春~梅雨の前の猛暑は続く
運動会の練習が始まった。
入学してしばらくは名前順で並ぶことが多かったが、
身体測定をしてからは、背の順で並ぶことになった。
男子と女子が別々で2列に並ぶ。
ボクは前から3番目だった。
運動会は小学生にとってかなり大きなイベントらしい。
家では姉のまいかが運動会について熱く語ることが増えていた。
「あたしは、今年もリレーせんだと思うわ」
リレーせん、というのはリレーの選手らしい。
リレーせんに選ばれるのは各クラス、赤白各組から男女1人ずつ。
まいかは1年生の時からリレーせんに選ばれている。
去年も、一昨年もまいかが出場するリレーのために、ボクも応援させられた。
「けいたは無理だね、リレーせん。足、おっそいし」
言われなくてもわかっている。まいかがいちいち気に障ることを言うので、だんだんと腹が立ってきた。
「けいたは運動苦手だもんね。お友達に誘われてサッカー教室に通ったけど、ボールけりもしないで
グラウンドの片隅で砂遊びしてたしね」
ママまでなんだか言い始めた。女性陣は結託すると歯止めがきかないようだ。
「リレーに出なくたって、かけっこがあるもん」
ボクは反論してみた。
「かけっこ?おこちゃまだなー1年生の出し物は」
たしかに3年生のまいかは「徒競走」というらしい。
「幼稚園の運動会で、けいた、かけっこでよーいどんって言われて逆に走っていかなかったっけ」
あーいらんことを思い出したな、まいかのやつ。
「そうそう。ゴール寸前に立ち止まってお友達待っててあげたり」
「待ってたお友達が先にゴールしちゃったんだよね」
ママとまいかのボクの運動会のドジ話は終わらない。
「もう小学生だよ、逆に走ったり、ゴール前で止まったりしないから」
やっとのことで、少しだけ言い返してみた。
が、ママとまいかはその後もしばらくボクの話題をやめることはなかった。
学校での体育の時間に50メートルのタイムを計った。
早い子だと10秒くらいで走れるらしいけど、ボクのタイムは12秒を超えていた。
当然、リレーせんにも選ばれず。
その後、かけっこの本番さながらの練習をした。
校庭の前の方に、白いラインがひかれている。
5人ずつ、一緒に走る。
スタートラインにつくと、先生が黒いピストルをもってそばに立った。
「用意!」と掛け声がかかり、ボクは片足を後ろにひき、
腕を曲げ、いつでも走り出せる姿勢をとった。
バーーン! ピストルの音が鳴った。大きな音で驚いたが、
出遅れることなく駈け出すことができた。
50メートル走のコースはまっすくだから、この先に見えている白いテープ目指して走る。
なんだか、足がよく動く。お、いけるかも、と思った瞬間横を走る子が前のテープに飛び込んでいくのが見えた。
ボクは、5人中5番目でゴールした。つまりビリだった。
ゴールすると、順位ごとに列に並ぶ。
自分では何位だったかわからないから、上級生がボクたちをつかまえてそれぞれの順位の列に並ばせる。
息を切らせてゴールしたボクの肩をつかんで誰かが「5位」と書かれている旗のところまで連れて行った。
1位と2位は最後に表彰というのがあるらしいけど、
5位まで旗の下に並んでる必要なんかあるんだろうか。3位以下はみんな一緒でいいじゃん。
そんなことを思って下を向いていたら、
「あ、けいた、やっぱしビリなんだ」
という声が聞こえた。
顔をあげるとそこにはあすががいた。
「私は1位の子を並ばせる係なんだ」
そういうと、次にゴールしてきた1位の子の手を素早くつかむと、
1位の旗のところまで連れて行った。
そこでハイタッチしてその子を列に並ばせる。
なんかかっこいい。
ボクも1位になればあすかとハイタッチしてあそこに並べるんだ。
ボクの目標が「かけっこで1位になる」と決まった瞬間だった。