第十九話 今日が終わらない
シーンとなった会場でエリオが執事に指示を出す。
「イワンは疲れている。休ませてやってくれ」
執事が頭を提げてやってくる。執事はイワンに手を貸した。
憔悴したイワンは執事の手を借り退出した。
我慢できずにリーザはポロポロと泣き出した。
エリオはリーザにハンカチを差し出してからコレットに向き直る。
「ハイランドからの手紙を持ってきた話は本当なんだろうね。コレット王女」
エリオはコレットが魔王の娘だと認めた、
「さすがにそこまでは人が悪くありません。あと、コレットでいいですよ」
エリオは気になったのか質問をする。
「手紙を出したのなら、捕虜は手紙が書ける状態なんだろうね?」
「手紙の手配はアルカン王が考えました。ただ、他の魔王からの横槍が入りそうなので急がねばなりませんでした。なので、他の魔族の手を借り、口述筆記した手紙です」
エリオは冷静だった。
「それなら筆跡が違うことの理由になるな」
コレットが手紙を運んだ動機をエリオは探っている。エリオは魔王が偽の手紙で人間を分断しようとしている可能性を考えている。
現にイワンもリーザも情緒がおかしくなった。攪乱なら効果充分だ。
エリオが冷静な理由はハイランドが自分の国ではないからだ。同時にコレットの情報が本当だったらとの希望を持っている。
「ハイランド王の様子を教えてくれるかい?」
「ハイランド王は寒い地下室に裸同然で鎖で繋がれていました」
思案しながらエリオは慎重に言葉を続ける。
「ハイランド王の顔と容姿を教えてくれるか?」
情報の真偽確認だとわかったので素直に答えた。エリオはコレットの言葉を信じた。
「ハイランド王の解放交渉は貴女に可能なのか?」
ここでリーザが顔をガバッと上げた。憔悴した顔でリーザがコレットにすがる。
「お願いです。お父様を助けてください。身代金なら払います。どうにかして集めます。だから、お父様を助けて、助けて……」
リーザの最後の声は聞き取れない。だが、ずっと「助けて」を繰り返しているように見えた。コレットは残酷な追い打ちになるとわかっていたが告げる。
「父に頼ることはできません。この度の戦いで父は、人間と戦わず、他の魔王に協力せずの立場です」
コレットの言わんとすることをエリオは理解していた。
「ハイランド王を解放するには、アルカン王が魔王陣営で参戦する必要がある、か」
エリオは好き嫌いがあるが、基本的に政治がわかる人物だと理解した。
場の雰囲気が重くなった。誰しもハイランド王を助けたいが、これ以上、魔王軍を増やしたくない。魔王軍に加わる魔王が多くなれば自分の国が危険になる。
ここら辺が頃合いだなとコレットは判断した。
「私の用件は済みました」とお辞儀をしてコレットは重苦しい雰囲気の会場を後にした。
グレンの馬車に揺られて帰る。短い仕事だが、精神的に疲れた。ハイランド人には悪いが、魔王と戦ってはいけないと感じていた。
最弱の魔王のアルカン王ですら、異常なほど強い。七魔王連合が優勢と見て、他の魔王が参戦してくれば、人間が勝てるか怪しい。
「お母さんの考えは当たっているのかもしれない」
家に着いてグレンと別れる。
「疲れた」と家にコレットが帰ると笑顔の母が待っていた。
「ご苦労様、コレットにお友だちが会いにきてるわよ」
村には友人がいるが、それなら「誰々」とミレーは教えてくれる。なぜ、名前を言わないのか、と不思議思って家の中に入ると、ユダがいた。
なんで、リーデリア人のユダがいるかわからない。
ミレーはニコニコしている理由がわかった。娘に素敵なボーイフレンドができたと思っている。
「いやいや違うわよ。お母さん」と否定すると「まあまあ」と意味ありげに微笑む。
ユダがなんの用もなく街から数時間かかるコレットの家に遊びに来たとは思えない。
疲れたコレットだが今日はまだ終わらない。




