表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/46

第五話 社交界に向けて

 グレンがどこかで見張っているかもしれないが、平穏な三日間が続く。

 コレットが馬の世話を終えて、家に入るとミレーが待っていた。


 ミレーの横には衣装箱があった。ニコニコしてミレーがコレットに教える。

「食事会に着ていくドレスが義兄から届いたわよ」


 良くない知らせだ、魔族たちの食事会なんて何が出るかわからない。

 ミレーがドレスを取り出す。ドレスは若草色の大人しい感じのドレスだった。


 ダメ元でコレットは尋ねる。

「食事会に行かなければダメなの? 私は作法とかわからないわ」


「行くことに意味があるのよ。明後日に町で貴族たちが集まる簡単な食事会があるのよ。社交界デビューよ」


 魔族の食事会ではないと知りホッとする。だが、人間の貴族には用はないはず。

「魔王の娘なんだから、人間の貴族の食事会には出られないわ」


「違うわ。魔族の王族がこの村にいるって宣伝しないと魔族もわからないままこの村を侵略するわ。だからここで、まず人間の間で噂を立てておくのよ」


 ハイランド領内から村に魔族が進行してくるとする。次々と村や町を落としていくうちに「ハロン村に魔王の娘がいるらしい」との話が出る。最初は信用をしないが、何度も話が出れば「ひょっとして本当か?」となる。


 真偽のほどがわからなければ奇襲や夜襲は悪手である。間違って殺せばいらぬ敵を作る。ハロン村には防壁はない。ミレーは噂をもって防壁を作ろうとしている。破れない壁と同様に、情報は身を守る壁となる。


 作戦はわかるが、不安は隠せない。

「でも、大丈夫? 魔王の娘ってわかったら殺されない?」


 魔王の娘の情報は魔族への防衛手段になる。だが、人間からは憎しみの対象になるのではないか? 最悪、磔からの火刑がある。


 ミレーの顔には毛ほどの不安が見えなかった。

「心配ないわ。きっとよくしてくれるわ。外でお友だちを作ってくるといいわ。知らない世界を知るのも楽しいものよ」


 根拠のない自信は止めて欲しい。こちらは命が懸かっている。あやふやな希望で送り出してほしくはない。コレットが渋っているとミレーは話す。


「それに食事会には貴女の味方もいるわ。名前は出せないけど、危なくなったら助けてくれるわ」


 聞きようによっては人間側に裏切り者がいる、とも取れる。それならば、万一の時は町から逃亡できる。だが、リスクはある。やるしかないのか、とコレットは諦めた。


 ミレーの用意したドレスは着やすいが、サイズが少々大きかった。

 ミレーも気付いたのか、針で仮止めして直す目安にする。


 サイズを計ってオーダーメイドで作ったドレスではない。着心地も新品でもない。


 ミレーの物にしてはサイズが合わない。

「こんなドレスを家になかったわよね。いつの間に用意したの?」


「義兄に頼んで調達したのよ。年頃の娘なんだからドレスの一着も持たないとね」


 ミレーの負担はゼロ。アルカン王はいいようにタカられている気がする。もっとも、貧しくても魔王なのでドレスを買うくらいの金はあるのかもしれない。


 仮止めが終わったので、ドレスを脱ぐ。村に仕立屋はいない。ミレーが直すのかと思ったが違った。

「ドレスをグレンさんに持っていって。グレンさんが直してくれるわ」


 魔族の従者に服の直しができるとは意外だった。


 グレンは町の空き家を借りていた。空き家の前には「古着・アクセサリー買います」の木彫りの看板が出ている。


 何もしない若者がブラブラしている状況は怪しいことこの上ない。こうして古着屋の看板を出せば商人が村に落ち着いたようにも偽装できる。


「古着屋なら私が頻繁に出入りしてもおかしくない。また、商品の入替えや仕入れのために町に行きます、とすれば店にいなくても問題にならないわ」


 行商の古着屋が村に来ることはあったが、村に古着屋はなかった。一軒くらいなら古着屋があっても不思議ではない。


 店から出てくる親子にあった。狭い村なので、知り合いだった。

「フランおばさんもお買い物ですか」


 フランはニッコリと笑う。

「グレンさんの店は子供服も置いているから助かるわ。子供ってすぐ大きくなるから。それに価格も安いから助かるわ」


 価格が安いのは採算を気にせずに商売できるからだ。気軽に服が買えるようになったのは副次的な恩恵ではあるが有難い。


 子供が手を振って別れを告げる。

「バイバイ、コレット姉ちゃん」


 フラン親子が帰る背中を見送る。日常的な幸せな風景。この光景をどうにか守りたいとコレットは強く意識した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ