愛情だとカリーナが気づく前に、手を打たないと、取り返しのつかない事になる。


「マン…フレ…ッド」


 アイツめ、肝心な時に死ぬとは、本当に役立たずだ。

 カリーナが苦戦してるところを見ようなんて、誘っておきながら、私までヒュドラの毒に巻き込むなんて!


 私を奪ったんなら、ちゃんと最後まで責任を取れるようにしろ!

 それもしないで、自分だけアッサリ死ぬなんて無責任じゃないか。


 これで貴族の正妻になる夢は絶たれた。

 マンフレッドが生きていたら、私が第一夫人の地位を奪えただろう。


 カリーナが自分に課せられた、使い捨て勇者の鎖を引き千切る事になれば、アレックスまで奪われかねない。


 先ずはカリーナを遠ざける必要がある。

 私からゲスター家に連絡を入れたら、伯爵家の操り人形のカリーナはまた動くことが出来なくなるに違いない。


「み…てなさい…カ…リーナ」


「呼んだ?」


「…な」


 なぜカリーナが素顔を晒した状態で私の部屋に入って来るの?

 カリーナの素顔は自分のテント以外の場所で見せる事は禁じられてるはず!


「そんなに焦らないの、余り無理すると、毒がまた振り返すわよ」


「…フゥー…フ…ゥー」 


 必死で呼吸を整え、落ちけさせる。

 毒が進行するあの恐怖は耐え難い。


「そうよね、マンフレッドみたいに死にたくないでしょ?」


「……ッ!」


 なぜそんな事を言うのか!

 マンフレッドの悲惨な最期は、隣で寝かされていた私にとって、身の毛もよだつ記憶なのに。


「徐々に息が出来なくなって窒息死…

 臆病者のマンフレッドには3日間の耐え難い恐怖だったでしょうね」


「や…や…め…」


 やめて!

 あんな死に方はいやだ!!


「止めないわよ」


「…え…」


 カリーナは冷たい瞳で私を見つめる。

 まるで私が虫けらみたいに。


「貴女がアレックスの()妻だったなんてね、()()()()()さん」


「う…」


 甚振らないで!

 私は貴女を騙す気は無かったのに。


「さぞ痛快だったでしょ、哀れな女が縋る想い人が、自分の捨てた男だったなんて」


「ち…ちが…」


「違わない。

 私は貴女を信頼していたから、話をしたのよ。

 貴女が私の唯一、心を通わせる事の出来る人だと思ったから」


「だれ…にも…いっ…て…ない」


「マンフレッド以外の人にでしょ」


「……」


「マンフレッドの部屋に遺されてた手紙にあったわ、私が貴女に言った内容を伯爵家に報告するのが」


「…あ…」


 仕方がなかったんだ! 

 マンフレッドの役に立たないと、私の立場が危うくなるのよ?


「ベラベラ喋った私も私だけどね」


 フッと笑うカリーナ。

 憂いが無くなると、人はこれほどまでに輝けるの?


「だから赦してあげる」


「…は?」


「貴女の命までは奪わない。

 これからも生きる()()()手配してあげる」


「は…?」


 それはどういう意味?


「言っておくけど、父親を頼るなんて考えない事ね、娘の不始末に大隊長の職を辞したから」


「…ま…まさ…か」


「これだけアレックスを苦しめたんだから当然よね、それに娘が貴族の情婦だったなんて、知られたら面目が丸潰れよ職務を続けられる訳ないわ」


「…お…お父…様」


 大隊長の職に誇りを持っていたお父様…


「さて、行くわね」


「…ど…どこに…」


「亡命よ、私はこの国を捨てるの」


「ぼ…ぼう…めい」


 そんな事出来る筈ない!

 許されない!!


「アンタの気持ちがどうあれ、私はやるのよ。

 安心しなさい、あなたも含め、縛りあげた正規兵士も一緒に連れって行ってあげる。

 どうせ国に帰ったところで、あなた達は私を止めらなかった罪で死刑になるだけだから」


 そんな事!


「新たに集めた補充兵は、みんな私の味方よ。

 これからも魔獣討伐を続ける事が条件だけど」


 カリーナめ!


「う…うらぎ…りもの」


「夫を裏切った貴女が、それを言う?」


「ち…ちが…う」


 裏切ってない!

 私にだって言い分はある、アレックスの助けになりたかっただけ。

 私を頼りにして欲しかった。


 だから私も討伐隊の隊員になれるよう、推薦状を偽造して家を出た。

 誰にも言わなかったのは、反対されるのが分かっていたからだ。


 だけど、辿り着いた王都の試験会場で見たのは、カリーナから、一方的に叩きのめされ、敗北する不様なアレックスの姿だった。


『あれが彼の実力だ』

 私の隣で試合を見ていた男性が呟いた。


『何かの間違いです、主人があんな…』

 信じられなかった。

 アレックス以上の実力を持った人なんか居ないと信じていた。


『まあ、彼も随分王都を満喫していたようだし』


『…どういう事ですか?』


『彼も男だったと言う事だよ、娼館で羽を伸ばし過ぎたみたいだ』

 それがマンフレッドとの出会いだった。

 アレックスの不義、彼との結婚を勧めた父上にも絶望した。


「大体の事はマンフレッドの遺した日記で知ってる。

 世間知らずのお嬢様が騙される典型ね」


「だ…ま…れ 」


 騙されてると分かった時には既に戻れなかったんだ!

 もう私はマンフレッドに抱かれ、カリーナの従者として、魔獣退治に各地を転々として…


「…アレッ…クス」


「あの方の名前を二度と呼ぶな」


 底冷えのするカリーナの声に動かないはずの身体が震えた気がした。


「彼は私と共に生きる。

 もう貴様と歩む未来はない」


「…な?」


「裏切り者にはこれをあげる」


 カリーナは袋から取り出した金色の塊を目の前に置いた。


「……こ…これ…は?」


「よく見なさい」


 必死で目を凝らす。

 何か字が彫られて…


「…ま…まさ…か」


 僅かに読めるアレックスとアントネラの文字。

 これはアレックスから贈られた指輪?

 私がマンフレッドから指輪を贈られた時に、処分するからと渡した物。


「マンフレッドが隠していたの。

 寝取った女と絶望をする男、愉悦の為にね」


「あ…あ…」


 指輪が…潰されてる…


「アレックスが潰したの。

 意味する事は分かるわよね」


「アア…ア!ア…アア!」


 指輪を潰す。

 それが意味するのは、

 永遠に縁を切る。

 もう絶対に戻る事の無いアレックスとの縁…


 アレックスは全部知ってしまったの?

 まさか本当に私達は終わり?


「それじゃ、私はアレックスと先に行くわね。

 あんた達は後から回収する様にしてあげる。

 アレックスをあんまり待たせたら悪いもん」


「ま…まっ…て」


 カリーナが出て行ってしまう!

 せめてアレックスにもう一度。

 赦されないとしても、最後にもう一度…


「ま、…?ハッ!ガアァ!」


 呼吸が出来ない。

 まさか興奮し過ぎて毒が?


(…アレックス…私は…)


 視界が暗転した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ有る意味被害者だったとも言えますが・・・。 義父も平民出だったのかな? 貴族としての常識も無さがだしアン。
ざまぁが邪魔ァに底抜けしたの負け。(•▽•;)(自番珍禍した猿珍番交はこれだから!自壊さん轍好きは故地羅側呆向へと。番→つがい。)
そういうことでしたか~。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ