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第四十一話 戦場へ

 魔族の侵攻はコレットには止めようがない。ただ、村の防衛のための事実の積み上げは完成してきている。アルカン王の友人であるコルネ王が魔王連合に加わっている事実もわかった。


 バン王子とも顔繋ぎができた。バン王子はアルカン王を嫌っている。だが、コレットは何も悪いことをしていないので、プラスと計算する。


「力で劣る村人なんだから、交渉で身を守らないとね」


 ミレーの発案の弱者のための生存戦略は着実に進んでいた。

「とはいっても、もうやることはないわよね」


 コレットは安心していた。昼過ぎ厩舎の掃除をしていると、グレンがやって来る。グレンは古着屋の店主の恰好をしており、つづらを背負っている。


グレンの微笑みと静かな佇まいに、コレットの危険感知センサーが反応した。


厩舎の中に隠れようかと考えると、グレンが手を振った。

「逃がしませんよ」の合図だ。


誰かに聞かれるとまずい話かもしれない。コレットはリビングにグレンを入れた。


グレン相手に茶はいらない。グレンも気にした様子もなく、つづらを置いて中からドレスを取り出した。ドレスは前回のものより、胸元が空いており、黒の生地も薄い。


 高そうではある。ダンスを考えてか動きやすそうでもある。だが、コレットの趣味ではない。コレットの心中を気にしていないのかグレンが話を進める。


「次の食事会用のドレスを仕入れてきました」

「前のドレスでいいわよ。それに、次なんていつかわからないわ。冬なら用意してくれたドレスは寒そう」


 グレンがニコニコしていた。知らない人が見たら天使の微笑みだが、コレットには悪魔の含み笑いだ。グレンがわざとらしく驚きの態度を取った。


「お嬢様は御存知ないのですか? 次の食事会が明日にありますよ」


 行かなければならない食事会なのだと薄々は感じた。だが、一応、拒絶する。あまりにもなんでもホイホイ受けてはいけない。『扱い易い皇太女』になると身がもたない。


「呼ばれてもいない食事会に行くほど、厚かましくはありません」

「大丈夫ですよ。もうじき招待状が届きます」


 存在が知れたので、誰からか食事会招待状は届くことはあるだろう。だが、今日の明日では猶予がなさ過ぎる。仮にあったとしたら、礼儀を無視した招待だ。それはもう食事会とは呼べない。緊急非公式会談である。


 扉をノックする音がする。グレンがいるので居留守は使えない。

ドアを開けると、エリオが立っていた。エリオは先の別れ際と違い、顔は穏やかだった。


「招待状を持ってきた。明日、内々の小さな食事会がある。コレットも参加してほしい」

「予定が空いているかい?」ではなく、「参加してほしい」の要請だった。


行きたくはないがエリオはコレットの暗殺を未然に防いでくれた。ここで断るのは義理に背く。かといってコロコロと参加して後の扱いが雑になったら嫌だ。コレットはワンクッション入れた。


「遠出はあまり好きではありませんが、巡礼者の一団の愚行を止めてくれたことは感謝しております。ですので、是非にも、と頼まれれば参加します」


「是非にも」とエリオは笑顔で即座に答えた。顔は笑顔だが、強い意志を感じる。


 コレットは心の中で「これで借りは返済したわ」と判断した。

「出席するのは了承しました。どのような方が来られるのですか?」


「私、イワン、リーザ、ユダ、コレットの五人だけだよ」

 メンバーからして主役はコレットだと嫌でもわかった。


「どのような話題が話されるのですか?」

「皆で楽しく、おしゃべりできればいい。それだけだ」


 エリオの顔は爽やかなのだが、口にした言葉は嘘臭くてしかたない。仲良しの集まりで楽しく語らいたいなら、エリオはユダを呼ぶわけがない。


 コレットは澄まし顔を作って、皮肉る。

「エリオも大変なんですね。色々と」


 皮肉が効いたのかエリオは小さく肩を竦める。

「それが貴族であり、政治なんだよ」


 エリオは招待状をコレットに渡すと、すぐに帰った。理由はわかる。今回の食事会にあたって抜け駆けは禁止なのだろう。恋愛的な意味でも、政治的な意味でもだ。


 エリオが帰ると、グレンが台所から出てくる。

「モテる女性は大変ですね。羨ましいですね、コレットお嬢様を囲む会なんて」


 自分でも顔が引き攣るほどにムカッとした。


「怖い、怖い」とグレンがおどけたので、また腹が立つ。でも、行くと決めた以上、約束は守る。コレットはドレスを試着すると、サイズはピッタリだった。


グレンが褒める。

「さすがはお嬢様、良く似合っております。まるで、騎士に鎧ですね」


言われっぱなしにはなりたくない。

「それを言うなら淑女にドレスでしょ。行き先は食事会なんですもの」


「いいえ、明日は戦場ですよ。きっと」

 予感はする。だが、グレンにハッキリと指摘されると気が滅入る。

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