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第四話 青年グレン

 アルカン王は五日後にやってきた。ミレーが留守だったので、コレットが一人で対応する。アルカン王の恰好は変わらないが、今日は一人の青年を連れていた。


 年の頃はコレットより六つほど上に見える。黒い肌に短い真っ白な髪と白い眉をしていた。髪は珍しいクルクルのメンズパーマ。服装は村人と変わらない質素な服を着ている。


 この地方では黒人は珍しい。もしかしたら、アルカン王国は黒人主体の国なのかと想像した。


 コレットの視線に気付いたアルカン王が質問する。

「黒人は珍しいか?」

「はい、初めて見ました」


 アルカン王は青年をチラリと見る。

 すると、青年の肌が白くなり、髪もコレットと同じ金色になる。


 青年がニコっと笑ってコレットに語り掛ける。

「お嬢様はこちらのほうがお好きですか?」


 コレットが声に詰まると、青年は肌と髪の色を次と変える。


 コレットが驚いていると、青年は、中年、初老、老人へとも変わる。

「お好きな姿をご指定ください」


 さすがは魔族だ。容姿を自由に変えられる。となると、本当の姿は人間ではないのかもしれない。

「最初の姿でいいです」


 魔族は黒人青年の姿に戻った。

「趣味が合ってよかった。私もこの姿が好きなんですよ」


 アルカン王が青年を紹介する。

「こいつは儂の遣いをするグランだ。しばらくはこの村に置いておくから何でも相談してくれ」


 召使を寄越したわけではないとコレットでもわかる。グランはコレットの世話焼き係であると同時に見張り役だ。もし、娘と違うとわかればグランはアルカン王に報告する役目もある。


 グレンの正体に気付かない振りをしてコレットは挨拶する。

「よろしくお願いします。私はお父さんやアルカン王国について何も知らないので教えてください」

「よろしくお願いします、お嬢様。アルカン王の御息女であれば、私の主も同然です」


 グレンは愛想よく微笑むが、演技に見えた。それでも問題ない。


 こちらも騙しているので、駆け引きの一環だ。

「フフフ」とコレットが笑うと「ハハハ」とグレンが返してくる。


 グレンとは腹の探り合いになる予感がした。


 四六時中、見張られては堪らない。コレットから先手を打った。

「でもどうしましょう。ウチは狭いからグレンさんのお部屋がないわ」


 微笑みを湛えてグレンは答える。

「私はお嬢様に使える従者の身です。台所でも物置でもかまいません」


 やはり見張りだ。引き離して置いたほうが安全だ。

「いけませんわ、そんなの。お父様の大事な人に、そんな粗雑な扱いはできません。そんな扱いをしたらお母様に叱られます」


 ミレーであろうと、マレーであろうと叱りはしない。ここで大事なのはグレンを追い出すのは自分の意志ではない。また、グレンが無理に住むとコレットが罰を受けるとする状況だ。


 グレンは丁寧な態度で提案する。

「では、ミレー様と交渉いたしましょう」


 ミレーは断るとは思う。だが、グレンの交渉術が未知数。ちょいとばかり危険でもある。すると、アルカン王が案を出した。


「母と娘の家にいきなり若い男が住むのも気疲れする。空き家を借りるから、グレンはそこに住め」


 グレンにコレットを探らせたいのならアルカン王の発言は意外である。アルカン王の性格をコレットは掴み切れなかった。人が良いのか、何か考えがあるか不明だった。


 グレンはアルカン王の言葉を尊重した。

「我が主の言葉とあらば従いましょう」


 グレンは素直に従ったので、ここまではアルカン王の筋書き通りかもしれないが不明。


 アルカン王はコレットに向き直った。アルカン王の顔に心配が滲んでいた。

「七魔王連合は人間の国のハイランドを征服した。連中はこのまま人間領内に攻め込んでくる」


 村にはハイランド陥落のニュースはまだ入ってきていない。だが、嘘とは思えない。


 アルカン王の言葉は続く。

「ハイランドとこの村は離れている。だが、七魔王は強い。この村まで来るかもしれない」


 コレットは怯えた振りをする。ここまではミレーも予期していた事態だ。

「戦争なんて、怖いわお父様」


「心配するな。七魔王の中には親交のある奴がおる。そいつと話を付ける。もし、ダメだった場合の策はグレンに伝えてある」


 いざという時は逃げる算段があるのだと予測できた。

「グレンとの敵対はまずいわね。表面的にはグレンとは友好的にしておかないと」とコレットは分析していた。


 グレンに悪意があれば、事故を装うのは簡単。脱出時に始末されかねない。


 アルカン王にグレンは頭を軽く下げる。

「お任せください、アルカン陛下。必ずや皇太女様をお守りします」


 いざとなればコレットとミレーは逃げられるのかもしれない。だが、育った村は捨てたくない。ここには大事な人が大勢いる。生活と村はなんとしてでも守ると、コレットは心に誓った。

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