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◆第1章「右手に宿る、希望の光」

 天貝(あまがい) 晋太郎(しんたろう)は、右手に手袋をはめたまま、駅前の坂道を歩いていた。焼けつくような陽射しの中、背中に汗が滲む。目的地は、坂の頂上にある――「天宮高校(あまみやこうこう)」。


 そこは、脳力者育成の聖地。世界でも指折りの脳力教育機関であり、あらゆる才能と異能が集まる都市・天宮町(あまみやちょう)の中核を担う場所だった。


 “あの写真が本物なら、姉さんは……この町にいる。”


 自宅の引き出しから偶然見つけた、数年前の姉の写真。背景に映っていたのは、この町の象徴とも呼べる「天宮研究所あまみやけんきゅうじょ」だった。そこから、すべてが動き始めた。


 入学手続きは異例の速さで進み、特別試験枠での編入が決まった。彼は天宮町にこの夏に来て、そしてに転入するための実技による模擬試験を行うことになったのだ。


 晋太郎(しんたろう)は、右手に宿る“力”を感じながら、ふと足を止めた。指先がビリつく。いつもより反応が強い。


 (まただ……こいつは、俺に何かを訴えているのか?)


 手袋越しに見える右手は、かつて“神格者(しんかくしゃ)”と呼ばれた存在の腕。その正体も、意味も、未だに何もわからない。ただひとつ確かなのは、この右手に宿る“神格者(しんかくしゃ)”の力が自分の命をつないだということだけだった。


「――君が、天貝(あまがい) 晋太郎(しんたろう)君かい?」


 坂の途中で声をかけられた。立っていたのは、黒いスーツを着た中年の男。歳の頃は四十代後半、優しげな笑みを浮かべながら、頭を下げてきた。


「私は天宮(あまみや) 総一郎(そういちろう)天宮高校(あまみやこうこう)の理事長をしている者だ。キミに直接挨拶したくてね」

「……理事長が、どうしてこんなところに?」


「フフ、私は現場主義でね。編入試験初日、君のような特別な生徒が来るとなれば、会わずにはいられなかったんだよ」


 にこやかに語るその姿は、どこか危なっかしくも見えた。しかし、彼の語る言葉には重みがあった。


「君のことは、すでに全校に知れ渡っている。“不完全脳力者(ふかんぜんのうりょくしゃ)”……右腕にだけ脳力を発現する半端者だとね。しかし噂というのは、尾ひれがついて広がるものだ。だから私は、真実を見たいと思っている」


「……真実?」


「キミが、何を背負ってここに来たのか。そして、何を成し遂げるのか。それを私はこの目で見届けたい」


 総一郎(そういちろう)はにこりと微笑んだ。


 その目は、優しさの奥に、強い覚悟のようなものを宿していた。


――――


 校舎に入ると、視線が突き刺さるようだった。


 廊下ですれ違う生徒たちは皆、興味と警戒を隠さない。中にはひそひそと噂する者もいた。


「あれが“右腕だけに脳力”を宿した不完全脳力者(ふかんぜんのうりょくしゃ)……」 「不完全でも喧嘩は強いらしいよ……」

「地元で不良たちをボコボコにしたとか………」


 噂はすでに一人歩きしていた。だが、それを気にしていたらこの町では生きていけない。天宮町は、“異能”が当たり前のように存在する町。強さも、奇怪さも、そしてこの噂でさえも、ここではただの「個性(こせい)」なのだ。


 理事長に渡されていた試験案内の紙に書かれた教室に入ると、爽やかなスーツに細身の体躯、まるでモデルのような風貌の男がこちらを見て話しかけてきた。


「はじめまして、風間(かざま) 洞爺(とうや)です。君が天貝(あまがい) 晋太郎(しんたろう)くんかな?」

静かに、しっかりと晋太郎(しんたろう)を捉えたその目に少し戸惑いながら、「はい、そうです…」とだけ答えた。


 教壇の上から見下ろす風間(かざま)の声は落ち着いていたが、その奥に何か警戒心のようなものを含んでいる。


「みんな聞いてくれ!これから彼の編入試験を行う。こんな時期だから周りからとやかく言われるけど、彼の合否に関わらず、皆も彼の“個性(こせい)”を尊重し、見守って欲しい」


 言葉には“お願い”というより“命令”に近い力があった。


「それじゃあ、模擬戦闘ルームへ行こうか」


 (……模擬戦闘ルーム?)


連れていかれるがまま模擬戦闘ルームと呼ばれる部屋へ生徒共々連れていかれた。


 模擬戦闘ルームは、天宮高校の地下に広がる巨大なドーム空間だった。まるでアリーナのように広く、地面は強化カーボン製、上部には遮蔽シールドと照明装置が張り巡らされている。


「これが……学校の設備かよ……」


 思わず漏れた感嘆に、風間(かざま)が笑った。


「脳力者は、時として兵器にもなる。そうならないためにも、我々は教育する必要があるんだ。これは、そのための“場所”さ」


 生徒たちは観覧席に移動し、興味津々に模擬戦闘の始まりを待っていた。


「それで……相手は誰なんですか?」


 晋太郎(しんたろう)の問いに、風間(かざま)はすっとコートを脱ぎ、ネクタイを外した。


「私だよ」


「……先生が?」


「君の脳力がどこまで通用するのか、この手で確かめさせてもらう」


 風間(かざま) 洞爺(とうや)。教師でありながら、“風の脳力”を操る戦闘のプロでもある。生徒を守るためには、時に刃を振るう覚悟を持った男。その彼が、今、対峙している。


「それじゃあ、始めようか」


 風間(かざま)の手がかすかに動いた瞬間、空気が一変した。


 ゴォォッ――!


 轟音と共に突風が吹き荒れる。晋太郎(しんたろう)の体が後ろへ吹き飛びそうになるが、すぐに地を踏みしめた。


(早い……この風、見えない斬撃みたいだ……!)


 反射的に右手を突き出す。手袋の下、指先から光が迸った。


「右手に希望を(ライトオブザホープ)!!!」


 ――ズギィンッ!


 晋太郎が叫んだのと同時に雷のような一撃が空気を裂き、風の壁を打ち破った。観覧席がざわつく。


「今の……雷か!?」 「すげえ……風間先生の風を裂いたぞ……」


 風間の目が細められる。


「予想以上に速い……そして重い。やはり、ただの“半端者”じゃないね」


 風間(かざま)は構えを変え、次の瞬間には背後に回り込んでいた。


「……ッ!」


 晋太郎(しんたろう)の背中に風の刃が迫る。だがその時――


「――ッ!」


 雷鳴のような音が爆ぜ、晋太郎(しんたろう)の右腕が光り輝く。その一閃が、風間の突風を切り裂いた。


 数秒後、空気が静まり返る。


「ハァ……ハァ……」


 右手から雷が弾ける。やり過ぎた。右手の“神格の力”は、一度の発動で身体に大きな反動を与える。それを今、激痛と共に実感していた。


 風間(かざま)は微笑みながら、手を上げた。


「そこまでだ。……合格だよ」


「え……」


「君は危険だ。だが、その力を制御する意志がある。そして何より、君は“守るために力を使おう”としていた。そういう人間を、私は信じたい」


 そう言って風間は観覧席の生徒たちへ向き直る。


「みんな、彼が今日からF組の仲間だ!――仲良くしてやってくれ!」


 教室がどよめく中、晋太郎(しんたろう)は小さく頭を下げた。


(……これが、俺の始まりなんだ)


 だが、その“始まり”は、そう長くは続かなかった――。



 その日の午後。


 構内に突如、警報が鳴り響いた。


「警戒レベル3!不審者が学園に侵入!」


「生徒は速やかに指定された防御区画へ!」


 職員の叫びが飛び交う中、模擬戦闘ルームで休んでいた晋太郎(しんたろう)は、異様な気配を感じ取っていた。


(これは……ただの侵入じゃない)


 ドォン!


 爆音と共に壁が砕け、黒ずくめの男が現れた。背は高く、鋭い目つき、手には5センチ程度の小さい鉄の球を持っている。


「やあ、懐かしいな風間(かざま)先生。……まだ“俺”のこと、覚えてるか?」


 それはかつての天宮高校の生徒、“弾丸のマイスターと呼ばれた男”藤木(ふじき) (けん)。繊細な脳力の操作、自身の脳力への的確な戦闘センス。これほど優秀な人材はいない。しかし彼は問題児として知られ、問題ばかり起こしていた彼を風間(かざま)が制裁し、退学となった男だった。


「生徒を人質にとって何がしたい、藤木(ふじき)!」


「復讐だよ。俺を見捨てたこの学校、そして“希望の象徴”を潰す。それだけだ」


 彼の足元には、捕らえられたF組の生徒たち。目の前で倒れている教師たちもいた。


「クソッ……!」


 その場にいた風間が動こうとするが、先の模擬戦での酸素消耗が激しく、動きが鈍い。


「待っててください、先生」


 晋太郎(しんたろう)が一歩、前へ出た。


「……キミがやるのか?模擬試験を終えたばかりだぞ」


「それでも。ここで見て見ぬふりは、したくない」


 藤木(ふじき)の笑みが狂気を帯びる。


「面白い。だったら見せてみろよ、テメェの“死ぬ覚悟”をな!」


 戦闘が始まった。


「しっかしお前、見るからに弱そうだけど大丈夫かぁ?このオレの脳力は5センチ以内ならなんでも弾丸以上の速度で飛ばすことが出来るんだぜ?」


(この藤木(ふじき)って奴はとても傲慢だ)


敵を目の前にしてこれだけの重要な情報を話せるんだから相当だ。


「だったら、飛ばしてみろよ。お前の弾丸。当てられるんだったらな」


晋太郎(しんたろう)はそう煽ると藤木(ふじき)はみるみる顔を赤らめていく


 藤木(ふじき)の能力は、時速500メートルで物体を射出する「弾丸操作(バレットマイスター)」。その一撃は、まるで小型の砲弾だ。


 だが、晋太郎(しんたろう)はそれを“弾き返した”。


 次の瞬間――!


 「うおおおおおおッ!!右腕に希望を(ライトオブザホープ)!!」


 右腕に雷が奔り、放たれた光線が藤木の鉄球を弾き返す。そして、その雷が藤木を直撃した。


 バチィィィッ!!


 壁に叩きつけられ、藤木が意識を失う。


 数秒の静寂。


 やがて風間が、立ち上がった。


「……立派だった。今度こそ、本当の意味で合格だ」


 観覧席が拍手に包まれる。


 こうして、天貝(あまがい) 晋太郎(しんたろう)は、天宮高校2年F組の一員となった――。


◆『第1章 右手に宿る、希望の光』――了。


――――



◆第1章 登場人物


天貝あまがい 晋太郎しんたろう

 本作の主人公。脳力「右手に希望を(ライト・オブ・ザ・ホープ)」の持ち主。右腕に宿る力を用い、仲間と共に数々の困難に立ち向かう。


天宮あまみや 総一郎そういちろう

 天宮高校の学園長。かつて父が行っていた脳力研究を引き継いでおり、その資料の影響で黒幕のように誤解されるが、実際は倫理的で生徒を想う優しい人物。


風間かざま 洞爺とうや

 F組の担任教師。温厚で面倒見が良く、生徒たちから信頼されている。実力としては学園で1番の強さを持つが、生徒の成長を第一に考えていることと、学園からの監視があり基本的には動きたくても動けない立場。

脳力「風神」空気を操ることで風を自在に生み出すことが出来る脳力


藤木ふじき けん

 元・天宮高校の生徒。かつての出来事から風間に強い恨みを抱き、学園に現れる。学生時代はとても優秀な生徒だったが、問題行動ばかり起こしていた。それを風間に罰せられ退学処分となった。元々はボンボンの一人息子だったがこの退学処分から家族から勘当され落ちぶれてしまった。

時速500メートルで物体を射出する脳力「弾丸操作(バレットマイスター)」なんでも早く飛ばせる訳ではなく飛ばした物の速度が一定まで出ていた場合に限る。そのため、小石やBB弾など小さいものだけを獲物にしている。


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