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第3話 俺、おおまかな設定を知る


「あちら側から来た者は、だいたい似たような疑問を持つからの。大詠唱官がチュートリアルを用意してくれてある。そこの机に置いておかせたから読んでおけ」


 と、アリシエラが言った。


「えっ! 英語で?」



 俺は英単語はだいたい読める(ふりがなないと読めないのもあるけど) 。でもそれは英文の意味がわかるということは意味しないのである。


 いつも、ほぼほぼどの教科も赤点ギリギリだぞ自慢じゃないけど。


「いや、そなたの国の言葉でじゃ」


 アリシエラが言ったので俺はほっとした。



 チュートリアルは和紙みたいながさがさした紙の束に手書きのペン文字で書かれていた。



 一枚目に 『新米詠唱官のためのよくある質問集(簡易版)』と書いてあった。


 ページをめくる。



「Q1 大神聖帝国って?


 大神聖帝国は、この世界の大陸と島々の約35%を治める大帝国です。


 800年の歴史があり、現在の皇帝は〈賢竜猛帝〉スカイラー陛下。陛下には4人の弟妹がおり、それぞれ帝国内に領地を有しています。


 もっとも第一皇女のタシア=フィラキナ辺境伯以外は、普段は皇都ラリパッパに居住してます。」



 ぶふぉ、と、俺は思わず飲んでいた紅茶(アリシエラの侍女が出してくれたのだ)を噴き出してしまった。


 ラリパッパはまずいだろラリパッパは。なんでそんな名前なんだよ。



 気を取り直し、やはりアリシエラの侍女(俺と同じくらいの年の少女だったが名前訊きそびれた)がさきほど紅茶と一緒に持ってきてくれた夜食のビスケットをかじりながら次のページに進む。


俺がいるのは、今日からここがそなたの部屋だぞよ、と案内された部屋だ。


「なお、皇帝の家族である聖皇族においては、皇帝の弟妹も、未婚のうちは「皇子」「皇女」の称号で呼ばれます。これは形式的なものです。」


 ふむふむ? 若干ややこしいな。


 でもそういや、アリシエラは皇女と名乗りつつスカイラー皇帝のことを「兄上さまー」って呼んでたもんな。


 次。



「Q2 詠唱官とは


 この世界の人々は大半が文字を読めません。


 貴族の中にはたまに日本語だけ少し読める方がいますが、日本語以外の言語は学習を試みても読めるようになりません。


 読めるようになる機序がないのだと思われます。


 日本語以外の言語は〈律語〉と呼ばれ、この世界ではとても特別な言葉たちです。


 高位の貴族たちには〈根源〉から〈力〉を引き出す能力があります。この〈力〉と〈詠唱官〉の読み上げる〈律語〉の単語や文が組み合わさると、ここではその言葉は魔法の呪文のような効果を発揮します。



 注意! 必ず目で文字を読みながら詠唱すること! でないと効力が発動しません。



 スカイラー陛下とその弟妹にはそれぞれお抱えの〈詠唱官〉がいて、私たち〈詠唱官〉はその詠唱で彼らの統治や日常生活を補佐します。」



 ほうほう。わかったようなわからないような?


 アリシエラの手から出ていたあわあわ、あれが〈力〉ってことだよな。



「Q3 なぜあなたはここにとばされたのか


 この世界と私たちの世界のはざまに〈ほつれ〉があるようで、たまに私たちの世界からこちらに落ちてしまうようです。そのように言われているだけで、本当にそうなのかはわかりません。


 私たちはたいてい字が読めるので、保護されると高位の貴族に引き渡され、詠唱官に任命されることが多いです。」



「Q4 元の世界に帰れないの?


 これまでに帰れた人の記録はありません。ですが、ここは、魔物が出る場所に行かない限り安全だし平和です。この世界で貴族に仕えるべし。


 衣食住は保証され、仕事もホワイト。ヘンな話ですが我々の元の世界より全然よいところなので、どうぞ、あまり不安がらずにゆっくり異世界ライフに慣れていってね!



 わからないことがあったら、大詠唱官・アルバトロス鈴木までどうぞ。」



 いやアルバトロス鈴木、誰だよ。


 俺は心の中で突っ込んだ。



 うーんー。


 そうかー。


 帰れないのかー。



 ビスケットを食べ終えてしまい、寝台に寝転がって寄せ木細工みたいな模様になってる天井を見つめる。


 俺があてがわれたこの私室は、アリシエラの部屋(ちらっと見たけど豪華で広い)の斜め向かいにあって、広さは10畳くらい。


 刺繍がほどこされたふかふかの布団の寝台と小さい机、椅子、鏡、長方形の荷物入れの箱(トルックは「ながもち」と呼んでいた。聞いたことない言葉だ。)などが置いてある。



 俺は、うちでは大学生の兄貴と8畳の部屋を共有しているから、それより広いし占有できる。たしかにけっこう待遇はいいのかも。ただ、窓はない部屋だった。



 もう夜だ。おかーさんも兄貴も心配しているだろう。塾もサボってるのだから今頃は大騒ぎになってるんじゃね?


 名古屋に単身赴任中のおとーさんにももう連絡がいってるかも。いやさすがにそれはおおげさかな。まだ、塾の帰りにどっかで道草してると思われてるだけかな。



 いま何時だろうとデイバッグからスマホを取り出して見ると、22:16と表示されていた。


 2時間も前に塾から帰宅してるはずの時間だ。


 時刻だけ確認してすぐ電源をオフにした。この世界にはいまのところ電気はなさそうだったからバッテリーを少しでも長くもたせたい。



 部屋の灯りはなんだか甘い匂いのする油のはいったランプが使われている。


 スマホゲーしたいけど電気もないのにWi-Fiが繋がってるわけはない。無理だ。


 もし繋がっててもスマホゲーなんてしたらバッテリー消費しちゃうし。


 いちおう友達や家族と連絡がとれないかは試してみたけどダメだったし。向こうからのメッセージも入っていなかった。



 家族のことは、考えてても仕方がないや。



 アリシエラは寝る前に、



「わらわはもう遅いから寝る、そなたもチュートリアルを読んで夜食を食べて寝るとよい。何かあってもわらわを起こすでないぞ。そなたの部屋の隣がトルックの部屋だから、そっちに行くように」


 と、言っていた。



 生意気だし常にエラそうな皇女だが、眠そうに目をこすりながら侍女たちに手を引かれて自分の部屋に引っ込む様子はまだまだ子供って感じだった。



 宮殿はガチで広すぎて俺は玉座の間からこの部屋までの経路をぜんぜん覚えれなかったが、とにかく部屋を与えられたのはありがたい。



 さすがに目が冴えて寝れそうにないけど……



 ぐーぐー。



 目が覚めたら朝だった。


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