春~季節は巡る
暖かい日が続き、木々が芽吹き始めた。
桜のつぼみもふくらみ、一斉に咲こうとしている。
4月になった。
春休みが終わって、またボクは学校に行く。
2年生の始業式だ。
1年生と2年生はクラス替えがないから、あまり変わり映えはしないけど、
教室の場所が変わった。
いままでボクたちが使っていた教室は、綺麗に掃除されて
新しい1年生を迎える。
明日の入学式のために、黒板には「にゅがくおめでとう」という文字と
桜やなんかの楽しそうな絵が描いてあった。
始業式が終わって、今日はもう下校だ。
校門に行くとそこにはこの前卒業したばかりの元6年生がたくさん来ていた。
始業式の日に中学の制服を着て小学校に集まるのが恒例行事になっているのだそうだ。
制服を着た元6年生たちは、みんな大人っぽく見えた。
この前までランドセルをしょってたのに。
そのなかにあすかの姿があった。
ボクは無意識、いや意識的に探していたらしい。
私立の中学に進んだあすかは、みんなのとは違う制服を着ていた。
チェックのスカートにグレーのブレザー、胸元にネクタイをしていた。
黒いバッグを肩から掛けて、ハイソックスに黒のローファーを履いた姿は、
なんだかアイドルのようだった。
もう小学生じゃない、ランドセルは似合わない。
もうここはあすかの居場所ではないんだ。
なんだかそう思った。
元6年生たちはそれぞれ元担任の先生と話したり、友達同士で盛り上がったり
していた。
あすかも何人かで話していたがやがてボクと目が合った。
いままでだったら、あすかのそばに行って話しかけるんだけど、
今のボクはためらった。
だって、ボクはあすかに失恋したんだから。
失恋、という言葉は同級生の女の子に教えてもらった。
その子は2月のバレンタインデーの日にボクにチョコレートをくれた。
学校でのチョコを渡すのはだめですよと言われていたから、
学校からの帰り道でもらった。
学堂クラブに行ってからだったから、もうあたりが暗くなっているような時間だった。
その子は、ボクが通る通学路でずっと待っていてくれたらしい。
ボクはチョコをもらって嬉しいのはうれしかったけど、その子に対しては
好きでも嫌いでもなかった。
ママにチョコをもらったことを話すと、
「じゃホワイトデーにお返ししないとね」
と言った。
1か月後のホワイトデーのことだ。それは知っていた。
でもそれまでの1か月間、ボクはチョコをくれたその子に
話しかけるわけでもなく、ただのクラスメイトにすぎなかった。
1か月後のホワイトデー、ママがお返しを用意してくれていたけど、
ボクはその子の家を知らないし、帰りに待ち伏せする気にもならなかった。
ホワイトデーのお返しも、学校内では渡せなかったから。
どうしようかと思案していると、
まいかが、その子のお姉さんが同じ塾に来ていて、お母さんとその子出迎えに来るから
渡してくれる、と言ってきた。
ボクはその子へのお返しを、まいかに頼んでしまった。
その後、その子が別の友達に
「けいたにフラれた。私に興味がないんだって。失恋しちゃったよ」
と話しているのを聞いた。
ボクは嫌いだって言われることがフラれることだと思っていたけど、
ちがうんだね。
確かにボクはその子に興味がなかった。
今以上に知りたいとも話たいとも思わなかった。
それって嫌いじゃないけど、好きでもない。
ボクのことを好きだと思ってくれていたその子にとっては
失恋、ってことになるのか。
ボクはその時はじめて失恋という言葉を知った。
それなら、ぼくに守らせてくれない、って言ったあすかに
ボクは失恋したんだ。
そうか、これは失恋なんだ。
元6年生たちと、下校する在校生が大勢でごったがえしている
校門付近で、ボクはそんなことを思っていた。
ボクとあすかは遠くから見つめ合っていた。
ボクとあすかの間に春の風が通り抜けていく。
いっしょに桜の花びらを散らせながら。
新緑の香り、春の空気のにおいがする。
去年、ちょうど入学式の時とおなじにおいだ。
ボクの初恋のひと、
あすかのいないこの学校で、
ボクは2年生になる。
そしてこれからもここで、過ごしていく。
けいたの1年が終わりました。
これで一応完結です。
すこしインターバルをおいたら続編、それぞれの青春篇を綴りたいと思います。
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