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第三話 皇太女コレット

 魔王は浮かない顔をして言葉を続ける。

「でもこれだけは言っておく。魔族領の儂の領地は広い。だが、そのほとんどは荒れ地で誰も住んでおらん」


 魔王と言ってもピン限なのだろう。もっとも、仮に魔王の住処が荘厳華麗な宮殿だとしても、魔族領に住みたいとは思わない。素朴でいい。村での平穏な生活が守れればそれでいい。


 魔王は領地の説明を続けた。

「儂の国のアルカン領は特産品もなければ人口も少ない。強い兵士もいない。今まで戦争に巻き込まれなかった理由がわかるか?」


 見当が付く。アルカン領を他の魔王は欲しくない。旨味のない土地なのだ。理解はしたが、正直に答えていいか迷う。気を悪くされても困る。


「お父様の人徳が優れているから? お父様が強いから? それで他の魔王たちが手を出せないのかしら」


 褒められた魔王の表情は悪くない。

「他の魔王と付き合いはある。だが、魔王としては儂の力は最弱だ。それでも他国の戦争に加担せず中立をずっと保ってきたから、平和なんだ」


 自分の力を弱いと評価しているのは謙虚だ。コレットは横暴な男や尊大な男が大嫌いだった。なので魔王には好感を持った。


 中立を保ち続けている、貧しい国なので他の魔王は手を出さない。ただそうなると、人間の国を攻めている陣営にはいない。果たして侵攻中の魔王に意見は通るかは交渉次第。


 他の魔王と付き合いがあるのなら小さな村の一くらいは特別扱いしてもらえる可能性は残っている。

「政治はよくわからないわ。でも、お父さんがずっと中立で戦争を避けてきたのなら立派だと思うわ」


 村人たるコレットの本心である。戦争なんて始まっても村には何の恩恵もない。魔王が何を考えているかわからないが、いい迷惑である。


 魔王はホッとしていた。

「理解してくれるのならいい」


 魔王の態度を賞賛しておく。

「何もない国かも知れないけど、富とか兵力とか大事じゃないわ。大事なのは善政を敷くことよ」

「何もないわけではないぞ。セイブルがある。セイブルは世界最古の都市だ」


 世界最古は誇張だと疑った。また、昔からある街が発展しているとは限らない。最初にセイブルがあると主張しなかった理由はセイブルが既に遺跡になっているのだろう。


 国の唯一の自慢が観光資源の遺跡なら貧しい国だ。遺跡なんて一回、観光に行けば充分である。ただ、地元愛があると思うので、セイブルを悪く言ってはいけない。


 都会での煌びやかな暮しには興味がないので、コレットには問題がなかった。

 コレットはまだ見ぬ魔王のアルカン領を想像するが、古くても都市があるなら住める。


 最悪、土地を捨ててアルカン領に移住してもミレーとはやっていける。


 ミレーが微笑んで魔王に尋ねる。

「親子の対面も済んだし、今日は泊っていく?」

「いや、今日は都合が悪い。また、出直す」


 予定を入れてから訪問したとは思えない。急な展開で動揺したと見える。ここで帰すと「やっぱり覚えがない」と後で意見を翻す気がする。


 コレットは魔王を引き留めた。

「そんな、せっかく会えたのに寂しいわ。今日は泊まっていって。お父さんの国の話を聞きたいわ?」


「うーん」と魔王は考えている。拒否するのも冷たいが、心を落ち着けたいのも事実だ。


 ここでミレーが動いた。

「コレット、お父さんにも都合があるのよ。あまりお父さんを困らせないで」


 ミレーの発言は少し意外だった。だが、いったん引いたほうがいいかもしれない。


 ちょいとばかり悲し気な表情を浮かべつつ謝る。

「ごめんなさい、お父さんを困らせる気はなかったの」


「悪いな。また来る」と魔王は立ち上がったところでミレーは口を出す。

「義兄さん、アルカン王である、ボンジ・アルカン・ルシャの娘として、コレットはコレット・アルカン・ルシャを名乗っていいのよね?」


「いいよ」とアルカン王はアッサリ認めた。


 今までがミレーの娘コレットだったのに、なんか仰々しい名前になった。


 ミレーが教えてくれた。

「良かったわね、ルシャはアルカン地方では継承者の意味があるのよ」


 我が母ながら厚かましい。名前に継承者と入れたのは、「この子は世継ぎです」と主張しているのに等しい。魔王には他に子供がいないので一人娘なれば問題なしと、ミレーはルシャの名を入れてきた。

 

 アルカン王の皇太女コレットの誕生である。

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