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サバイバルゲーム  作者: こんぺーとー
サバイバルゲーム〜ついに始まった遊戯〜
10/13

サバイバルゲーム開始【千代side】

〈それではこれからサバイバルゲームを始めます。行ってらっしゃいませ、プレイヤーの皆様〉


 スクリーンに映る美来さんの言葉につられて、ゲートと言われる各エリアへの扉が開いた。


 サユさんが帰ってしまった後、ヒカルくんをリーダーとして会議室へ向かった。


 みんなで美来さんの周りに集まると、“警察ごっこでもしてるんですか?”と冗談を交えて言っていたけれど、きちんと情報を聞くことができた。


 説明書になかった細かなルール、その他にも間取り図やできる限りの情報を聞き出した。


 対価は求めてこなかったけど、ニコニコ笑ってたから油断はできない。


 この競技、気を抜ける暇は無さそうだ。


 「ねぇサユくん。よかったら一緒に森林エリアに行かない?みんなで行った方が効率がいいと思うんだけど……あれっ?」


 ヒカルくんがサユさんに話しかけている途中、サユさんは一人でゲートの中に入って行った。


 プレートには草原と書かれてあるから、草原エリアへのゲートだ。


 確か、森よりも視界に入る障害物が少ないのが特徴だったよね。


 だけどピンチの時に隠れる所が少ないのが弱点で、オススメの武器は近距離戦を得意とする武器と美来さんは言っていた。


 普通は初心者向けの森林エリアに行こうとすると思うんだけど、一体何を考えているんだろう?


 「しょうがない。僕たちは予定通り、森林エリアに行こう」


 話を聞き終わるか否かマモルくんが森林エリアへのゲートを通ると、それにつられるかのようにランとリンちゃんも続いて通って行った。


 「怖いなら一緒に行こうか?」


 怖くてゲートを通れないと思って気を使ってくれたのか、ヒカルくんが声をかけてきた。


 「大丈夫だよ〜。私、これでも中学二年生だし〜!!」


 「そっか。じゃあ行くね」


 先にヒカルくんが行ったのを確認して、私はゲートを通った。


 自分の身を守る、武器の弓をしっかりと握りながら。




***




 「わぁ〜……綺麗な場所だね〜」


 私は目の前の景色に、あんぐりと口を開けてしまった。


 キラキラと、光を反射して光る透き通った青い湖。


 周りの木々は生い茂っており、緑が豊かに溢れている。


 木から溢れる光が木洩れ陽になり、日陰と日向を作り出している。


 木の下に寝っ転がって、昼寝をしたら気持ちいいだろうな。


〈あっれ〜?人間がいる!しかも地球の!ふふっ〜今日のあたしはついてるわね!〉


 脳に直接響くように、誰かの声が聞こえてきた。


 地球の人間が何か特別なの?


 というか、なんで私たちは惑星の人間として数えられているの?


 普通は国名を言うんじゃないの?


 分からない。


 突然の連鎖で、一つずつ理解するのに時間がかかる。


〈ねぇねぇ、あたしと一緒に森で遊ばない?とっても楽しいわよ!〉


 薄い紫色の輪郭がハッキリしていない何かが、こっちに近づいてきた。


 森の不思議な話と言えば、お化けや魔女なんかがある。


 けれど、この何かには強大な力を感じない。


 庇護欲をそそられる、子供みたいな感じがする。


 「ごめんね。君が何者か分からないと、こちらも判断しにくいんだ。よかったら君は何者か聞いてもいいかな?」


 率先して意見したのは、ヒカルくんだ。


 もうこのグループのリーダー的存在になっている。


 全部で6人いる中の5人だから、グループと言っていいのか怪しいけど。


 一人の単独行動とそれ以外という区別もできる。


 果たして、どちらの表し方が正解なのか。


〈ん〜?あたしは妖精だよ!君たちよりも位は高いんだからね!〉


 妖精?


 確かに少しだけ、背中から羽が二つ生えているのが見える。


 童話とかによく出てくる妖精と、瓜二つだ。


 ……それよりも、位ってなんだろう?


 貴族か平民か、的なやつかな?


 だけど、私たちと妖精に共通した位の基準ってあるのかな?


 人間は血筋とか大成した人とかが上の位につくけど、人間と妖精の場合はどうなるんだろう?


 「位って何ですの?私たちあまり知りませんので、教えてくださいまし?」


 ランにしてはいい事を聞いている。


 ただの世間知らずのバカなお嬢様じゃないのね。


〈ふふん、いいわよ!この天才美少女のあたしが教えてあげる!〉


 自称天才美少女の妖精は、上機嫌に話し出した。


〈この森では種族に沿って上下関係があって、上の種族に逆らうのは御法度なんだからね!〉


 上の種族?


 妖精は人間よりも上だから、上から目線なのかな。


 知らないけど。


〈頂点に君臨しているのはここのボスで、情報はどの種族も一切知らないの!〉


 つまり、秘匿されし存在ってことね。


 どの種族も知らないって、なんで分かるのかな。


 戦争か首脳会議でもした?


〈二番目は精霊で、自然の意思が現れた種族だよ!だからこの種族に逆らうと、秒で全種族が敵になるからね!〉


 自然の代わりに精霊がいるってことは、盗賊とかの悪いやつがいない可能性が高いってこと。


 食物連鎖を重視してるなら、普通にいると思うけどね。


〈三番目はエルフで、精霊が何かしらの理由で降格した種族だよ!追放とか不義の子とかがエルフになるよ!特徴は耳がないことで、なんでも精霊にとって耳は第二の命らしいよ!〉


 噂がお好きのようで、聞いてもいない情報も話してくれる。


 ありがたいね。


 調子がいい妖精で感謝。


〈四番目は妖精で、精霊と妖の混合種だよ!まあ目の前にいるから説明はパスね!〉


 なんとも適当な。


 普通は自分の種族を誇るんじゃないのか?


 人間よりも上みたいだし。


 もっと自慢して、情報をうっかり口にしてくれると嬉しいんだけどな。


〈五番目は人間だよ!本当、地面に這いつくばって捨て駒にされるのがお似合いだよね!〉


 捨て駒にするのを、ここで言っちゃうんだ。


 マモルくんやランが肩を震わせてるのを、簡単に想像できちゃうよ。


 実質、今その状況だし。


 ヒカルくんがなだめてるけど、時間の問題かな。


〈一番下は妖で、生物の感情が集まって生まれる種族だよ!良い感情から生まれた妖もいるんだからね!目が冴えてるかが妖と会った時の鍵になるんだからね!〉


 妖を特に肩入れしているのか、他の種族の説明よりもたくさん話す。


 情報をたくさん言ってくれるからありがたいけど。


 つまり話をまとめると、人間は下から数えた方が早い種族だということを意味している。


 上の種族が多い分だけ人間は自由がないのだろう。


 これは大変な事になりそうだ。


 うっかりしたら、グループの誰かのせいで何かの争いに巻き込まれるかもしれない。


 もしそうなったら、終わるまで自由にはなれないのだろう。


 後、人間よりも位が高い種族に会ったら終わりだ。


 何を要求されるか分からない。


 下は妖だけだから、イメージだとお化けにしか何かを要求できない。


 けど私たちが思っているように、なるべく上の種族には会わないようにしているはずだ。


 まず見つかる可能性が低い。


 しかもラン辺りがお化けを怖がって、会うことを拒む可能性がある。


 慎重な行動が、このエリアでは求められる。


 「分かった。一緒に森で遊ぼう。案内を頼めるかな?」


 反対の声はなかった。


 知らない場所とルールな以上、抵抗してもメリットがないと各々判断できたのだろう。


 少なくとも全員中学生になっているため、単純計算ならできるのだろう。


 まあ、できなかったら笑ってあげるわ。


 ちゃんとした教育受けてる奴が何やってんの、てね。


 人間をバカにしてたところに怒っている人には笑わないけど、評価は少し下がるかな。


〈じゃあ、あたしについてきて!とびっきり楽しい遊び場に案内するから!〉


 ピンク色の鱗粉を放出しながら先頭を飛んでいる妖精は、全員がついてきているのを確認しながら森の奥へと入っていく。


 ……私はこのテンションについていけるのかな。


 視界が暗くなっている気がする。


 初めにいた場所の方角を見ながら、明るさを比較する。


 例えるとするなら、あっちは光でこっちは闇だ。

妖精は、闇方面の光が届くか微妙な位置で止まった。


〈ここだよ!木の枝から景色を見渡すのに、最高の場所なんだ!〉


 木の側面のギリギリを飛び、木の枝に座った。


 うぅ……落ちないのかなぁ。


 落ちたら骨折とかしそう。


 ちなみに今の私達は体が小さく、光っているからか下からはよく見えない。


 というか、首が痛くなってきた。


 私は首の痛みを和らげるため木から離れ、一旦視線を地面と並行な角度に戻した。


 すると、何かが見えた。


 ピンク色の妖精ではない何かが。


 それはどんどん、ヒカルくんたちの方向に茂みに隠れながら移動している。


 やましいことでもあるのかな?と思っていると同時に、何かの後ろに空中に浮いている光る丸いモノが現れた。


 形は丸くて薄い。


 模様がたくさん書き込まれており、読み取るのが困難なほど。


 知らない文字が綺麗な形でたくさん書いてある。


 いったいどこの国の呪文なの!?


 その呪文が書いてあって光っている丸いモノは地面へと近づくように動き出した。


 ゆっくりと、決められたルートを通っているように。


 地面についたと思ったら、光る丸いモノは細かい粒子になって辺りに散らばった。


 後に残ったのは、白い髪に青いメッシュが入ったポニーテールの中性的な顔立ちの子だった。


 もしかして、サユさん!?


 サユさんは、巫女服を今風に改造したような、可愛くもかっこいい服を着ている。


 他のプレイヤーとは違って、二色だけで構成されていない。


 青のカーディガンと巫女服の内に着ている赤い肌着。


 スカートより下の位置には革製のベルトがあり、そこに青色の双剣が刺さっている。


 青い瞳からは、強い殺気を感じさせる。

ツノも生えてる気がするよー。


 ハハッ、まさに鬼神。


 顔が笑ってないな。


 後ろに般若が見える。


 常にポーカーフェイスだったけど、今は後ろから吹雪が見える気がする。


 というか、本当に実在してる。


 「寒っ!……あ」


 思わず叫んでしまった私に、二つの視線が集まる。


 だけど弁明させて欲しい。


 長袖のワンピースに、スパッツだよ?


 真冬よりも寒い温度になったら、叫びたくもなるよ。


 「邪魔だ。僕の視界を遮るな」


 存在などないように、サユさんはそう言って何かを双剣で切った。


 血飛沫は起こらず、代わりに黒い残滓が宙に散っていった。


 暗い色が、辺りを彩った。


 「キャーーーー!!」


 ゆっくりとサユさんがこちらへ振り向こうとしたその時、ランの悲鳴が聞こえてきた。


 何事かと声のある方向を向くと、なんと巨大化した妖精がヒカルくんを体内に取り込もうとしていた。


 「何やってるの!悲鳴上げてる時間があったら、早く武器で応戦して!」


 キャラなど忘れ、ただ一心に救うことだけを考える。


 後のことなんてどうでもいい。


 グループである以上、やれることはやる!


〈うふふっ!妖精の言葉を信じちゃって、バカみたい!私は妖と精霊のハーフなのにね!〉


 「……えっ?」


 精霊の血を受け継いでいるからって、油断してた。


 この妖精は妖の方の血か遺伝子が強い個体なのかな。


 どっちにしろ、何とかしなければならない。


 得意ではない木登りをしながら、戦場の状況を把握する。


 マモルくんは戦いに慣れてる様子だ。


 斧を上手に扱って、敵に攻撃している。


 ランは盾を持っているだけあって、現場よりも遠いところで盾の陰にうずくまってガタガタと震えている。


 リンちゃんは槍で遠距離攻撃をしようとしているみたいだけど、足がすくんでいてそれどころじゃない。


 ヒカルくんは、必死に出ようとしている。


 杖は背中にあって、手が届かないように見える。


 「私の矢に気をつけて!」


 私はそう言いながら矢筒から矢を取り出し、妖精目掛けて矢を放った。


 図体がデカいだけあって、狙った範囲に命中した。


 矢の近くにいたマモルくんは事前に後ろに飛んで避けていたし、ヒカルくんは矢のおかげで運動範囲が広がった。


 「いけるよ!」


 後もうちょっとで、倒せる!


 「いや、まだだ!気を抜くな!」


 みんなが気を抜いていたその時、マモルくんの鋭い声が上がった。


〈私を……妖精を舐めるんじゃないわよ!行きなさい、私の可愛い子供たち!〉


 妖精がそう言うとヒカルくんがいる付近から突然穴が開き、さっきサユさんに倒されていた何かがたくさん出てきた。


 似てはいるが、所々がそれぞれ違っている。


 でも個体の識別は難しいそうだ。


 「おい!弓使いのお前は特に注意しろ!ああいう単純な奴は、近距離戦闘が得意だ!距離を詰められたら、お前死ぬぞ!」


 「言われなくても、生きるためにがんばるよ!」


〈弓で攻撃できる範囲を表示。矢の数は30。1体倒す為に必要な矢の本数の予想は5。6体を倒すことができます〉


 頭の中に出てくる黄色の文字を目の前の状況に組み込みながら、近くにいて弓が安全に使える敵を撃っていく。


 脊椎のレーンには当たっているから、いくつか当てればいけそうだ。


 私だけで全部倒すのは無理だけど、マモルくんが倒してくれているから徐々に数は減っている。


 弓で敵を倒すことに集中する。


 脳と腕と足の筋肉が悲鳴を上げているけど、それを


 無視する。


 残りは約30体!


 無理無理無理無理無理……だけど、死にたくない!


 「はぁぁぁあ!」


 声を出して、自分の士気や力を高める。


 全部は無理なら、できるだけ数を減らす。


 増援が来る前に数を減らして、撤退しやすいようにする。


 「邪魔だと、何度言ったら分かる?所詮、腐った種族の集まりだな」


 今まで戦いに参加してなかったサユさんの声が、遠くから聞こえてきた。


 コツコツコツと規則正しい足音が聞こえると共に、何かが斬られていく音がしている。


〈黙れ!妖精よりも下のくせに、偉そうにすんな!お前らはただあたしに従ってればいいんだよ!〉


 種族をバカにされたのが癪に触ったのか、もっと巨大化して範囲攻撃を繰り広げる。


 「くっ!」


 「あぁぁぁ!」


 マモルくんは避けたけど、リンちゃんとランちゃんに攻撃が当たった。


 私はギリギリ範囲外だったから後ろの木に映るだけで済んだ。


 だけど攻撃を避けても石の欠片が飛んできたから、私は頬に傷を負ったがそんなの関係ない。


 「サユさん!むやみに近づいたらダメだよ!早く戻ってきて!」


 なんと、範囲攻撃が終わってからすぐにサユさんが妖精目掛けてダッシュしたのだ。


 本当にふざけないでほしい。


 ここで近距離戦が得意な双剣がなくなったら、この後が不利になる!


 もし誰かが使えたとしても、取りに回収するのにリスクがかかる。


 ノーリスクで取るなら、妖精を倒して安全になってからじゃないと。


 中学生によくあるちょっとの好奇心や自意識過剰なところで、私たちが今後不利になる状況を作らないで!


 「黙れ。僕に発言できる生物の中に、お前は入っていない」


 ……は?


 状況考えて行動しろよ、この自意識過剰の中二病が。


 甘ったるい環境の中でずっと生きてきたから、こんなバカが年々大量発生してるんだよ。


 下にいる生物の苦労も考えろ、下等生物め。


 2000年遡って、猿でもできること達成してから帰ってこい。


 そして今の行動を詫びて、反省文100枚書いてこい!


〈あははははっ!いいねぇ仲間割れ?それならこっちの弱そうな奴からいこうかな!〉


 妖精は範囲攻撃の構えを舐め、ヒカルくんを土の上に勢いよく放り投げた。


 「くっ、がはっ!」


 ……!ヒカルくん!!


 口から血を出したヒカルくんは、もう戦えそうにない。


 残っているのは、私とマモルくんとサユだけ。


 サユの相手をしている時間はないから、もう放っておこう。


 後のことは知らない。


 双剣だけ回収できればいい。


 つまり、できるだけマモルくんとの連携した攻撃を狙う。それしか方法はない!


 「マモルくん!私が援護射撃するから、一気に攻めてくれる!?」


 「無駄だ!今の俺たちの戦力じゃ勝てる相手じゃない!今からこいつらを担いで撤退する!お前は木の上で移動しながら撤退するのを手伝え!」


 「でもさすがに無理じゃない!?人数が釣り合ってないよ!サユは多分使えないし!」


 「じゃあなんか作戦があるのかっ!?言ってみろっ!」


 的確な意見だけど、さすがに無理しすぎな気がする。


 でもマモルくんを納得させるほどの名案もないし。


 ……どうすればいいの!?


〈ははははっ!そうだそうだ!その調子で共食いでもしたら!?〉


 口調がやや雑になっている妖精は調子がいいようで、どんどん攻撃を仕掛けてくる。


 「がはっ!」


 何発も攻撃を避けていても完璧ではないようで、私は攻撃をくらった。


 もう立ったり避けたりする気力がない。


 残りの二人はまだ体力があるみたいだけど、もう私はすっからかんだ。


 最後なら、攻撃の一発でも入れたかったな。


 はぁ。


 長くはない戦闘も、ここまでか。


 結果は惨敗。


 どう見ても私たちに勝ち目はない。


 誰もが瞳に諦めの色を宿したと思った。


 「クククッ!お前いいな!俺の相手しろよ!」


 性格が変わったように、サユが叫び始めた。


 あいつとうとう、頭がおかしくなったか?


 まあ無理もない。


 よほど神経に影響を受けたんだろうな。


 ご愁傷様。


 あの世で面白おかしく笑ってあげる。


 同じところに逝っているのかは知らないけど。


〈あたしがお前の相手をしてあげてるの!あたしに感謝しなさい!〉


 妖精は攻撃スピードを更に速める。


 走りながら攻撃をかわして距離を詰めていくサユ。


 少しサユが有利な状況だ。


〈なんでっ!なんで当たらないの!〉


 「あーあ。クソ雑魚じゃん、お前……もういいや」


 何かのスイッチが入ったかのように、サユは急に走るスピードを速める。


 速すぎて土埃しか見えないのは、意識が朦朧としていて脳が正常に情報共有できてないだけだと思う。


 現実でそんぐらい速かったら、普通に有名人だと思う。


 私は有名人のことは全然知らないけど、知っている人がいたら最初の自己紹介で質問とかあるのが普通だよ。


 多分。


 「死んで自分の遺伝子を恨め」


 ザシュザシュッ


〈あああああああっ!〉


 二発連続、サユが無理矢理攻撃を入れ込んだように見えた。


 案外呆気なく思った私の感性は、壊れているのだろうか。


 妖精の近くから出てくる敵を遠距離射撃して力及ばず倒れているのに、サユが攻撃したらうるさい小さなピンクの羽虫に感じるのは。


 近年は思わないようにしていた思考が、私の心の中で暴れた。


 サユは私よりも下なのに、なぜ私が負けているのか。


 全部私の方が上なのに、なぜサユが今この状況で平然として立っている。


 なぜ、なぜ、なぜ……


 永遠とも感じられる時間、今の状況に答えを求める声が聞こえる。


 素直に自分の方が下だと判断するべきだと、頭では分かっている。


 でも心が邪魔をする。


 自分の考えが正しくはないと分かっているのに、それをちっぽけなプライドが否定する。


 プライドなんか持っていたんだと、今更に思う。


 心を持っている生物は、心を強みだと思っている。


 何もかも感じ取り、事前に危険を逃れることができる。


 でも私は弱みだと考えている。


 事象を全て感じ取れるからこそ恐怖や絶望、プライドなどが存在する。


 人間は感情のままに動くことが多く、プラスの感情だと心があってよかったと思い、マイナスの感情だと心なんてなくてよかったと思う。


 そんな矛盾している生物だからこそ、私は嫌いなんだ。


 心があるからこそ、論理的で自分にとって利益が多い道をいけないのだ。


 もっとハッキリとした自論を持って生きていたら、違った印象を受けていたかもしれないけど。


 「ふふふふっ。楽しいなぁ。もっと狩ってこよぉっと」


 いかにも愉快そうに言ったサユは、そのままどこかへ消えてしまった。


 このまま意識を保っていたかったが瞼の限界がきてしまい、私はそのまま眠りについた。


 グループのみんなで無防備なまま、森の中で。




***




 ドカッ


 「痛っ!」


 頭を硬いものにぶつけた拍子に、私は目が覚めた。


 目線を上げると、そこには残滓が体の周りに張り付いているサユがいた。


 それより、もっとマシな起こし方あったよね?


 奇妙な光景に目を疑いつつも、今の状況を確認する。


 森ではなく、体に目立った傷はない。


 服は汚れていて頬の擦り傷はまだあるけど、不思議と汗が下着にしみてはいない。


 逆に新品の服のような清潔感が、体を保護している。


 弓は床に落ちていて、矢筒も一緒だ。


 他のみんなはもう既に起きているが、誰一人として喋っている人はいない。


 気まずい静寂が辺りを包んでいる。


  ピロリン♪


 場に似合わない軽音が多方向から聞こえた。

音のする方を見てみると、勝手に電子板が開いていた。


 電子板にはデカデカと、手紙のマークがあった。

バツ印もないので押してみると、手紙のようなものが出てきた。


 『皆様に、僭越ながらご飯をご用意させていただきました。材料がある方は青いカウンターの方まで向かってください。材料を持っていらっしゃらない方は赤いカウンターまで向かってください。食べるか食べないかは自由ですが、ゴミの分別はしっかりと行なってくれると幸いです。食堂は公共の場ですので周りの方のご迷惑にならないよう、ご協力をお願いします』


 文章から見るに、美来さんから送られてきたものだと思う。


 一度辺りを見渡すと、確かに食堂のようになっている。


 カウンターに人はおらず、奥も厨房や作業場のようなスペースではないみたいだ。


 〈よー、久しぶりー。質問あったら聞くけど、なかったら帰るぞ。こっちは美来の一方的なお願いで来てんだ。ちゃっちゃと言え〉


 見覚えのある声のする方向に振り向くと、そこには予想通りアーティファクトが映っていた。


 相変わらず、癖が強いけど親しみやすい。


 さっき死にかけたところだったからか、不思議と安心する。


 口調や雰囲気がそうさせるのかな。


 暇な時に考えてみよう。


 「このカウンターは、材料を出してレシピを選んだら自動で作ってくれるやつで合っているか?」


 コンコンと青いカウンターを叩きながら、サユがアーティファクトに聞く。


 だけど、どうしてカウンターの作りが分かったんだろう。


 一目見て判断できるレベルじゃないと思う。


 もしかして、専門分野だった?


 何者なの……?


 〈おう。一回の使用で何個でも作れるし、一定数を超えると材料をそのままの状態で保管してくれることもあるぞー。余ったやつはお弁当にもしてくれるから、残飯削減にも繋がってるぞ。ちなみにこのカウンターは使用回数でレベルが決まる仕組みになってて、レベルに応じてできることも増えていくから使い道はいっぱいあるぞー〉


 「赤のカウンターと青のカウンターに違いはあるんですか?」


 アーティファクトが回答し終えると、すぐさまヒカルくんが質問する。


 顔色はよく、妖精に捕まっていた時とは別人のようだ。


 〈まあそれは、体験してからのお楽しみだなー。ちなみに、出された料理はしっかり食べろよー。拒否権は一応あるけど、次の機会は明日の夜だからなー〉


 この返答だと、絶対にご飯の差がある。


 というか、一日一回は必ずご飯が食べられるってことでいいよね?


 しかも、材料を持ってきたら自動で作ってくれる。


 多分、出来立てほやほやのを食べられる。


 ……ここ、居住施設だけはすごく充実してない?


 サバイバルとかはクソだと思うけど、こういうところのせいで評価が下がりきらないんだよね。


 〈もういないかー?ないならおさらばするけど、いいかー?〉


 誰も意見しない。


 声を上げずに、ただじっとしている。


 私はご飯が出てくると分かっただけで十分だ。


 材料が取れたらラッキーぐらいで、この話は終わりだ。


 〈じゃあ夜ご飯を楽しみなー。そんじゃ〉


 手を気怠げにバイバイと振る姿を最後に、アーティファクトはスクリーンから消えた。


 いつ見ても不思議だ。


 プロジェクターらしき物も辺りにないのに、どうやって映し出しているんだろう。


 どうやったらそんなことができるのだろう。


 今度美来さんかアーティファクトに手紙で聞こうかな。


 エリアに行くのはもう散々だし。


 「ありがとな」


 「あっ、ありがとうございます!」


 「ありがとう。」


 「ふんっ!」


 赤いカウンターでは、サユと私以外の人がご飯を受け取っているところだった。


 小さい扉からご飯が出てくる仕組みで人はいないが、自然と感謝を伝えているのは長年の習慣からだろうか。


 ランはお礼は言ってないものの、受け取っている手はゆっくりだ。


 バッと奪い取るつもりはないのだろう。


 妖精との一件で、そんな気力もないようにも見える。


 単に力が足りないからかもしれないが。


 私は少し小走りで赤いカウンターまで向かった。


 ご飯は木の皿に盛り付けられており、食具も木で作られている。


 水もあり、これは紙コップだ。


 献立は味噌汁とお米、シャケの塩焼きだ。


 和の要素がたっぷりの軽いご飯。


 洋風かと思ってたけど、以外に和風だった。


 興味本位でサユの方を見てみる。


 ……なにあのご飯。


 高級感が抑えきれなくて溢れ出してるんだけど。


 食具も、なんか種類いっぱいあるし。


 顔が整っているせいか、芸能人みたいに見えるのは私の気のせい?


 知っている限りのマナーも全て破ってないし、椅子に座る姿勢も綺麗だ。


 あとなんかテーブルの格が違いすぎて、違うところで食べてるみたい。


 こっちは木のテーブルで、あっちはテーブルに白い布と赤い布が被さっている。


 材料を持ってくる、持ってこないでこんなに変わるのかな?


 それともここにくる前の貧富の差?


 まあ、美味しいから別にいいけど。


 説明書にも衣食住は保証するって書いてあったし、餓死の心配はないから安心だ。


 エリアのルールに従いながらサバイバル、か。


 私は戦いを思い浮かべながら、疑問点や改善点を見つけていく。


 もしかしたら、あの妖精はまだ生きているかもしれない。


 いや、もしそうだとしたらサユに私たちを運ぶ余裕はない。


 待って、なんでサユは戦闘初心者なのに妖精より強かったの?


 疑問ばかりが思い浮かび、改善点を考える隙がない。


 悩みに悩み、私は一つの道に辿り着いた。


 思考を放棄しよう。


 考えてばかりでも何も解決しないし、そもそもこんないい時にこんなこと考えなくてもいいよね?


 うん、後で考えよう。


 今はこの、美味しい食べ物を満喫するんだ。


 時間は使い分けることが大事だからね。


 いきなり難易度高いけど、私たちに退路はないし。


 早速、頑張っていきますか!


 未来の自分に思考を託した私は、お気楽に考えることにした。


 一度の人生、少しは息抜きしてた時があってもよくない?


 言い訳なのは分かってるけど、そうでもしないと精神が壊れる時が早くなる。


 敗者は原因を知らずに、結果だけを求める。


 勝者は原因を追求し、次に活かすための努力をする。


 知識はあっても、それを実現する力がない人は生き残れない。


 だってそうでしょ?


 どこに行っても弱肉強食の世界。


 全ての生き物は、この法則に抗えないのだから。

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