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サバイバルゲーム  作者: こんぺーとー
サバイバルゲーム〜始まる行方を大調査!〜
6/13

説明会【千代side】

 私はあれから王子様の後を追い、ホールと言われる場所に来ていた。


 近くに行けば行くほど喋り声が明確に聞こえてきたので、迷わず中に入った。


 特に特徴になる物は何もなかったけど、ただ部屋とは違い、貴族の洋館のようだった。


 部屋の雰囲気が違いすぎて、私はすごくびっくりした。


 思わず花瓶を落としそうになるほどだ。


 「何、これ……」


 誰もが扱いの悪さを思い知らされるであろう光景。


 私は、ちょっとだけ腹が立った。


 勝手に連れてこられたのに、扱いが雑ってどういうこと?


 一人だったら、そこら辺の雑草を抜きながらブツブツ文句を言ってると思う。


 でも今は王子様と不良くん以外の先客がいるから、我慢しておくとしよう。


 部屋を一つ一つ循環していた王子様と不良くん以外はココで待ってたっていう感じかな?


 随分と賢い選択をされたようで。


 大勢と一緒に行動していても個々がやりたいことをやって、元の場所に戻れなくなる可能性が高い。


 だから探索に慣れた人間が率先して行動、後の人間は集合場所に待機で位置を少しでも伝えようと会話をする。


 これで循環しながら迷うことを防げるわけだ。


 我ながらにあっぱれとしか言いようがない。


 「皆さんこんにちは。伝言通りホールに来てくださり、感謝します」


 伝言?どういうこと?


 それに、この人間は……誰?


 「私を知らないものが多いようですね。私は美来、このゲームのマスターです」


 え?今この人間、ゲームって言った?


 ココは、ゲームの世界なの?


 やっぱり、私はゲームの世界に入っちゃったの?


 「ちょっとお待ちなさい。そもそも、なぜ私がこのような方々と一緒に呼ばれたんですの?」


 丁度いい長さのコルセットドレスに身を包み、金色の髪をハーフアップにしている。


 全体的にお嬢様的な人間が、そう美来さんに言った。


 このような方々とは、庶民という意味なのだろう。


 自分は偉いのに、なぜ平凡な人間たちと一緒にいるのか、それを問いかけているんだろう。


 私には自分を偉いと思い込む自信がないから、逆に尊敬する。


 「それは、ココに呼ぶ条件を満たしていたからです。なので他の方々も、ラン様と同じような境遇に合っています。まあ、何が共通しているかは言えませんが」


 ……本当に、腹が立つ。


 ちょっと親が権力を握っているから、自分まで偉いと考えるなんて。


 しかもあなたは、何も偉業を成し遂げてないじゃない。


 私はそういう人間が大嫌いだ。


 今後とも、いい関係が築けそうにないな。


 「すいません、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」


 よく聞こえる声で、王子様が言った。


 その声で、私は自我を取り戻した。


 後もうちょっとで、暴走してたところだった。


 危ない危ない。


 「なんでしょうか、ヒカル様」


 美来と呼ばれる女性は、表情を少しも動かさなかった。


 さすがのポーカーフェイスとしか言いようがない。


 よく鍛えているんだな、と内心びっくりした。


 あと王子様の名前、ヒカルって言うんだ。


 初めて知った。


 まあ、こんな影の薄い女子に名前を教える必要ないか。


 自分で言っといて若干傷ついたが、事実なので反論できない。


 我ながらバカである。


 「まず、僕たちの現状と事の成り行き、さらにこれからのことについて教えて欲しいです」


 自分が知りたい情報を大体でまとめ、それを発表する……なんていうスピードでこなしているんだろ。


 私と比べるのは忍びないけど、私だったらできてないと思うな。


 「分かりました。ココではなんですので、会議室へどうぞ」


 そう美来さんに言われ、私たちは会議室へと案内された。


 迷いそうな道も、当然だと言う雰囲気で進んで行く。


 もちろん廊下は綺麗で、貴族の洋館のようだった。


 なぜ部屋からホールまでの道のりは汚いのか、教えてほしいくらいだ。


 多分最初にいた場所は、物置部屋か何かなのだろう。


 だけど家具はいい品質のやつだったし、位が低い人専用の客室かな?


 いやけど、そうしたら部屋まで来る道のりで違和感を覚えるはず。


 あれ?ここ、ホールよりも汚くね?って。


 そうこう私が思い悩んでいると、美来さんがある扉の前で止まった。


 「こちらです。どうぞ、お入りください」


 冷徹なメイドのようなセリフに、戸惑っている人もいるようだ。


 まあ、そういう対応をされる機会は地球にはなかったもんね。


 少しだけ、みんなに同情した。


 私も下に見られる場合がほとんどだったから、こう改まった言い方をされると違和感がすごい。


 「……何もないが?」


 不良くんが、そう発言する。


 一瞬ビクッとしたが、バレないように冷静を取り繕う。


 バレたら終わる。


 そう自分に言い聞かせて、私はなんとかポーカーフェイスに成功した。


 もしまた“あんなこと”があっては困る。


 あの時の景色を思い出したら、体がぷるぷると震えてきた。


 よっぽど怖かったのだろう。


 自分のことだけど、心の奥底は掴めない。


 私はそういう人間だ。


 ひどい過去の感情は排除しないと、施設では生きていけない。


 全員が敵に見え、しかも環境も最悪。


 すぐに気持ちの切り替えをしないと、相手に弱みを握られるか突けられる。


 一般の人間はこんな体験をしてないだろう。


 だから分からないんだ。


 苦労している人の思いが、努力が。


 何もしてないのに恵まれている人間を、憎む気持ちが。


 普通の人間には、分からないのだ。


 「ええ。今から準備致しますので、少々こちらでお待ちください」


 美来さんはそう告げ、部屋から出ていった。


 そして、鍵を閉めた。


 次の瞬間、テーブルに6つの武器が出てきた。


 左から順に双剣、斧、槍、弓、杖、盾。


 全てメインカラーが違っており、カラフルだ。


 私は一瞬、目が釘付けになった。


 けれど現状を思い出し、頭を振った。


 いけない。


 今私は、美来さんに閉じ込められた身。


 早くここから脱出する方法を見つけないと!


 幸い脱出方法は昔から独学で学んできたから、自分だけなら脱出できる。


〈あー、今から“サバイバルゲーム”の説明をするなー。自分の名前があるプレートの椅子に座れー〉


 私がどう脱出しようか周りを見渡していたところ、どこからか機械的な声が聞こえてきた。


 なぜかその声に親近感を持ち、オロオロ周りを見渡した後、自分の名前が書いてある椅子へと座った。


 妙な安心感からか、その声に従っていている自分を不思議に思った。


  ぽすっ


 椅子とお尻がフィットして、ふわふわなクッションに触れた感じがした。


 その瞬間、体がビクッと少し飛び跳ねた。


 今までふわふわな椅子に座ったことなかったから、新感覚に少しビックリした。


 すごく弾力性もあって、少し飛んだだけで体が宙に浮くほどだ。


 この弾力性なら、ミニトランポリンができそうだな……。


 使い道を想像しながら、私はスクリーンの方に目をやった。


 さっきから、とてつもなく可愛い童顔の美少女が写っているからだ。


 ボサッっとした機械的なパーカーに、色々ゲーム関係のデザインなどがされている。


 明らかにゲーマーらしい格好をしている。


 なのに髪はしっかりとしており、白く腰まで伸びた髪をしている。


 瞳は濃い青色で、清潔感あふれる容姿をしていた。


 私とは違って、全然可愛い方に含まれている。


 施設の男子が見たら、鼻血を出して失神するだろうな。


 女性に慣れて無さすぎか、一目惚れして。


 そうなったら弱みを握ることになるから、いい結果になるだろう。


〈早く終わりたいから勘で武器選べー〉


 6つの武器を見ながらそう言ったゲーマーさんは、至極面倒くさそうにそう言った。


 もちろんそんな対応に苦言が出ない訳がなく、不良くんが先制で名乗り出た。


 「勘って、適当すぎないか?こういうのは、命にも関係するからちゃんと選ばないといけねーんだよ」


 「マモルの言う通り。一つ一つしっかりと決めないと、後々後悔することになるからね」


 「どうでもいいのですけれど、私は盾をもらうわね」


 お嬢様が一番に盾を選び、残りは双剣、斧、槍、弓、杖になった。


 多分怪我をしたくない、自分の命の安全を守りたい、攻撃系の武器を持つなんて物騒といった理由で選んだん だろう。


 盾は他のやつに比べて近接戦も遠距離戦もできるから、無難だと言っていいだろう。


 「えっと、わ、私は槍でお願いします……」


 次は黒色のボブで、白色の目の女の子が名乗り出た。


 対照的な二色が合わさっていて、施設の幼児なら「お化けだー!助けてー!」って言って悲鳴を上げるだろう。


 後にみんなの前で問いだしたら、いい方にことが運びそう。


 まあ、そんなことをするのは下僕とかが欲しい男子だけだけどね。


 雑用を押し付けるとか、そこら辺だろう。


 私はそんなの興味ないから、ノータッチだけど。


 被害者も加害者も、私にとっては関係のない話だ。


 そして透けるような透明な瞳は、ダイヤモンドのようだった。


 だがダイヤモンドは、光を失っている抜け殻だ。


 生存本能を感じさせないどころか、復讐心のようなものが見える。


 汚い世界を嫌というほど見てきたから、これでも大体のことは分かる。


 このお化けちゃん、要注意人物確定だね。


 なんで槍を選んだのかは不明だけど、槍は遠距離攻撃を得意としている。


 近接戦はあんまりだから、そこを突けばいけるかも。


 最も残ってるのは双剣、斧、弓、杖だから、双剣を選べばお化けちゃんの思考を解ける。


 だけどこの子のためだけに双剣を選ぶのが最善ではない。


 武器は自分の命を守る存在。


 そんな易々と決めていいものじゃない。


 ……これは、よく考える必要がある。


 「じゃあ俺は斧な」


 不良くんが名乗り出て、斧を持っていった。


 確かさっきヒカルさんが、マモルって言ってたような…。


 体をよく見てみると、程よく筋肉がついているのが分かる。


 あれはすごく努力しないと手に入れられないやつだ。


 人気がない暗いところとかにもガタイがいい男がいたけど、あいつらは生まれつきの備わっているやつで、なんの努力もしていないやつだった。


 そのせいか、犯罪を犯した時に警察にすぐ捕まってた。


 やっぱり、努力は報われるのだとその時察した。


 だから、マモルくんを敵に回すのはまずい。


 関係も持ちたくないし、敵対もしたくない。


 私はモブキャラを演じよう。


 マモルくんの目に止まることもない、モブキャラに。


 ある意味、私のこれからの方針が決まった。


 絶対にキラキラ世界に入らず、モブキャラになり平穏な人生を送る!


 ついでにあのお嬢様の上から目線の態度を改めさせてやる!


 方針が決まったからか、体の震えが前よりは収まった気がした。


 相変わらずぷるぷる震えてるけど、前の状態よりはマシだ。


 そして残りは、双剣、弓、杖となった。


 「じゃあ僕は杖でお願いするよ。みんなの怪我を、少しでも治したいからね」


 ヒカルさんが名乗り出て、細い枝のような杖を持った。


 予想はしてたけど、あまりにも似合いすぎている。


 似合いすぎて、うらやましい。


 嫉妬しそうだ。


 いいなー王子様はなんでも似合ってー。


 実質嫉妬しているが、まあこのぐらいいいだろう。


 「君はどうするの?」


 モブキャラに声をかけるとは思わなくて、少し肩が上がってしまった。


 バレてはないと思うけど、さすが王子様。


 全員に気を配る姿は、童話に出てくる王子様そのものだ。


 いや、そんなことを思っている場合ではない。


 ちゃんと問いに答えなければ。


 ヒカルさんにそう言われ、私は目の前にある2つの武器を見た。


 残りの武器は、双剣と弓。


 双剣は近接攻撃が得意で、弓は遠距離攻撃が得意な構造になっている。


 もし私が双剣を持ったとして、私は相手の近くまで行くことができるの?


 恐怖で動けないのでは?


 戦闘シーンを想像したら、どちらを選ぶのが良いのか決まった。


「私は弓にするよ〜!」


 近接戦は他の人に頑張ってもらうとして、私は遠距離戦でみんなのサポートをしよう。


 説明書によると魔物も出るみたいだし、なるべく戦闘は避けたほうがよさそうだ。


 自分の身の安全のためには、一応一定値の技術ができるようにしておこう。


〈うーし、決まったなー〉


 ゲーマーさんがそう言った途端、双剣はどこかに行ってしまった。


 なぜ双剣をここに置かないのか。


 単純なことかも知れないけれど、ここに何かある気がする。


 話を進めれば進めるほど、事の真相は見えぬ一方。


 深く探りを入れるをするのは愚かな人間がする事だと直感が言っているし、その証拠に実行するのを考えただ けで背筋がゾクゾクッってするから、深入れはやめておこう。


 本当は真実を知りたいけれど、それは今絶対に解かなければいけない問題ではない。


 この件については、様子見というのが一番いいだろう。

  

〈じゃあこっからは“サバイバルゲーム”の説明するからなー。ちゃんと聞いとけよー〉


 「冗談じゃないですわ。まだ何かあるんですの?それでは、私は失礼させていただきますわ」


 間髪入れずにお嬢様が苦言を言うと、椅子から立ち上がった。


 その様子を見たヒカルさんが、お嬢様の手を取った。


 「ちょっと待ってよ、ランちゃん。別にこの人の話を聞いておいて、損はないと思うよ。あとこの椅子ふわふわだし、離れるのは勿体無いんじゃないかな?部屋に戻っても、こんなにいい家具はないんだから」


 なるほど、お嬢様はランって言うんだ。


 高貴な人間が授かっている名前としては、十分だね。


 もっと貞子や名無しの権兵衛、残念太郎とかだったら面白かったのに。


 悪口かもしれないけど、本当にそれだったら面白かった。


 昔の高貴な人間たちの名前だと知れて、よかったのに。


 美来さんがいる時に言ってた気がするけど、今まで名前知らなかったからいっか。


 それにしても、ヒカルさんがすごく口が上手い。


 私も楽々と攻略されてしまいそうだ。


 注意しないと。


 まあ、注意してても攻略されそうだから無意味だと思うけど。


 「一理ありますわね。分かりました、ここに居て差し上げましょう。ただし、他の方々も一緒です。私を引き 留めておいて、他の方々がここを立ち去るなんて許しません。それと、この手を離してください」


 ……素直に喜べない。


 この説明を聞かなければ、悪いことが起こったかもしれないのに。


 虎の威を借る狐と言うように、私はそういう人間たちが嫌いだ。


 だからランにも早く退場してもらいたのに、ヒカルさんが引き留めてしまったから居残り確定になってしまっ

 た。


 まあそうするのが普通なんですけれども!


 けど、やっぱり退場して欲しかった。


 ゲーマーさんがゲームと言っているように、この世界は多分ゲームの世界だ。


 つまり敵に敗北すると、死と同じということ。


 今の体が死んだら地球にあると思われる体がどうなるかは分からないけど、他の人で試す手もある。


 そうなったら、ランを一番優先的に候補人間にあげる。


 実験台としてなら、ランでも私の役に立てるだろう。


 成功したらみんなに情報を共有、失敗したら別の人間でやるとしよう。


 別の人の目星は今のところついていないけれど、まあなんとかなるだろう。


 「本当なら俺も抜け出したいが、ヒカルが約束したなら従おう。後で怒らすと面倒だしな」


 「何か言ったか?マモル」


 「いいえ、何も言っていません。多分空耳じゃないですかね」


 すごい。


 マモルくんが不良から、ヒカルさんの忠実な僕みたいになってる。


 あとヒカルさんから、何か邪悪な黒い影のような見えた気が。


 彼は怒らせてはいけない人間だ。


 誰もがそう、確信した瞬間であった。


 最も、私の勘違いだといいのだけれど。


〈話し合いは終わったかー?じゃあまずお前ら一人一人に資料配るぞー〉


 そう言った瞬間、手元に数枚の紙が現れた。


  サラッ


 紙質もよく、触っても違和感のない触り心地。


 これ、全員分売ったら何円になるの。


 単純に、そんな疑問が生まれた瞬間であった。


 いやこれ、全部売ったら施設の何ヶ月分の食費が浮くと思ってるの。


 紙に金を使うなら、生きるために使えよ。


 金の使い方に突っ込みたくなったが、グッっと我慢した。


 何せ今の私はのんびり系。


 キャラが崩壊したら、それこそみんなに疑われてしまう。


 疑いはなかなか回復しない。


 だからこそ、こんなところで失敗すわけにはいかないのだ。


 「すいませんっ!ここの質問をしていいですかっ?」


 お化けちゃんが勇気を出して、ゲーマーさんに聞いた。


 目は力を入れすぎてぷるぷるしてるし、腕は緊張でぷるぷる震えてる。


 そんな状態の子がいるとなれば、当たり前のように辺りの人間は心配する。


 特に心配するのがヒカルさん。


 今も目の前でオロオロしている。


 普通にね、行動としては合っているんだけれどもね、これが演技だったらどうするのさ。


 騙されてたらどうするのさ。


 あらゆる可能性を考慮して行動しないと、後々後悔することになるよ。


 本当は言いたくないけれど、こういう人間を見ると心配になる。


 昔の私みたいで、後悔が押し寄せてくるから。


 “あの男”に耳を貸さなければ、“あんなこと”にはならなかったのに。


 私も今とは違い、普通の生活を送れていたのかも知れないのに。


 次々と思い出が押し寄せてきて、私は手を強く握った。


 もう“あんなこと”にはならないように。


 無知がどれほど恐ろしいか、再確認するように。


 一人、思いを固めたのだった。


〈なんだー?言ってみろ、リン〉


 ほー、お化けちゃんはリンって言うのか。


 漢字に変換すると凛かな?


 凛としているとか言うけど、リンちゃんの場合オドオドしてるから名前の意味とは真逆かな。


 「しょ、職業って、誰が何なんですかっ?」


 胸に手を当て、目を強く瞑り勢いに任せて叫び気味の声を発する。


 物語のヒロインキャラが愛嬌を振り撒くためにやる行為の一つ。


 あいにく私はそんなことができるはずもなく、心の中で悪態を吐くだけ。


 でもリンちゃんの場合はヒロイン気質があまりないから、しっくりとくる。


 この子はこういう子だと思わざるを得ない、ヒロインとは違う印象を与えるこの行為。


 ヒロインみたいな可愛さはなく、ただ単純な行為。


 純粋無垢な行為に、私は毒気を抜かれた。


 緊迫した気持ちも自然と軽くなったようで、私はある意味リンちゃんを要注意人物に任命した。


〈あぁーそれはステータスを見たら分かるぞー。ちなみに武器のメインカラーはお前らのメインカラーになるからなー〉


 手元にある自分の武器、弓を見てみる。


 メインカラーは黄色で、嫌いな色じゃない。


 好きな色でもないけれど、文句を言ったらバチが当たりそうだから黙っておく。


 どちらかと言うと金色に近い輝きを持つ弓は、私に反応するかのように淡く光った。


 え?


 いや、見間違いかな?


 そもそも武器に意思があるはずないし……あ。


 説明書になんか武器について書いてあったような気がする。


 帰ったらちゃんと読んでみよう。


 過去の行いを反省し、次に生かそうと決めた時だった。


〈これ以上の質問は個人で受け付けるぞー。やり方は各自試行錯誤して見つけろよー。それじゃあ解散!〉


 私たちがなにか言う暇を与えずにそう言うと、ゲーマーさんはどこかへ消えてしまった。


 同時にスクリーンも元の位置に戻っていき、室内も自然と明るくなった。


 明るい光に包まれながら、部屋は静寂に包まれた。


 それを打破するように、ランが講義を掲げた。


 「なんですのその雑っぷりは!私がいるということをお忘れなのかしら!?」


 怒り心頭で、顔が若干赤い気がする。


 世界は自分が中心で回ってると考えている人が言うセリフを、ランは正々堂々と全員の前で言ってのけた。


 これは多大な勇気か自信がないとできないことだろう。


 頭の中にあるイメージと合致しすぎて、若干呆れてきた。


 常にイライラしてはいるが、相手にするのが自分にとって損になる気がしてきた。


 だからか知らないが、少し冷静に相手を観察できるようになった。


 「皆様、このゲームのことを少しは理解できたでしょうか。もう夜が来てしまいますので、各自部屋に戻って 明日に備えてください。質問がある方は個人でアーティファクトに尋ねてください。電子版があるところなら 回答可能なので、例として挙げるのならばスキルを見ている時ですね」


 音もなく部屋に入ってきた何かは、メイド口調でそう言った。


 後ろからだから姿は見えないけれども、誰かは推測できた。


 今までの中で知っているメイド口調の人は、ただ一人しかいない。


 「美来さん、どうしてここに?」


 誰よりも先に口を開いたヒカルさんが、張本人に直接聞く。


 私たちをここに閉じ込めた張本人、美来さん。


 黒い髪をサラサラ流しながら、こっちに向かってくる。


 仕草も綺麗で、いいところ生まれなのが窺える。


 相当いい生活をしていたんだろうと予想ができる。


 反吐がでる。


 いいとこ生まれのお嬢様は、無意識に人を見下すか媚をうる。


 性はいいかもしれないが、環境が人を狂わせる。


 狂わせていると知っていながら、私は高貴な人や自分を上の人間だと思っている人間が嫌いだ。


 環境を変えることのできなかった、結局は弱虫で嫌な人間。


 そういう認識だ。


 「アーティファクトって誰だ?」


 マモルくんが美来さんの分からないこと一つ目を聞いてくれた。


 まず、アーティファクトとは誰なのか。


 認識ができない人間に尋ねろと言われても、どうすればいいのか分からない。


 美来さんがこっちに向かってくるのを見ながら、マモルくんは言った。


 ある位置まで来ると、美来さんは止まった。


 「ゲームを始める上で説明はきちんとやっておかないと、責任を追及されて後々困りますからね。そしてアーティファクトとは、一部の人がゲーマーさんと呼んでいる人です」


 私じゃない?


 一部の人間って。


 他にもそう呼んでいる人が一人はいるのかな?


 「あ、あのっ!スキルを見てる時に質問可能なのは本当ですかっ!?」


 リンちゃんが美来さんの分からないこと二つ目を聞いてくれた。


 次に、スキルを見ている時が電子板と関係あるのか。


 電子板とはタブレットやスマホなどのコンピューター類。


 なぜそれがスキルを見るのと関係があるのか、これも気になるところだ。


 「それはアーティファクトに詳細を聞いてください。今からみなさんは各自部屋に戻り、意味のある夜を過ご してください。明日の朝ホールに集合ということで、今日は解散です。おやすみなさい、みなさん」


 美来さんの声を聞いた瞬間、いつの間にか私は最初にいた部屋に戻っていた。


 部屋の中に特に変化はないけど、机の上に置いてあった説明書がベッド脇のデスクに移っていた。


 錯覚かもしれないけど、ホコリも無くなった気がする。


 家具などが新調されて綺麗になったわけではないが、それでもいい。


 衛生面で病気にかかるリスクが低くなっただけでも満足する。


 施設ではたくさんの子が、部屋の不衛生で死んでいった。


 仕事がある程度できるようになって成果を上げると部屋が少しだけ上質なものになる規則だったけど、預けら れた理由が病気持ちだった子は早々に対象外になる。


 もちろんみんな死にたくないから、ある程度の余裕が持てた子しかそういう子たちのことを気にしない。


 だから無償で衛生面に文句の付けようがないがないのはありがたい。


 これ以上起きていてもやることは限られているため、明日の朝に向けての準備をする。


 机の引き出しを試しに開けてみると麻布で作られている鞄があったので、その中に自分の武器である弓と説明書、ペンを入れる。


 ランプは暗くないので、いらないから持って行かない。


 弓が鞄に収まらなくてだいぶ出ているけれど、そこはあまり特に気にせずに準備を完了する。


 本棚から予習として勉強できそうな本を2冊ほど選び、デスクに置いた。


 題名は「ドームのエリア区分」と「■■■■■■と■■■■■■■の歴史」。


 2冊目は文字が掠れていて歴史の部分しか読めないが、歴史という部分だけでも重要なことがわかる。


 窓の外を見るとかなり暗く月が綺麗に光っているので、本を読むのは明日の朝にする。


 思ったよりも硬くないベッドに寝転び、私はすぐに意識を失った。


 衛生面に気を取られて、美来さんの突然な行動に反論する気が無くなったのは言うまでもない。

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