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◆第4章「F組、最初のチーム任務」


 天宮高校(あまみやこうこう)では、脳力の実戦適応力を高めるため、生徒たちに定期的なチーム任務が課される。

 それは、単なる訓練ではない。実際に市内で発生する異能事件や、研究所の依頼案件に対処する、いわば“学生たちの小さな戦場”だ。


 F組にも、ついにその時が訪れた。


「君たちF組には、天宮市内の第9防衛区画で発生した“ノイズ”の調査任務を与える」


 教室に現れた風間(かざま) 洞爺(とうや)は、ホログラムマップを展開しながらそう告げた。


「“ノイズ”?……それって」


「異常脳力のことさ。暴走、異常進化、あるいは脳力者以外の存在によるエネルギー干渉。原因は様々だが、放っておけば町に害をなす。今回は調査と状況の記録、必要があれば抑制行動だ」


「つまり……戦闘になるかもしれないってことか」


 紅蓮(ぐれん)が腕を組み、笑みを浮かべる。


「面白えじゃねぇか。暴れられるってことだな」


「……軽く言わないで。ノイズは、本物の危険よ」


 静かにそう言ったのは、(しずく)だった。彼女の表情には、かつての記憶がよぎっているようだった。


「この任務には、天貝(あまがい)紅月(あかつき)月島(つきしま)の三人が出るように。初任務だ、無理はするな」


「了解!」


 紅蓮(ぐれん)が元気よく答え、晋太郎(しんたろう)も続いて頷く。


(しずく)も一緒か……)


 胸の内に、微かな緊張が走る。だがそれは、不安ではなかった。むしろ、心強さだった。


 


 ◆


 任務当日。第9防衛区画――そこは、かつて脳力実験の跡地だった。今は封鎖され、立ち入り禁止区域となっている。


「空気が……重い」


 (しずく)が呟くように言った。


 廃墟のような建物群が並び、風の音すらもどこか不穏に感じられた。


「観測班によれば、この区域で脳力反応が異常に上昇しているらしい。人の気配はなし。……だが、何かがいる」


 紅蓮(ぐれん)が前を歩きながら警戒する。


英雄(ヒーロー)さん、油断すんなよ」


「……俺にも名前、あるからな」


「ははっ、悪い悪い。でもさ、あの“右手”なら何かあっても大丈夫だろ?」


「……そう簡単なもんじゃないよ」


 晋太郎(しんたろう)は、右手をそっと見下ろす。


 そのとき――


「……来る」


 (しずく)がぴたりと立ち止まり、目を細めた。


 次の瞬間、建物の影から“それ”が現れた。


「ッ……あれは!?」


 人のようで、人ではない。


 黒くねじれたシルエット。身体中から異様な脳力の“揺らぎ”を放っている。


「ノイズ体反応確認――脳力偏位指数、170%……!」


 紅蓮(ぐれん)が読み取った数値に、全員が息を呑む。


「高い……!」


「話は通じねぇな。じゃあ――行くぜ!」


 紅蓮(ぐれん)の体から炎のようなオーラが噴き上がる。彼の脳力《爆熱起動ヒート・ブースト》が起動し、地を蹴った。


 ゴオォッ!!


 紅蓮(ぐれん)の一撃がノイズ体に直撃――だが、


「なっ……!?」


 ノイズ体の腕が異様に伸び、紅蓮(ぐれん)の体を弾き飛ばした。


「ぐっ……!」


紅蓮(ぐれん)!!」


 晋太郎(しんたろう)が駆け寄ろうとする――その背後から、ノイズ体の触手のような脳力が迫る!


「下がって!!」


 (しずく)が指で印を結ぶび、御札を投げる


 ノイズ体が幻影に惑わされた隙に、(しずく)が走り出す。


「式神 急急如律令 八重(ヤエ)(ホムラ)!」


 御札から具現化された二匹の狛犬たちがノイズ体を取り囲み、撹乱する。


「今のうちに……!」


 晋太郎は手袋を外した。指先がビリつき、雷が走る。


(この力で……守るんだ!)


「右手に希望を(ライトオブザホープ)!!」


 雷光がノイズ体を直撃する。


 だが――


「まだ動く……!? 今ので沈まないのかよ!」


 ノイズ体は、雷を浴びながらも唸り声を上げ、再びこちらへ迫る。


「……もう一発撃てば……!」


 しかし、右手は痺れて動かない。あの力は強すぎる。短時間に何度も使えるものではなかった。


晋太郎(しんたろう)、下がって!」


 (しんたろう)が前に出る。その手には、破片を集めたガラスの欠片が握られていた。


 それを投げつけ、印を結ぶとガラスから小さな鳥が飛び出してくる。


「今……! 紅蓮(ぐれん)、行ける!?」


「あたぼうよぉぉッ!!」


 復帰した紅蓮(ぐれん)が全身に炎を纏い、ノイズ体の中心へ突進する。


「熱量最大解放――《紅蓮爆破グレナディア・インフェルノ》ッ!!」


 衝撃波とともに、炎の柱がノイズ体を包み込んだ。


 爆音。


 そして――沈黙。


 煙の中から、完全に動かなくなったノイズ体が崩れ落ちる。


 ……戦闘終了。


「ふぅ……やったぜ」


 紅蓮(ぐれん)が膝に手をつき、息を整える。


(しずく)、無事?」


「……ええ。あなたたちが盾になってくれたおかげで」


 そして、(しずく)は静かに晋太郎(しんたろう)のほうへ目を向けた。


「ありがとう。……やっぱり、あなたの力は“守るため”にあるのかもね」


 晋太郎(しんたろう)は少しだけ、笑って答えた。


「そうだといいけどな。でも、一人じゃ無理だった。……ありがとう、(しずく)紅蓮(ぐれん)も」


 3人の間に、確かな信頼が芽生えていた。


 



 任務後、校舎へ戻ったF組の三人は風間に報告を済ませた。


「よくやった。お前たちは、単なる力だけじゃなく、連携を学びつつある」


 風間(かざま)は珍しく満足そうに頷いた。


「今回の件で、君たちは正式に“チームF”として認定される。今後の任務も、共に戦っていくことになるだろう」


「チーム……か」


 晋太郎(しんたろう)は呟く。


 (しずく)も、紅蓮(ぐれん)も、静かにそれに頷いた。


 ――これが、彼らの第一歩だった。


 まだ未熟で、まだ危なっかしくて。


 だが確かに、「チーム」としての絆が、今、芽吹こうとしていた。


◆第4章「F組、最初のチーム任務」了




◆第4章 登場人物一覧


天貝あまがい 晋太郎しんたろう

脳力「右手に希望を(ライト・オブ・ザ・ホープ)」の使い手。

雷を右腕に宿し、感情によって出力が変化する強力な能力を持つ。

チーム任務を通して、仲間との連携を学んでいく。



月島つきしま しずく

式神召喚と護符を用いて戦うお札術師の少女。

冷静沈着で判断力があり、チームの要となる存在。

晋太郎への想いが少しずつ表に出始める。



紅月あかつき 紅蓮ぐれん

脳力「爆熱起動ヒート・ブースト」を持ち、爆発的な炎の使い手。

任務では前衛として突撃し、戦闘を引っ張る頼れる存在。

勝気で熱血漢だが、仲間に対する情も深い。



風間かざま 洞爺とうや

F組担任教師。

生徒たちに初めての任務を与え、実戦の洗礼を受けさせる。

見守る姿勢の中に厳しさと期待が垣間見える。


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