第二十一話 ユダのプロポーズ
今日は少し多めに投稿します。
財産目当てで結婚する男の話はよく聞く。だが、遺跡に行くために結婚を申し込む男がいるとは予想しなかった。コレットを騙してセイブルに行く。それで目的を達成したらポイ捨てするのが目に見えている。
さすがにユダの求愛はコレットを馬鹿にしている。
冷たい態度を取ってコレットは拒絶した。
「お断りします。そんな理由で結婚したくはありません」
優しい顔でユダはコレットを口説き続ける。
「つまらない理由で結婚する男女は多いですよ。それに結婚したら、私は貴女を人生で二番目に大切にします」
正直な男ではある。だが、好きにはなれない。コレットは当てつけた。
「一番はセイブルですか?」
「そうです」
清々しいほどに憎い。
「やはり結婚は無理です。私は結婚にまだ夢を見たい年頃なんです」
「いいですよ。ただ、私は本気です。貴女が振り向いてくれるまで待ちます」
調子のよい男だと呆れた。コレットはユダを睨みつけた。
ユダの顔にはやましさが見えないことにコレットは気が付いた。
騙されているかもしれない。だが、ユダは本気でコレットを求めているのではないか?
「調子が狂うわ」とコレットはユダから顔を背けた。
コレットに対するユダの愛の大きさはわからない。されど、ユダのセイブルの発見にかける情熱は本物だ。力になってあげてもいいかなと、コレットの心は動いた。
「お父さんにセイブルにユダが入れるかだけ、は聞いてあげるわ」
意外そうな顔でユダは確認する。
「結婚の話なしですか?」
「しつこい!」とコレットは怒鳴った。
ユダはめげない。軽く肩を竦める。
「セイブルに行きたいのは事実です。でも、コレットと結婚したいのも本当なんですよ」
こういう調子がいい男が女を騙すんだ、とコレットは不快に思った。
コレットが歩くと黙ってユダは従いてくる。心地よい風に吹かれると、コレットの頭は幾分冷えた。
もし、ユダがセイブルに行きたいだけなら、コレットを怒らせてまで結婚したいと粘るだろうか? 疑問は次の疑問を産む。
「もしかして、本当に結婚したいのだろうか」と頭をよぎる。頭の中で『もし』を考える。
ユダの顔立ちは良い。肌の色や髪の色は気にならない。外見はまあ合格である。知性もあり、品がある。生まれもよい。紳士的である。何かに取り組む男は好感が持てる。
エリオとは仲が悪かった。だが、こうして話をすると、嫌味な人間でもない。
「結婚相手としては優秀なのではないだろうか? 試しに付き合ってもいいのではないか?」
横目でコレットの表情を窺うユダの視線に気が付いた。好奇心と知性に溢れるユダの顔が眩しく見えた。コレットは思わず顔を背けた。
コレットは心の中で自分を戒める。
「ダメよ、コレット。これがユダの手なのよ」
ユダを嫌おうとしても明確に嫌いな点が見えなくなってきた。そうなると、ユダを嫌いになれなかった。
気が付けば家に戻っていた。用が済んだのか近所のフランが帰るところだった。
ユダがミレーに挨拶する。
「今日は楽しかったです。また、訪問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「またいつでもいらしてください」と愛想よくミレーが応じる。
ユダはきっと再訪問してくる。コレットはそれまでに感情を少し整理しなければいけないと感じた。
ユダの言葉は本心なのか、それとも役者顔負けの演技なのか、がコレットにはわからなかった。
ユダが帰ると忘れていた疲労感が襲ってきた。たまらず、ベッドに横になる。ボーッとする意識の中でわかったことが一つあった。ユダと一緒に過ごしている間、コレットは疲れを忘れていた。
異世界恋愛は私には難しかった。読者が求める作品とは違うのかもしれない。
ここまで読んで面白かったと思う方は『玉の輿に乗ろうとしたら怪しい人ばかりですが、お見合いは続行します』 (完結済み)もどうぞ。




