火花
「やれやれ、またアイツらか。南美は先に戻っててくれ」
「うん! 気をつけてね」
南美は片手にせんべいを握りながら、心配そうにもう片方の腕を振って警察庁へ。
呆れつつも一鉄は不敵な笑みを浮かべて、腰のさやに収めている日本刀を手を当てる。ただ傷を与える能力があるだけではなく、長年練り込まれた強い妖力も持つ。
何があってもいいよう、常に抜刀の姿勢を崩さないようにしつつ、さほど遠い距離ではないので徒歩で現場へ向かう。
気温もそれなりに高い頃合いの正午かなり過ぎた時間帯、謎の地鳴りと空中で停止している飛行船アズールに、人々は野次馬の塊を作り騒然としていた。
このままでは先に進めないので、少々時間はかかるが迂回する道を選択し、アイツらの一人の手下がいないか警戒して進む。
やがて現場付近に着く。飛行船アズールが巨大な影を作り、一体は薄暗い。が、衝突している大きな魔力二つがまばゆい炎と光を放ち、辺りの自然物を次々破壊する。
残された木々や岩の陰に一鉄は身を潜め、様子を伺う。
「…なんだ? いつも通りの二人だが、ドロテアの様子がおかしいな」
名前はドロテア シャイン。金髪の魔女で緑色の目、年齢としては一鉄の5つほど上であり元々上司だった人物でもある。ある事件をきっかけに退職したが、個人的に今激突してる相手を追い回しては闘っているのだ。
もう一方は赤毛のロングヘアーで、青いアクセサリーが特徴的な20歳そこそこ過ぎの女性。猩々緋風音と言い。父親は元々警察庁のトップだったが汚職や犯罪が発覚し辞退に。その後の行方は少なくともこの場にいる人間達には分からない。
現在は彼女自身が猩々緋財団を立ち上げ、超能力や魔法に関わる活動を行っている。
その背後で、飛行船アズールの魔法科の学生、ドロピアが炎の縄で身体を拘束され、人質にされていた。絶妙にダメージが行かないように温度などが調整されているが、傷つかない原理は謎だ。
(とりあえず警察庁に連絡して、仲間を呼ぶか。スマホは…あった)
一鉄がスマートフォンを取り出すと、岩陰にいるにも関わらず火の粉を放ち、たちまち宙を舞った。
「うちが分からないと思った? 白銀一鉄くん」
「流石ですね。でも、上空にはアズールがある。機関への通報は既に行われているのでは?」
「あなたに仲間呼ばれると厄介だからね。時間稼ぎだよ」
一鉄の隣にボロボロのドロテアが移動する。魔法使いの杖、長さは持っている本人と同じぐらいで使っている魔法の影響でうっすらと光り輝いている。
「久しぶりだな白銀。説明は後だ! まずは人質を助けるぞ」
「分かりました!」
すかさず日本刀を抜刀する。刃の周りには紫色の静電気が、視線と視線の間のように火花を散らす。