お魚咥えた人
カナイの襲来の事件以来、勝利は収めたものの、不信感が拭えず即座に飛行船アズールの艦長を辞任した真由利は大都市第2区域のとある商店街を私服で、曇り空の下曇った表情で途方に暮れ通行人達とすれ違う。
途中「緑川探偵事務所」の看板がある建物を久しぶりに目にした。
「あの、緑川少年のいた探偵事務所か。今更用事はないどころか、遭遇したくなかったな。さっさと別の場所に行かなくては」
そう呟いた矢先に不幸にも事務所の扉が軽々しく開く。
出てきたのは白いワンピースを着た銀髪の女性、お魚咥えて真由利と、おでことおでこで衝突する。
「痛いです! 誰ですか人の家の前でぼーっとしてる美人でスタイル良くて綺麗な赤い目をしている妖艶なお姉さんは! 許します!」
「まるで何言ってるか分からないぞ……」
呆気に取られて少々ぼーっとしてしまったものの、すぐに我に返り「さらばだ!」と言って立ち去ろうとする。しかし、生憎手首を握られて止められる。
「ダメです! お詫びしなくては! お姉さん事務所に来てください!!!」
「いやだ! 今度はわたしが引きずられる!」
怪力に自信のある真由利であってもこのパワーである。久々に感じる力の劣勢に怯えつつも泣く泣く事務所の中へ。
「相変わらずコーヒー臭いな、ここは」
キッチンの見えるリビングにはガラスのテーブルと、長めのソファーが二つ、向かい合わせの形で配置されてあった。片方のソファーに真由利は座り込む。
「さあ珈琲どうぞ! あと、茶菓子です! 作ってた余りの焼き魚も!」
「あ、ああ。どうも」
軽く一口コーヒーをすする。それから茶菓子もお淑やかに食べたところで、謎の女性が対面で座り鼻息を荒くして前のめりになった。
「事務所見てたという事は、探偵依頼ですよね! ね!」
「違うんだ。ちょっと、懐かしくなってしまって。今は違うお方が切り盛りしてるんだな。わたしは佐倉真由利と言う。お名前は?」
「はい! ツクモと申します! なんだ、依頼じゃないんですね。しょんぼり」
しょんぼりとしなびたお菓子をかじる。ついでに砂糖たっぷりに紅茶を飲み、またしなびたお菓子を口に。無限ループって怖くね?
「こんな場所で言うのもアレであるが、悩みを聴いてくれるか」
「そういう時もありますよ! どうぞ!」
若干、窓から見える空は少し光の切れ目が見えていた。




