自給自足【彩優side】
はぁ、全くもって理解できん。
なぜあんなに群れようとするのか。
昔からの生存率を高める行動とはいえ、最近の人間の生活についていけてないから今更になって本能との矛盾が生じているんだ。
〈マスター、いいのか?あいつらと離れて〉
〈白夜、崇高なるマスターの意見に口出しするな。お前は脳筋で考えなしなんだからマスターの行動を非難する義理はない〉
「そうです。無駄に話をしてないで切れ味を増すことぐらいを考えておけ」
連携をとりつつある従者の会話にも、どこから突っ込めばいいかわからない。
さぁ今から何をしようか。
何をするにも時間がかかるしやりたいことがありすぎるので、考えがまとまらない。
〈今から狩りに行こうぜ!こんな悩みもひとっ飛びだ!〉
〈そんなん午後からでもできるでしょ。どの道行くなら今から部屋に戻って装備を整えた方がいい〉
マスターとか言って双剣は僕のことを担いでくるけど、その割に従者みたいな態度ではない。
庇護者か代表者にちょうどいい奴がいるから担いで機嫌を取っているだけで、忠誠心みたいなものはない。
ピロン♪
「美来からメールとURLが来ましたね。どうしますか?今開きます?」
「あぁ、読んでくれ」
「おほん、では。『皆さんは吸血鬼という存在を知っていますか?遥か昔、ゾンビが仲間の血を啜り生き残った個体が始祖だとされています。今もまだ吸血鬼は社会に姿を表さず、裏で人間の血を求め暴動を起こしています。そんな吸血鬼がここには存在しています。夜に一人で行動するのは危ないので、皆さん気をつけてください。どうでしたか?皆さんの話の話題の一つとして参考になると嬉しく思います。これからも不定期的に情報を配信する予定ですので、頭の片隅に入れておいてくださると幸いです。それではいい一日を』とのことです」
「あと『吸血鬼ということがバレても何も起こりませんが、恨みを持っている人間が一定数いるということを頭の片隅に入れておいてください。吸血鬼の権能を縛るものはこちらにはありませんので、快適な生活をお楽しみください』とも」
あの女、絶対に個人情報か機密情報を市役所とかから抜き取ってるだろ。
個人情報、機密情報保持であいつを訴えて、情報管理不十分で市役所を訴えてやる。
本当に通るかどうかは不明だが。
「ひとまず休息地帯である部屋に戻ろう。情報の精査はそっちでする」
「はっ!」
〈〈了解〉〉
***
「この吸血鬼の情報、どう思う?」
「概ね正規の情報と一致しています。ところどころ説明されていない細部の情報がありますが、市民一般的に普及している情報としては上々かと。ただここで出してくる真意が分かりかねます」
〈俺はそーいう細かいことはわかんねぇが、混乱させるのが目的なんじゃねぇか?人間は情報過多になると細部の細かいことを見逃すから後々有利になるって聞いたことあるぜ〉
〈悔しいですが、白夜の言うことに少しだけ賛成です。吸血鬼に対する他所に出しても問題のない他の情報を流すなどして、今日は少し大胆に行動した方が他の人間に安心感を与えて疑われにくくなるはずです〉
三者三様、十人十色で言っていることがそれぞれ違う。
けど今日大胆に行動するのはいい提案だ。
やってみる価値はある。
もし失敗しても、今後の行動についての判定要素の一つにすればいいだけだしな。
「では次に今日どういう流れで何をやるか決めよう」
「最初に森林エリアで住処を作るのはどうでしょう?そうすれば周囲の探索や私たちの食べ物の備蓄などの達成度がぐんぐん上がります。」
〈夜の誰にも邪魔されない時間に狩りをすればいい。その前までに建築をすれば時間を余すことなく使える〉
〈狩りができるなら、俺から何か言うことはない!〉
いいな。
一石二鳥ではなく三鳥だ。
住処を作るときに必要な材料は森林エリアで補うのが良いだろう。
パッと見た時の景色などに溶け込みやすいからな。
「ベアーの意見を採用だ。早速行こう」
「はいっ!」
〈〈……ベアー喜びすぎ〉〉
***
「もっとこいっ!雑魚なんだから数で実力差を補えっ!」
最高の気分だ。
繁殖機能が高い生物が山ほどいる。
しかも一部に集まっている部族が水辺や果物や薬物の群生地にたくさんいるから、たくさん歩かなくても食べ物の備蓄に困らなくていい。
個々の能力がそこそこあるから永遠にできる無限ループの中にいるみたいだ。
他のプレイヤーも有り難さに涙するだろう。
自分たちがやらなくても勝手に好き好んで掃除してくれるんだから。
「うん?なんかいるな。まぁいっか」
背後10m付近に個体反応あり。
人型の男。
武器は斧で戦闘体制。
ただし戦意なし。
プレイヤーの不良あたりだと思うが、夜の仕事とかで勘が鋭い印象を受けた。
顔と違い慎重派みたいな態度をとっていた仕草があったから別に注意しなくていいだろう。
「お前は誰だ?」
予想外の態度だ。
違う姿勢で臨んでくると思った。
「答える義理はない」
転移で森エリアの住処に移動しよう。
専用の部屋を用意しているからいつでも転移できる状態だ。
今は他のプレイヤーに表している容姿ではないからバレていないだろう。
バレたとしてもウラギリモノに結びつける可能性は低いからいい。
それではさよなら、また明日?
この言葉を使っていたのは誰だったか。
***
吸血鬼の王だと知ったのは初日の夜だった。
ベアーに窓から外へ連れ出され、そこで吸血鬼のことを知った。
権能も色々覚えたし、暗黙の了解なども教わった。
なんのためにやっているのかわからない貴族階級の顔や詳細を覚えたりもした。
とにかく今までの人生で教わるべきだった全ての工程を終了させた。
だから憂さ晴らしに暴れたくなった。
誰も止めるものはいなかった。
そもそも何年もかかる準備を一夜もせずに終わらせたんだ、文句を言ってもらうようでは困る。
僕の無言の圧が加わった結果、何も言わずにたくさん狩場を献上してくれた。
頑張った後のご褒美は最高だった。
人間が走り込みや持久走をした後に食べる甘味はこんな風なのかと思うほどだった。
極夜がドームに搭載してあるプレイヤーの位置情報を随時報告するGPS機能を利用して環境整備も万全にしていたから、プレイヤーによるウラギリモノという訳のわからない仕組みを気にせずに思う存分暴れられた。
狩りの最中でベアーの同僚の話をされたが、顔と詳細を把握して一言声をかけると泣いていた。
情緒不安定になっていないか従者の心情が心配だ。
〈いやーあいつがマスターに話しかけてくるとは意外だったわ。もっと見た目と違って慎重な性格だと思ってたのによぉ〉
〈せっかくの狩りの時間を邪魔された。許すまじ。この恨みは必ず返す〉
「私たちの不注意でした。罰は如何様にも」
一部を除いてすごく反省している。
自分たちに非があったことを少しでも意識しているなら今後の成長に期待だ。
「まぁいいよ。次からは狩場に獲物以外が入らないようにちゃんと環境整備しといてよ」
「はっ!」
定期的に憂さ晴らしをするためにエリア攻略を進めた方がいいかもしれないな。
他のプレイヤーたちがまだ進行していないところを進めるか。
草原エリアはすぐに終わりそうだ。
今後は森林エリアを主に、草原エリアを片手間で行おう。
どんな獲物や食べ物があるか楽しみだ。




