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◆第9章「過去と未来の狭間で」

――静かなる隔離


 晋太郎(しんたろう)は別の施設に移動され、そこは天宮高校の中でも特に厳重に管理された特別療養区域だった。

 白を基調とした廊下、柔らかな照明、管理用の結界が張り巡らされており、一般の生徒は立ち入りを許されない。


「……表向きは“経過観察”ってやつか」


 晋太郎(しんたろう)は窓辺の椅子に座り、小さく笑った。

 再生した右腕――雷がそのまま形となり、自分の意思に従って動くこの腕。

 まだ安定せず、時折ビリ、と青白い火花を散らす。


(けど……わかってる。

 これは俺自身が、いつ暴走してもおかしくないかもしれないからだ)


 あのとき浅井(あざい)を倒した雷撃は、自分でも恐ろしいほどの力だった。

 総一郎(そういちろう)は“経過観察”と言葉を選んだが、実際は監視と封じ込めだ。


 そう思った瞬間、扉がそっと開いた。


――訪問者


 黒棺(くろひつぎ) 災禍(さいか)が、静かに部屋に入ってきた。


「……来たのか」


「ええ。執行者の肩書きがあるから、こういう場所でも、面会くらいはね」


 彼女は晋太郎(しんたろう)の傍に腰を下ろし、その顔を覗き込む。


「調子はどう?」


「……上々、かな。でもまだ右手が勝手に走る。夢の中でも、雷に追いかけられるよ」


「……それでも、あなたはちゃんとここにいるじゃない。自分を見失わずに」


 災禍(さいか)はそっと晋太郎(しんたろう)の手を握る。

 その手が少し震えていたのは、雷のせいか、それとも彼自身の恐れか。


「ねえ、晋太郎(しんたろう)くん。覚えてる? 私、あの時言ったでしょ。

 “あなたの光は優しい”って。今もそう思う。だから――負けないで」


 晋太郎(しんたろう)は小さく息を吐き、弱々しくも確かな笑みを浮かべた。


「……ありがとう、災禍(さいか)


――そのころF組


 その頃、F組の教室では浅井(あざい) 桐谷(きりや)が、ようやく仲間として馴染み始めていた。


「で、執行者さんよぉ……いや、もう“ただの浅井”か」


 紅蓮(ぐれん)が豪快に笑い、軽く拳をぶつける。


「今でもまだちょっと怖いけどよ……あんとき、晋太郎(しんたろう)とぶつかって、変わったんだなって思うぜ」


 水鏡(みかがみ) 莉央(りお)は相変わらず腕を組み、口を尖らせる。


「……あの方は規則は破ったけど、まあ。貴方は、これから“仲間”として失態のないように」


「はい、はい。肝に銘じますよお嬢さん」


 浅井(あざい)がそう答えると、

弔伊(とむらい)も少し緊張しながら笑った。


「彼女に何かあったら、本気で斬りますからね?」


「怖っ……頼むから睨むのはやめてくれ」


 そして(しずく)は、少しだけ寂しそうに窓の外を見つめながら呟いた。


「……晋太郎(しんたろう)、今どうしてるかな」


「心配するなよ。あいつは俺たちの――仲間だ。」


 浅井(あざい)が力強くそう言ったその瞳は、かつて“執行者”だった男とは思えないほど穏やかだった。


(俺も、あいつみたいに……希望を糧にしてみよう。そう決めたんだ)


――暗い訪問


 しかしその夜。


 校舎の奥の別棟に佇む総一郎(そういちろう)の元へ、一人の黒服が音もなく近づいた。


「……浅井(あざい) 桐谷(きりや)は、新しい自分として生きるそうです」


「そうか。いいことだ。

 彼を受け入るには、それに見合う試練を与えねばならない」


 総一郎(そういちろう)は薄く笑う。


天貝(あまがい) 晋太郎(しんたろう)――彼はもう少し隔離が必要だ。

 ……そう、未来のためにね」


 その瞳には、一切の情がなかった。


◆第9章「過去と未来の狭間で」了




◆第9章 登場人物一覧


天貝あまがい 晋太郎しんたろう

F組の生徒で主人公。

失った右腕の再生と共に力を取り戻し、執行者との因縁に終止符を打ったが、その影響で“裏切り者”としてのレッテルを貼られてしまう。

今章では戦いの余波と孤独に苛まれながらも、自らの信念を貫こうとする。


月島つきしま しずく

F組の生徒。式神と護符を用いた戦いを得意とする。

晋太郎を想うがゆえに、彼の“裏切り”とされる行動に心を痛めつつ、味方でありたいと願っている。

今章では晋太郎を見守りつつも、その孤独に心を寄せる姿が描かれる。


水鏡みかがみ 莉央りお

F組の生徒。脳力「幻光写し(リフレクト・ミラージュ)」。

過去には規律を重んじていたが、徐々に仲間を思う気持ちが強くなっている。

今章では晋太郎に対して一定の距離を保ちつつも、仲間としての想いが揺れる姿が描写される。


弔伊とむらい 直也なおや

F組の生徒。脳力「相殺」。

理性的で冷静な判断を下す。

今章では「罪」と「正義」の狭間で揺れる晋太郎を観察する立場にいる。


紅月あかつき 紅蓮ぐれん

F組の生徒。脳力「爆熱起動ヒート・ブースト」。

晋太郎を信じて行動する数少ない理解者。

今章では強く味方としての姿勢を貫き、孤独な晋太郎の背中を押す。


冷水ひやみ 冬弥とうや

F組の生徒。寡黙で本好き。脳力は未記載。

今章では口数は少ないながらも、行動と言葉で晋太郎の立場を受け止める様子が描かれる。


黒棺くろひつぎ 災禍さいか

晋太郎の再起を支えた少女。

今章では直接の出番は少ないが、晋太郎の心に残る存在として描かれる。


風間かざま 洞爺とうや

F組担任教師。軽妙だが生徒のことを深く考えている。

今章では晋太郎の処遇を巡り、教師としての立場で彼を見守る。


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