不思議なぬいぐるみ【彩優side】
グルグルグル〜
「……腹、へったな」
僕は今、非常に困っている。
なぜなら、餓死しそうだからだ。
近所の食べ物を食べればいいのだけど、ここら辺は高級店しかない。
仕方なくハンバーグやオムライスといった料理をコンビニで食っているが、僕はそこまで金が裕福なわけではない。
「もう僕は死ぬのか……?」
だから、料理をするにも材料がないのだ。
そんなことを考えながらふらふらと校内を歩いていると、廊下に小さい何かが落ちているのが見えた。
「あれは、なんだ?」
窓からの光に反射して、キラキラ何かが光っている。
最初は興味だった。
けれど、どんどん近づくうちに僕は惹かれていった。
緊張的なBGMに、大自然の画面。
次々と倒れていくプレイヤーに、高揚感を覚えた。
僕は引き込まれるかのように、そのゲーム機を手に取りプレイした。
最初は操作方法が分からず困惑したが、ボタンを片っ端から試していくうちにどうやっていいのかが分かっていくようになった。
ピコピコピコ
そして僕は今、無双している。
誰も僕に勝てない。
装備やスキルは一般なのに、僕は一位になった。
ゲーム機の持ち主に感謝して欲しいくらいだ。
何もやっていないのに、名声が手に入ったんだから。
僕はまだ冷めない熱を感じながら、教室から出て落とし物ボックスにゲーム機を入れた。
後から知ったが、あれは「シューティングゲーム」という類の遊戯らしい。
早速続きがしたい僕は、残り少ない金を全部持って古本屋に行った。
最近の古本屋は使い終わったゲームも置いてあるので、僕は店内を迷いながらも無事にゲームを買うことができた。
意外にお目当てのゲームは人気ではないらしく、少ない金しか持っていない僕でも買うことができた。
あのゲーム機の持ち主は貧乏なのか?という考えが一瞬頭をよぎったのは気のせいだろう。
ピコピコピコ ピコ
「よし、勝ちだ」
これでもう20連勝だ。
ゲーム機を触る手が、一向に止む気配を見せない。
「あともう一回、あともう一回だけ……」
僕は何かに取り憑かれたように、そう言った。
自分自身でも違和感を覚えながら。
ピコン♪
「〈アップデートのお知らせ〉?」
それは今の僕にとって、邪魔な存在でしかなかった。
早く試合がしたい僕は、見たらすぐに終了することにした。
タップして開いてみると突然、急な睡魔に襲われた。
「なんだ、これ。どうなってる……」
抗いたいのに、抗えない。
いっそこのまま体を預けてしまおうか。
一瞬そんな考えがよぎったが、すぐに打ち消す。
僕はまだ、ゲームがしたいんだ!
自分でも、動機が不順しているのはわかっている。
だけど、ゲームがしたい気持ちは変わらない!
〈“抵抗者”の習得……成功しました〉
「お、お前はだ、れ、だ……」
そんな声を最後に、僕の意識はプツリと途絶えた。
***
目が覚めた場所は、全体的に暗い貴族らしきの部屋らしき所だった。
もし僕が倒れたところをこの部屋に連れてきてくれたのなら、その人に感謝しないとな。
僕好みの部屋に連れてきてくれたのも含めて。
コンコンコン
「失礼します、主様。お迎えにあがりました」
「……お前は?」
ドアから出てきたのは、喋るツギハギのクマのぬいぐるみだった。
元々茶色のぬいぐるみだったのだろうが、青い布でほつれを隠している。
不思議の国のアリスに出てくるウサギみたいな服装をしていて、女ならきっと可愛いというだろう。
だが、僕の好みはかっこいいのだ。
あいにく、タイプのぬいぐるみじゃない。
そして、一つ気になる点がある。
“主様”って、どういうことだ?
「申し遅れました。私はベアー、主様の使い魔兼執事でございます」
この人形、頭……いや、綿は大丈夫か?
僕に使い魔か執事がいた記憶はないんだが……。
そもそも、僕は労働者に払える金を持っていない。
「とりあえず、今日のところは諦めてくれ」
これ以上不気味な生物をこの部屋に入れたくなくて、僕はさっさと帰れという意味を持ってそう言った。
借りている?部屋を荒らされてでもしたら大変だ。
絶対に罪を被せられる。
本心を言うと、問題を起こす前にさっさと帰ってほしい。
「ちょっと待ってください!私は主様へ危害を加えるつもりはありません。むしろ、また配下として加えていただきたいのです!」
……ちょっと待て。
僕は配下なんて受け付けてないぞ?
ついでに今更だが、なんで僕の名前知っている?
「別に僕の危害にならないならいいが……」
居ても居なくても、僕の生活に支障は出ない。
損がなく利がありそうな提供は、潔く受け取るフリをして条件をサラッと言うのがいいんだ。
長年の取引経験からの考えだから、ちゃんと保証はある。
信じるも信じないも勝手だが、僕はこれを信じている。
自分が経験したことを行動に移すのが、一番効果があるからな。
「ありがとうございます!」
うっ。
そんなキラキラした目で見られたら、今更取り消しなどできなくなるではないか。
どうしてくれるんだよ!
僕は内心そうツッコミながら冷静を取り繕う為、口の中を噛んだ。
少し血が出た気もしたが、気のせいだろう。
舌で触った限り、傷跡がどこにもないからな。
「はぁ、分かった。じゃあ、今からお前は僕の執事な」
配下にするなんて柄じゃないし、そもそもする意味がないからな。
ちょっと配下要素がある執事的立場でいいだろう。
もちろん、執事になるんだったら僕の代わりに雑務をこなしてもらうけどな。
ココには機械とかなさそうだから家事どうしようかと思っいたが、案外上手くいきそうだな。
「はい、主人様!」
……どうしても違和感が拭えないが、まあそのうち慣れるだろう。
別に呼び方なんて気にしないが、悪口は論外。
今のところ悪意は感じられないから、放っておくことにしよう。
「ところで主様、外に出かける時間でございます」
こんな夜中に外に出るのか?
普通の執事はそんなこと言わないと思うが……。
まあ、ぬいぐるみの時点で普通じゃないか。
そもそも、異論がないしな。
「外で自由に遊んでいいのか?」
「はい。ですが、それは用事が終わった後です」
どういうことだ?
僕は瞬時にそう思った。
ココで僕がやるべきことがあるのだろうか?
ゲームで無双(最近の出来事)しかしたことがない、この僕に。
「ついてきてください」
そう言ってベアーは、窓から外へ出た。
「おい、ちょっと待てっ!」
慌ててベアーに追いつこうと窓から外へ出た瞬間、急な眩暈に襲われた。
とても激しく、体を預けてしまいそうな眩暈に。
抗うことができなかった僕は、そのまま身を預けた。
「やはり主様は……」
意識が朦朧としていた僕は、ベアーがそっと呟いていることに気づけなかった。




