鈴の音
カラン、カラン。
この音が合図になる。
僕を眠りの世界から呼び戻す音。この音が鳴ると、僕は閉じていた瞼を開き、耳を澄ます。
そうすることが、いつの間にか僕の習慣になっていた。
耳を澄ますと、いつも遠くの方から声が聞こえてくるのだ。
その声は、僕ではない誰かに向けられたもの。誰も、僕のことは必要としていないみたいだった。皆、何か勘違いをしている。
僕はその声を聞いていることしかできないのに。
忘れた頃に、またあの音が鳴る。今回は随分久しぶりだったような気がした。
僕は耳を澄まして声を聞いた。
――「あの人が帰ってきますように」
柔らかい声だった。全てを包み込む朝もやのような声で、その人は言った。
――あの人って一体誰なんだろう。帰ってきてほしいって、その人は今、何処にいるんだ?
そんなことを考えることぐらいしか、僕には出来ない。その願いを叶える力なんて、僕にはない。本当に叶えてもらいたいなら、別の誰かに頼めばいいのに。どうしてこの人は、僕にこんなことを言うんだろうか。
分からない。
さて、また眠ることにしよう。
「こんな寂れた神社に、ご利益なんてあるのかな?」
「分かんないけど、折角来たんだしさ。いいじゃない。浩太は何もお願いしないの?」
「俺はいいよ。こんな古ぼけた神社じゃ、神様もどっかに引っ越してるよ」
「でも、こんなところにまだ住んでくれてる神様なら、きっといい神様に違いないわ。願い事、叶えてくれそうじゃない?」
「よく知らないくせに、よく言うよ。早く行こうぜ」
「もう、ちょっと待ってよ」
神社の神様の本音。
願い事をした女性は、過去の恋愛に固執しつつも、別の男性と付き合っている。
あわよくば、あの彼がまた戻ってきてくれれば……そんな願いをかけました。
けれど、その願いは叶えられない。
それが、彼女にとっていいことなのか、悪いことなのか。
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