魔法学園アズール、そして校長
警視庁の建物を飛行船が丸ごと影を作り覆う。
建物の屋上には日本刀を腰にたずさえ、一鉄と部下の警官が人達数名がいる。後ろ側でヒソヒソ話しながら、何が起きるか分からず震えている。
「おい…俺たちなんも魔法とか超能力とか使えないんだぜ…?」「な。なんでよりによって」「ここで命落としたくねえ」
そんなヒソヒソ話をものともせず、飛行船の出入り口からはやや老朽化した厳かな、巨大な階段が伸びてくる。階段の先端が着地して建物全体を揺らす。
ゾロゾロと出てくる魔法使いのマントを羽織った魔法学園アズールの教員達が約30名ほど走って出てきた。一斉に魔法杖を床に突き乾いた音を鳴らして合図。妙に暑苦しい少しの間を置いてから出てきたのはかなりふくよかで宝石を沢山身体中からぶら下げた老婆だった。のっそりと階段の左右にいる教員達の間を通り、一鉄の前に立つ。
「貴方が、白銀一鉄さんですね? 生徒を助けてくれた一人として、感謝します」
パイプのタバコをこれでもかと吸ってから一鉄にかからないように横を向いて煙を吐く。一方で一鉄は気を遣われているにも関わらず、眉間にしわを寄せて右手は日本刀に触れたまま。
「助けたのは俺じゃないですし、そちらの生徒さんと部外者のおかげです。それはそうと、要件は"お礼じゃない"でしょう」
一鉄の発言に突拍子もない発言に部下は何を言い出すのかと、数名身を寄せてさらにビビり散らかす。
そこで遅れて歩いてきた翼が前髪の髪飾りをポケットに入れた状態で、赤いフチの眼鏡をかけ片手を腰に手を当てて校長に鋭い目線を向く。
校長は慌てたり何かリアクションを取る訳でもなく、パイプのタバコを教頭に渡して、代わりに幾つもの宝石が入った袋を受け取る。
「提携を結びましょう。これだけではなく、関係が続けば更なる利益が、」
が、の時点で一鉄が日本刀を鞘から抜く。言葉は発せずともその気が無いのが紫色の静電気を通して伝わるようだ。
「まずこの機関は善良な市民を護り、そして極力公平でなければならない。もう一つは、貴方は幻の天空都市の資料を盗むのが目的だ。違いますか」
「どこからの差し金か分かりませんが、協力しない、と解釈していいですね?」
ね? のタイミングで翼の眼鏡にヒビが入る。目の負傷を考え眼鏡を外す。
振り返らないまま「お前達は逃げろ」と翼や警官の部下達に指示、翼はやや不満げでありながらも命令なのでそのまま階段をつたい下へ降りる。
と、突如一鉄の窓なりに突拍子もない大きくて眩しい紅い火柱が立つ。火柱が徐々に弱まり、中から猩々緋風音が姿を現した。
「お前…そういや魔女嫌いだったな」
「どうもどうも! 折角だし都合いいでしょ。共闘」
「やむを得ない」
風音の登場に歯ぎしりをギリギリ鳴らし、持ってた袋の宝石を投げ捨てては地団駄を踏む。
「お前たち! やっておしまいなさい!」
と、指差してから瞬間移動の魔法で姿をくらます。
アイコンタクトで風音を一瞬視線を合わせながら、先に一鉄が前に出た————