春~梅雨の前の猛暑はまだまだ続く
ボクの目標が決まった。
「運動会のかけっこで1位になる」
そのためにできることを考えた。
まずは、靴、スニーカーだ。子供用の速く走れる、と評判のスニーカーがいくつかある。
快速、とかスーパーパワーとかいうやつ。
ボクが普段履いているスニーカーはショッピングモールに入っている大きな靴屋で買った、
ノーブランドのものだ。
たぶん、特売の品だと思う。
その点、毎年リレーせんになるまいかは、新品のスーパーパワーを買ってもらっていた。
久しぶりに家族全員で夕食を食べた日、ボクは言ってみた。
「運動会用にボクもスーパーパワーがほしい。快速でもいいけど」
すかさず、まいかが言う、
「けいた、かけっこビリじゃん。そんな靴いらないよ。靴に頼ったって速くはならないよ」
ママもそうだ、と言わんばかりに頷いている。
じゃ、まいかもいつものスニーカーでリレーはしればいいのに。足が速いのに靴は関係ないんでしょ。
「けいた、かけっこで速く走りたいのか?」
パパが聞いてきた。いつも仕事で帰りが遅いパパは夕食時に帰宅しているのは珍しい。
「かけっこで1位になる」
ボクは宣言した。
まいかは大笑いし、ママも笑っていたけど、パパだけは、
「じゃ、速く走れるように練習しよう。けいたが早起きできるなら、パパが会社に行く前に公園に行って練習しよう。新しいスニーカーはそれから考えよう」
こうして、早朝のかけっこ練習が始まった。
ボクは頑張って早起きし、パパと近所の公園に行って練習をした、
「けいた、スタートが大事だ。用意!と言われたら1,2,3くらいで飛び出すつもりで」
パパの「ようい、ドン!」の掛け声に合わせて走り出す練習を何度もやった。
そして腕は大きく振り、足は太ももを高く上げる。
公園に散歩で来ているワンちゃんたちも一緒に走った。すぐに抜かされたけど。
ボクとパパのかけっこ練習は雨が降った日以外、毎日続けられた。
練習を始めて何日か経った頃、まいかもついてきた。
まいかと一緒に「ようい、どん!」で走り出す。
さすが、まいかは速い。あっという間に走り去っていく。
「お姉ちゃんははやっぱり速いんだね」
そういえば、リレーでまいかが走っているときに誰かに抜かされているところを見たことがない。
「けいたも前の体育での練習のときより、ずっと速いじゃん。なんかサマになってるし」
あ、前のビリになった練習。まいか、見てたんだ。
その日の夕食の時、まいかが
「けいた、かけっこ練習、すごくがんばってるよ。スーパースパワー履けばもっと速くなるかも」
とママに言った。
正直、まいかからは
「どんだけ練習したってだめだよ、けいたは」
とか言われると思ってた。
運動会まであと1週間を切った。
梅雨入り前のこの季節。草木の息吹が満載で新緑の香りがあちこちに漂っているけど、
なんせ、暑い。気温は連日25度を超えている。
水分補給ように水筒は必需品だ。
1年生が持つには少し大きいだろう、という水筒をママが用意してくれたけど、
毎日、帰宅するころには空っぽになっていた。
そんな水筒を斜めにかけ、ランドセルを背負ってギラギラと輝く日差しに照らされながら
家に帰ると、珍しくママがもう帰宅していた。
そして、リビングのテーブルの上に、スニーカーの箱が置かれていた。
「スーパースパワーDX」と書いてある。
あの速く走れると評判のスニーカー、スーパーパワーの最新モデルだ。
「これ、探すの苦労したんだよ。どこも売切れで」
ママが箱からスニーカーを出しながら言った。
黒地に白のラインの入ったスニーカーが姿を現した。
このスニーカーでボクはかけっこ1位になる。
運動会はこの週末に迫っていた。