梅雨明けから初夏~夏が来る
7月に入り、「夏休み」という言葉があちこちから聞こえてくるようになった。
学校でも体育の時間はプールの授業になった。
ボクは運動は苦手だけど泳ぐことは出来た。
小さいころから、スイミングスクールに通っていたからだ。
幼稚園に入った頃、何か運動をしたほうがいいってことになって
まいかと一緒に近くのスポーツクラブにある子供用のスイミングスクールに通った。
別に泳ぐことは好きではなかったけど、水が怖いなどとは思わず楽しく通っていた。
ママも別に水泳選手にしたいわけでもないようで、
スイミングスクールで設けてある、レベル別のコースで他の子に抜かされようが
構わない様子だった。
同い年の子がほとんど上のクラスに行ったのに、ボクだけ取り残されたときには
悔しい気持ちがあったんだけどね。
学校の水泳の授業は1年生は最初みんな一緒でプールになれるところから始まった。
プールサイドに座って、足だけを水に入れてバタバタしてみるとか、
プールに入って、ゆっくり歩くとか。
同じ1年生でも、スイミングスクールに行ってない子も大勢いて、
大きなプールに入ったこともないという子もいた。
学校でプールが始まったころはまだ梅雨が明けておらず、
雨が降ってプールの授業が体育館でのいつもの体育に変更になることもしばしばあった。
何度目かのプールの授業のある日、その日は朝から晴天だった。
今日は、1年生と6年生が合同でプールの授業をする。
毎年、6年生は何人かが代表に選ばれて、地域の水泳大会に参加するのだそうだ。
あすかはきっと泳げるんだろうな、選手に選ばれるのかな。
そんなことが頭をよぎった。
水泳の授業の前の休み時間、
ボクたちは隣のクラスに移動して水着に着替えた。
女子と男子は別々の教室で着替えるんだ。
1年生になって、学校指定の紺色の海水パンツをママが用意してくれた。
あと、お気に入りの車のイラストの付いたバスタオル。
そしてスイミングスクールでも使っていたゴーグル。
これを同じくお気に入りの車のイラストのビニールでできたバッグに入れる。
これがボクの水泳道具一式だった。
水泳の授業が始まった。
今日は1年と6年、大勢がプールにいる。
先生の話が聞こえないから、手持ちのスピーカーみたいなものを
持ってしゃべっていた。
授業も終盤になったころ、先生がプールに碁石をたくさん投げ込んだ。
1年生と6年生で碁石を拾うゲームをするのだ。
笛の音とともに、みんなプールの底に沈んでいる碁石めがめて
潜った。
プールの底に向かって泳いでも体が浮き上がってしまって
なかなか拾えなかなかったけど、なんとかがんばっいくつか拾えた。
潜るのができなくて、まったく拾おうともしてない子も数人いた。
そういう子は6年生が拾ってきた碁石を預かる役目をしていた。
また先生が笛を吹き、碁石拾いが終わった。
1年生と6年生、また同じ組同士で仲間になる。
ボクの1年1組は6年1組と拾った碁石を一緒にして数える。
その結果、1番多く拾ったのは3組、それから2組、1組は一番少なかった。
要はビリだった。
結果発表があると、3組がみんな一緒になって大きな歓声を上げた。
ボクたちは黙って拍手を送った。
ボクの視線の先にあすかがいた。
あすかは数人の1年3組の子に囲まれて嬉しそうに笑っていた。
6年生の女子は日焼け防止のラッシュガードという水着素材でできたTシャツのような
ものを着ている子が多かった。
あすかはラッシュガードは着ていなかった。
スクール水着から伸びている長い手足が印象的だった。
そしてなにより、真っ白な肌が目に焼き付いた。
この時期、まだ日焼けをしている子は少ないけど、あすかの肌はほかの誰より
白く透き通っていた。
プールの授業のあった日は下校の時間になるとくたくただった。
帰ったら昼寝したい。と思いながら、水を含んですっかり重くなった
プールバッグを抱えて校門に向かっていた。
校門を出ようとした時、同じく帰るところだったあすかと出くわした。
今日は珍しく帰り時間が同じだったようだ。
「夏休みになったら夏期講習、来るの?」
ボクをみつけるとあすかが聞いてきた。
この前の塾で見ていたんだ。
あすかは
「1年生の夏期講習は短いから、あんまり会えないけど楽しみだね」
と言った。
ボクはその言葉の意味をよく呑み込まないまま、あいまいにうなずいた。
太陽が照り付け、木々で陰になっているところとのコントラストが綺麗だった。
あすかはバイバイというと小走りに校門を出ていった。
そしてボクの帰る方向のは逆の道を進んでいった。
どこかでセミの鳴き声がきこえていた。
その日、梅雨は明け、夏がやってきた。
あすかの後ろ姿をみつめながら、
ボクは日差しに照らさたまだぬれている彼女の髪をただ眺め、
「楽しみ、か」とつぶやいた。
夏期講習が待ち遠しいと思った。




