白いバラには棘がある。
火、電撃、氷など色とりどりの魔法を日本刀で切り裂きながら、教員の魔法使い達を薙ぎ倒していく一鉄と、一方で炎を指先から銃撃のように放ち的確に当て倒す風音。
二人とも被弾による負傷をものともせず、次々と攻略してゆく。背中合わせにしては、まだ残っている8名の魔法使いに囲まれ、やや息切れしていた。
「一鉄くん、まだいけるよね?」
「当たり前だ。はぁ、風音さんほど弱くないからな」
「よくいう!」
容赦なく八方から魔法の攻撃、それを風音が瞬間移動の能力で少し距離のある場所へ。
教員達は何が起きたのか分からず戸惑い、うち一人が指差す方に移動している事に集団で気づく。
気づいた瞬間に風音が強い炎の能力で焼き払い一網打尽にした。
「中々手こずったね。やはりこの世の魔女は得体がしれないよ」
「全くだ。お前もだが」
「うちは事情があって悪者してるの! 邪魔しないで!」
「うるせーな! って、後ろ!」
再び接近されている事に気づかない風音、背後には銀髪でとても長い髪の毛をした、軍服のお姉さんが腕を組んで仁王立ちしている。マントが強風によってなびく。
「お似合い夫婦漫才だね。警視庁とヴィランのトップさん達」
誰だ! と二人で同時に言っては、軍服のお姉さんは横髪を手でいじりながら余裕そうな笑顔でタバコを吸う。
「わたしは佐倉真由利。飛行船アズールの艦長をしている者だ。教員達がだらしないので船を護れないと判断し、出てきたまでだ。それはそうと……」
一瞬で風音の目の前に移動、そして親指と人差し指を使って顎を支え、顔を近づける。
「な、なによ。うちそんな趣味」
「ヴィランさんのトップってこんなにあどけないのね。それはそうと、わたしと同じあの無能力の小説書きみたいに、消えたいか?」
「それは言うな! うちの友達だ!」
全力で真由利を突き放す。力量の差では真由利の方が上だが、わざと突き放される。
その光景に一鉄は固唾を呑んで鞘に収めた日本刀をいつでも抜刀するよう、構えている。
「お前の目的は、俺達を倒す事か。教えてくれ」
「違う。風音ちゃんと言ったか? 可愛いのでお持ち帰りする」
「……は?」
もう1回風音に猛接近、腕を掴んでは軽々しく宙返りさせ、お姫様抱っこ。ジタバタ真由利の腕の上で暴れるが能力が発動する事もなく、ただ可愛らしい光景がある。
「離せ! 帰る! うわあああ……」
真由利が階段を上がったのち、階段を船に収納し、飛行船はどこかへ姿をくらませた。気づけば倒れていた教員達の姿もない。
そのまま夕暮れの空を眺める一鉄は、一言。
「なんかよく分からないが、まあいいか」