冬~日が長くなってきた
6年生とのお別れ会が始まった。
ボクたち1年生とあすかたち6年生が、
お互いに向かい合うように並んで座った。
1年1組と6年1組が向かい合っていたから、
あすかのいる3組はだいぶ先だった。
司会の先生がなんだかいろいろ話している。
そして、教室を少しくらくすると、前方に大きなスクリーンが出てきた。
4月からのボクたちと6年生の様子がスライドや動画で映し出された。
入学式の日、手をつないでくれる6年生がおらず、
ぼけっと一人でたっているボクも映し出された。
この前の春のことなのに、とても懐かしい気がした。
なんだかすごく前のことのように思った。
そしてそれと同時に、あっという間に今になった、とも感じた。
時間って不思議だ。
流れるばかりで後戻りができない。
長く感じる時もあれば、短く感じることもある。
たとえば、学校で初めてのプールの授業の前の時間。
たしか、国語だった。
ものすごく長く感じた。
いつまでたっても、この時間が終わらないんじゃないか、って思うくらい。
それでも国語の時間は過ぎ、プールの授業になった。
それから、もう何か月もたった。
あの、長くてたまらなかった国語の授業、その時に戻ることはできないんだ。
今、この瞬間だって時間は過ぎていく。
今のボクをここに残したままボクはどんどん遠くにいくんだ。
そして、何年もたって大人になるんだ。
そう思った今のことをボクは忘れないだろう、
ボクが大人になったとしても、
今、を感じたこの時のことを。
今、この時にはあすかが同じ空間にいるんだ。
スライドの上映が終わり、教室が明るくなった。
それから、ゲームをしたり、歌をうたったりして過ごした。
そして、いよいよボクたちがあらかじめ用意しておいた
メッセージカードを渡しに行く時が来た。
司会の先生の
「1年生が思い思いの言葉をかいたカードを6年生に渡しに行きます。
6年生は受け取ってあげてくださいね。ではスタート!」
という声で、1年生は一斉に立ち上がりお目当ての6年生を探した。
ボクはあすかにカードを渡すべく、彼女を見つけにうろうろしていた。
教室内はいろんな人が行きかい、混雑していた。
そんななか、カードを貰えず、ポツンとしている6年生もいた。
やっとあすかの姿をみつけた。
既に、何枚かカードをもらっていて、しかも何人も1年生が順番待ちをしていた。
あすかが一人になるのを待つべく、近くで様子をうかがっていた。
すると、先生がこっそりやってきて、
「きみ、まだカード渡してないの?誰に渡してもいいカードだったら、
あそこにいる子にあげてくれないかな」
とささやいた。
先生の視線のさきには、ひとりポツンとしている6年生がいた。
いやいや、もらえない6年生がいるってことくらい、先生、わかってたでしょ。
なんで手を打っておかないんだ。
ボクはあきれてしまった。
ボクのカードはあすかに宛てて書いたものだから、
他の人には渡せない。
「ボクのカードは誰にでも渡せるのじゃない」
というと先生は、別のカードをボクに持せると、
「これ、あの6年生に渡してきて」
と言った。
手は打っていたんだ。
でもこれってやらせだ。
ボクは仕方なく、渡されたカードを一人でポツンとしていた6年生に渡した。
眼鏡をかけて、背の高い6年生はすでに声変わりしている
野太い声で
「ありがとう」
と言って受けとった。
べつに嬉しそうでも、もらえなくて悲しそうでもなかった。
それから、やっとあすかのところに行き、
カードを渡した。
あすかとあすかのお母さんとのやり取りを聞いた日に書いたカード。
ボクはあの日、あすかのお母さんに怒りを覚えていた。
本当だった、その場でカードを開けて読んでくれるはずだったのに、
ボクがカードを渡したところで、
先生がみんなに席に戻るように声をかけた。
お別れ会は終わり、その後しばらくして下校した。
校門まで行くと、ボクがカードを渡したポツンと一人だった6年生がいた。
ボクの姿を見つけると、近寄ってきて人けのない所まで連れて行った。
「これさ、渡す人間違えてるよね」
そういってボクが渡したカードを出した。
これは、あすかに渡すはずだったカードだ。
ということは、ボクがあすかに渡したのは先生が用意した、
ヤラセのカードだ。
あ、やってしまった。
あすかに宛てたカードをこの6年生が読んだんだ、と思うと
どうしようもなく恥ずかしくなった。
そのままカードを捨てて帰りたくなった。
「これ、ちゃんと渡せよ」
6年生はそう言った。
ボクのカードを見て笑うこともなく、
真剣に言った。
「これ、渡さないと後悔するよ
今なら校門にいる」
ボクにカードを返しながら、ボクの背中を押した。
その言葉はボクの心も押していた。
校門に向かうと、あすかがいた。
ボクは、
「渡すカード、間違えたみたい」
そういって改めてカードを渡した。
あすかは受け取ってくれて、中身を見た。
しばらく黙っていた。
そして、
「うん、ありがとう」
とだけ言った。
そのカードには
「あすかは夢をかなえて。あすかのことはボクが守るから」
と書いてあった。
その日の空気は少しだけ春の香りがしていた。
子供の時間と大人の時間、流れ方がちがいますね。
応援していただけると感激します。




