二日目【千代side】
んぁぁ……ここ、どこ?
見慣れない天井を見つめながら状況整理をする。
確か軽めの和食を食べてサユがなんかいいもの食べたんだっけ。
あれは美味そうだった。
まあ、そろそろ起きるか。
ベッドから起き、鏡に向かって歩く。
鏡を見ると髪の毛はボサボサで隈もできていた。
髪がボサボサになっているのは久しぶりだからあまり違和感ないけど、隈があるのは驚きだ。
机の上にある物も散乱しており、段々と昨日の出来事を思い出してきた。
なんとか夕食時の後会議室であった情報交換会は平常心を保っていられたけど、自分の部屋に帰って泣き喚いたんだった。
情緒不安定になって長い間泣くのは久しぶりだった。
多分脳が一回に処理できる量を超えたのだろう。
日頃の疲れが取れたのか、いつもより脳がスッキリしている気がする。
それと共に思い出したくない記憶まで蘇ってきた。
なぜこういう時だけ思い出すのだろう。
もっといい思い出は私にもあるはずなのに。
現実逃避をしていたが顔に隈があるということは、これは少なくとも現実だということだ。
夢ではなく、今までやってきたことは全部本物。
娯楽のゲームではなく、命のやり取りがある。
リセットやセーブ、復活などはなくもう一度やり直すことはできない。
ここは趣味の悪い異世界だ。
けれど、それが分かったところで何かできるわけでもない。
己の無力さに嘆くよりも、もっと効率的で後につながる行動をする方が未来の自分に有利になる。
まずは身だしなみを整えよう。
着ていたパジャマを脱ぎ、クローゼットの中に入っているここでの制服のような服を出す。
鏡の前にもう一度立ち、髪の毛を手櫛で整えてから櫛でとく。
隈はどうしようか。
いつもなら隠すのに使う化粧用品はない。
自然に治るのを待つなら、相当な時間がかかるはずだ。
ここはヒカルくんに依頼して魔法の力でなんとかしてもらった方がいいだろうか。
けれど貴重な労力をこんなことに使ってもらうのは気が引ける。
やはり自然に治るのを待とう。
コンコンコン
「おい研究員、いるか?」
これは……サユの声?
というか研究員って誰のこと?
私?私なのか?
自己紹介したはずだけど。
まさか聞いていなかった!?
十分にありえる、あいつならやる。
確信を持って言える。
ムカつくから無視をしよう。
どうせ見せられる顔じゃないし。
集団行動は強制ではないし、この館内を探索するのもいいだろう。
森エリアとかに行くのは当分遠慮したい。
記憶がフラッシュバックしてみんなの足を引っ張るようなことはしたくない。
コンディションも万全に整えてから挑む方がいい。
この部屋を中心として地図を作った方がここで不測の事態が起こったときにも対応しやすい。
よし、探検しよう。
「もう寝ていると思うぞ。こんなことしている場合か?早く強くなったほうが身のためじゃないのか」
サユに同意するのは悔しいが、今は早く扉の前から移動してほしい。
そうしないと私が一歩も行動できないし音も立てられないんだ!
不自由でもう我慢の限界……手足が痺れてきた。
体もプルプルしてきたし、もう早く行って!
「確かに、女性の部屋の前で立ち往生するのは良くない。もしチヨさんを見かけた人がいればその場で声をかけて呼び止めることでどうかな?それなら安全と生存確認ができるよ」
「わっ、わかりました!チヨさんのペースも大事ですもんねっ!」
「異論はない」
「後の人たちで勝手になさって。私は何もやりませんわ」
ラン、今はよくやったと言おう。
やればできるじゃないか。
この恩は返さないから。
貸しでも何でもないからね!
本当にそこは間違えないでね。
後で何要求されるか、考えたくもない。
「じゃあもう用はないな、あとは勝手にしろ」
「あっ、サユくん!」
多分サユが一人でどこかへ行ったのだろう。
一匹狼だもんな。
かっこいいとかは思わないけど。
他の子はどう思うんだろう?
「まっ、まあサユくんもここまで連れてきてくれたんだし、これ以上迷惑をかけるのも悪いしっ!」
「確かにリンの言い分も一理ありますわね。これ以上あの方に構うほうが時間の無駄ですわ」
「怪しいが、貴重な時間をかけるほどの存在ではない。優勢順位を間違ってはいけないし、もっと他にやることがあるはずだ」
いつの間にかヒカルくんが中心で話をしている。
やっぱり頼りになるリーダー的な存在だからかなぁ。
絶対に学校で学級委員長とか委員会を立候補してやってるタイプだ。
普通人がやらないことを率先してやる人って、誰からも好かれるもんね。
私はまず疑って、その後の行動とかを注意してみるけど。
だって人間は周りの人間で人生が決まる。
魂の色が善悪の白黒で別れるなら、純白の善人なんてない。
シミみたいな黒がたくさん真っ白なキャンバスのようなものの上にあるのが普通だ。
幼児の頃に親に迷惑をかけたとか黒歴史とかも悪に入るでしょ?
規模が小さいだけで、立派な悪の証だ。
現実逃避なんて許さない。
それが罪を行なったものに求められる責務を魂が滅するまで続けるべきだ。
ピロン♪
誰!?
電子板を見るために手の甲にある宝石を触る。
「オープン」
電子板を見ると、送信者は美来さんだった。
『皆さんは吸血鬼という存在を知っていますか?遥か昔、ゾンビが仲間の血を啜り生き残った個体が始祖だとされています。今もまだ吸血鬼は社会に姿を表さず、裏で人間の血を求め暴動を起こしています。そんな吸血鬼がここには存在しています。夜に一人で行動するのは危ないので、皆さん気をつけてください。どうでしたか?皆さんの話の話題の一つとして参考になると嬉しく思います。これからも不定期的に情報を配信する予定ですので、頭の片隅に入れておいてくださると幸いです。それではいい一日を』
……吸血鬼?
何それ、美味しいの?
名前からして血を吸う鬼だよね。
桃太郎とかに出てくる鬼系なのかな?
だとしたら鬼と金棒のやつだよな。
勝てる気がしないんだが。
そもそもドーム内でという言葉がないから、ここも安全ではないということだ。
もう探索して安全な場所やいざという時の避難場所とそこまでの安全な経路を決めるしかないな。
気分は避難訓練。
自然災害が多い島国に生まれたから、こういう対応は慣れている。
早ければ早いほどよい。
よし、扉の前に人間がいなくなったら開始しよう。
「じゃあみんなで草原エリアに行こうか。森林エリアは僕たちがもっと強くなってからにしよう」
「おう」
「わっ、わかったっ!」
「ふんっ!」
……よし、全員階段を降りたね。
これなら音が聞こえないはず。
じゃあ持ち物確認。
いざというときの護身のための弓と2冊の本、それを持ち歩くために使っている鞄はある。
あとはランプを持っていけばいいよね。
部屋を出て扉を閉め、オートロックで鍵が閉まる。
よし、では出発しますか!
私はこの洋館にどのようなものがあるのか想像し、期待しながら廊下を歩いた。




