春~五月晴れの日曜日のお昼から
3位で終わったかけっこの後、いくつかの出し物をはさんで、
「ダンシング玉入れ」があった。
玉入れをしながら、笛の合図とともにいきなり踊るのだ。
ボクの踊りはどうしようもなく下手くそで、観客席から指さして笑われているような気分になった。
実際に笑われていたかどうかはわからないけど。
そうこうしている間に、お昼休みの時間になった。
ボクはパパが早起きして場所を確保した保護者席のレジャーシートを探した。
木漏れ日のそそぐいい場所にボクたちのレジャーシートがあった。
そこにはすでに、ママが頑張って作ってくれたお弁当が広げられていた。
おにぎり、味付けうずらたまご、これはボクの家では運動会と遠足のお弁当に必ず入っている。
沢山のからあげ、エビフライ、ゆでたとうもろこし。
3段にかさなるお弁当箱に、おいしそうなおかずがたっぷりと詰まっていた。
デザートに朝まで凍らせていたみかんの缶詰もあった。
「けいた、かけっこ、惜しかったね」
パパが言った。
「けいたにしては上出来。3位だもん。」
ママも言う。
「けいた、その靴、今日初めて履くんでしょ。なんでもっと前に履いてみてならしておかないの」
そう言うまいかはすこし不機嫌そうだ。
「え、靴ってならさないとだめなの?」
ともともそんなことを思いもしなかったボクは逆に聞いてみた。
「だって少し緩いなら厚めの靴下はくとかできるじゃない」
そっか、そういえばこのスーパーパワー、いつも履いていた靴よりゆったりしていた。
「ママ、大きめ買ったんでしょ」
まいかがレジャーシートの横に脱いであるボクのスーパーパワーの裏を見ながら言った。
「今までのサイズだとすこしきつくなってるようだったから」
やはり、ママは大きめを買ったようだ。
「あーあ、靴が脱げなきゃ、けいた1位だったのに」
とまいかがおおげさにぼやいたが、
「そういうのをたら・ればっていうんだよ」
とパパが諭した。
これから新しく何かを買ってもらったら、試しに履いてみたり、使ってみたりすることにしよう。
ボクは心の中でそう思った。
お弁当を食べ終え、そろそろ児童席に戻るという頃、手を洗いたくなってまいかと水道のある所まで行った。
ちょうと、朝礼台の横のテントをわきを通り、校舎のまえに手洗い用の水道が並んでいる。
放送係のテントの横を通ったとき、そこにあすかが一人で座っているのが見えた。
公会堂なんかにあるような、茶色い横に長い折り畳みの机が置いてあり、パイプ椅子が並んでいた。
他の子も先生をいなかったけど、あすがだけがポツンとそこにいた。
机の上にペットボトルのお茶とコンビニの袋が見えた。
あすかは何かを食べていた。
よくみると、コンビニのおにぎりだった。
「6年生くらいになると一人で食べる方がかっこいいんだよね」
とあすかの姿を見たまいかが言った。
でもボクにはひとりでコンビニのおにぎりを食べているあすかがとても寂しそうに見えた。
目が悲しそうに下を向いていた。
今日はあのあすかに似たお母さんは来ていないんだろうか。
それにお父さんは?
その後も保護者席であすかのお母さんの姿を探したけど、見当たらなかった。
あすかを保護者席あたりで見かけることもなかった。
午後の部が始まり、1年生の最後の出し物もなんとか終え、
運動会の山場、対抗リレーが始まった。
何番目かにバトンを受け取ったまいかは前の子を抜き次に繋いだ。
まいかのチームが1位だった。
1位になったまいかたちはグランドを1周ウイニングランした。
「あれ、お姉ちゃんでしょ」ってクラスの子から言われて少し得意になったけど、
姉ちゃんは1位でお前は靴が脱げて3位かって言われそうでただ笑ってうなずいた。
運動会が終わって、ボクたちは一旦教室に戻ってから下校となるが、その前にすこしだけ
保護者と話せる時間があった。
パパとママ、おばあちゃんと会ったまいかはもちろん、リレーの戦績を誇らしげに自慢していた。
ボクが話しをする隙もなかった。
ぼけっと突っ立ちながら遠くにあすかがすぐに教室に戻っていく姿を見ていた。
一人校舎に消えていくその後ろ姿も、お昼の時と同じくらい寂しそうだった。