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第二十四話 厄介なお客

 コレットはミレーとお茶にする。ミレーは楽しそうに口を開いた。

「青春ねー。若いっていいわね。私も昔を思い出すわ」


 おばちゃんの昔話に興味はない。特に自慢話となるとなおさら聞きたくない。母だから付き合うが、コレットから積極的にミレーの昔話を聞こうとは思わない。


 ミレーが興味を持ったのかコレットに尋ねる。

「コレットが結婚したいと思う人がいたら連れてきなさい。私は応援するわ」


 ミレーはグレンとのやりとりを見ていた。ならばと質問する。

「グレンでもいいの?」


「いいじゃない。きっかけはなんだっていいわ。問題はそこからきちんと選択することよ。もちろん何が正解かは後にならないとわからないわ」


 グレンでもユダでもミレーは構わないと思っている。もしかすると「痛い目を見なければ我が子の成長はない」と考えているかもしれない。だが、余計な火傷をコレットはしたくない。


「私がいなくなると、馬の世話はどうするの? お母さんは困らないの?」

「別にいいわよ。その時は若い男を捕まえるから」


 嘘かもしれないが、ミレーならやるかもしれない。ミレーが結婚したいならいい。だが、自分より少し年上のお父さんができるのなら抵抗がある。


 コレットの考えを知ってか知らずか、ミレーは言葉を続ける。

「別に牧場に未練はないから、馬も牧場も売って街で家政婦してもいいわ。だから、コレットは自由に生きなさい」


 母の愛を感じる。ミレーが言葉を続ける。

「もっとも、コレットが私の老後の面倒を見たいのならそれでもいいわ。その時は遠慮なく言ってね。また、村への義理は忘れないでね」


 後半が本心かも知れないが、それならそれでいい。実の母から捨てられたコレットを育ててくれた恩をコレットは忘れない。


「私が結婚するのなら、お母さんに苦労を掛けない男と結婚するわ」


 コレットの言葉にミレーが微笑む。

「素敵な王子様が見つかるといいわね」


「王子様なんて夢見る年頃ではないわよ」

「そう」とミレーは笑った。コレットも笑った。


 翌日、昼過ぎに厩舎から出るとイワンと会った。ハイランドの王子様のイワンの来訪にコレットは笑えなくなった。


「来ちゃった、本当に王子様が来ちゃった」とコレットは心の中で運命を呪った。


 イワンは外出用の茶色の丈夫な服を着ている。イワンにとっては今の気温でも充分に暑いのか外套は羽織っておらず、袖も短い。ただ、貴族の嗜みなのか、腰にはしっかりと剣を提げている。


 イワンの顔に怒りは見えないが、用心するに越したことはない。ないとは思うが、油断させて近づいてブスリと刺されてはたまらない。


「どうしたのですかイワン様、こんな何もないところへ」

 自分でもわかるが、声が引きっている。


 申し訳なさそうにイワンは頼む。

「先日は取り乱して悪かった。だから、そんなに警戒しないでほしい」


 警戒するな、とは無理な話だ。だが、下手に騒ぐと逆に危険かもしれない。なにせ、周りには誰もいない。目撃者もいない。グレンはどこかで監視しているかもしれないが、ユダの暗殺が不可能なら、コレットが襲われても見えてない振りをする可能性もある。


「嫌ですわ、イワン様。警戒だなんて」

 口では否定したが、心では疑っていた。


 困った顔でイワンが指摘する。

「腰が引けているし、足はいつでも逃げられるようになっているよ」


 体に意識が行くとわかる。イワンの指摘は正解だ。姿勢は逃げ腰になっている。

 イワンの言葉を否定するために、姿勢は直す。ただし、心は許さない。


 表面的にコレットが警戒を解くと、イワンは頼む。

「馬を見せてほしい。この地方に長居することになりそうだから一頭購入しようと思う」


 馬なら湖畔の村でも売っている。名馬が必要なら街で買ったほうが値段は高いが確実に変える。生産地の牧場を訪ねれば馬は安く買えるが、王子様のイワンが金を惜しむとは思えない。


「これは何かあるわ」とコレットは疑った。だが、お客さんなら邪険にできない。コレットの牧場にいる馬は名馬とは言えないが、良馬である。品質に自信がある。


「ここにはイワン様には相応しい馬がありませんわ」とは言いたくない。手塩にかけた馬だからこそ、イワンの頼みを断れなかった。

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